天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒(猫宮乾)

第1話 カバンのぬいぐるみ


 初秋。

 夏休みも終わり、深珠東嶺みたまとうれい中学校の一年二組の教室はさわがしい。


「スミレ、あのカバンのぬいぐるみなに?」


 天月あまつきスミレが机に座っていると、となりの席の酒田南さかたみなみが声をかけてきた。その言葉に、スミレは教室後方のたなへと振り返る。スミレのたなには、茶色いクマのぬいぐるみが入ったカバンがある。


「今日、深珠神社に供養くようしてもらいにいくの」

「ああ、人形供養してるもんね」


 南が何度かうなずいた。それから教室の前方、窓際の前から二番目の席をちらりと見る。


「深珠神社、かぁ。菅原くんのおうちなんだよね」


 その声に、スミレも視線を向けた。

 菅原龍樹すがわらたつきは、非常に整った容姿をしていて、勉強も運動もできる。ただ、ちょっとクールといえばいいのか、あまりしゃべらないし、笑うことも少ない。スミレはほとんど話したことがないし、特に話したいと考えたこともないが、龍樹を好きな女子は多い。南も龍樹のファンの一人だと、スミレは知っている。


「はぁ……カッコイイ……」


 小声で南が言う。なんでも南が言うには、恋ではなく推しらしい。

 スミレが南に視線をもどす。その時だった。


「スミレ、英語の辞書貸してくれ」


 教室の入り口から、声がかかった。スミレは思わず半眼はんがんになる。そこには、兄の和成かずなりが立っていた。兄と言っても、四年前に両親の再婚さいこんで兄妹になっただけで、血が繋がっているわけではない。


「お兄ちゃん、声が大きいから」

「ん。あと、母さんから伝言で、今日はおそくなるって」

「分かった」


 後ろのたなから英語の辞書を手に取り、スミレは和成に渡す。するとひょいと持ち上げて、和成が一年二組の教室から出て行った。和成は二年生だ。ため息をつきながらスミレが机にもどると、南がうっとりしたような顔をする。


「和成先ぱいもカッコイイよね」

「そう?」

「あのちょっと意地悪そうなところが最高」

「ただ意地悪なだけだよ……」


 そんなやりとりをしていると、予鈴がなり、朝のショート・ホームルームのために担任の先生が入ってきた。


 まだ残暑がきびしくて、教室ではエアコンがついている。

 いつもと同じ朝だなと考えながら、スミレは前を向いた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る