海の神様、山の神様

聖心さくら

家に帰ろう

 水晶のような淑やかな少女と出会った。


 大学三年生、夏休みの初め。

 二泊三日の独り旅。

 海を見るために東京から出発して、

 日本海側の港町まで来た。


 美味しい物をに堪能して、翌日は神社で透明な蒼い鈴を買った。

 そうして満足した私は帰りの電車に乗った。


 海に沿って走る電車からは、

 夕日できらきらと輝く水面を一望できる。


「すてきな町だったな」

 そう言って、乗客が少ない車両で景色を眺めていた。


 電車が止まると、おびただしい数の学生が入って来た。

 背丈と顔立ちを見て高校生だろう。

 男子だけの集団もいれば、恋人かもしれない二人組もいる。


 静かだった列車内がお祭りのように騒ぎ出すと、

 私は耳を澄ませてこっそりと話を聞く。


「大学にいくの?」

「ようやく夏休みだね」

「あの人、東京の人じゃない?」


 こんな辺境の田舎町にも、たくさんの若者が元気に暮らしている。

 そんな見知らない人の生活を覗けることも、私が旅を続ける理由の一つ。

 とても悪趣味だけどね。


 無機質な社内アナウンス

 ――土丘の次は日暮屋です――

 と違って、生徒たちは生き生きと世間話を続けた。


 窮屈になった車内。

 リュックを膝の上に座らせて、お行儀よく背筋を伸ばした。

 東京の人は失礼だ、なんて思わせたくないから。

 疲れた重たい両手で、スマホを持てる気もしないから、

 学生の隙間から青い海を見る。


 こんなに綺麗な場所で青春を過ごせるなんて羨ましい。

 東京なんて無骨なビルと騒音しかない。

 そこから抜け出すために私は旅をしているのかもしれない。

 疲れでうとうとしているといつの間にか電車が速度を落す。

 それは駅に着いたしるし。

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