第4話 魔喰虎

「第三波」リィナの表情が険しくなる。「今度は――」

森の木々が大きく揺れ、何かが倒れる音が響く。そして現れたのは、これまでとは比べ物にならない巨大な影だった。


「魔喰虎」グラムが低く呟く。「こいつはでけえな」

魔喰虎――虎の魔獣の変異種で、体長は優に5メートルを超える。その体表は鋼鉄のような硬さを持ち、爪は城壁すら切り裂くと言われている。そして最も恐ろしいのは、魔法を喰らって自分の力に変える能力だった。


「厄介ね」リィナが舌打ちする。「爆薬の威力も吸収されちゃう可能性があるわ」


「だったら、物理で行くまでよ」グラムが戦斧を構える。


「いや、待て」ジークが制止する。「あいつ、一匹じゃない」


確かに、魔喰虎の周りには小さな影がうごめいていた。召喚された小型の魔獣たちが、主人を護衛するように群がっている。


「召喚型か」リィナが分析する。「つまり、本体を倒すまで子分は無限に湧いてくる」


「なら話は簡単じゃねえか」グラムが笑う。「でかいのを直接ぶん殴ればいいんだろ?」


「そう簡単には行かないわよ。あの護衛をどうにかしないと――」


「任せろ」ジークが剣を抜く。「俺が囮になる。その隙に、グラムが本体を叩く。リィナはサポートだ」


「危険よ、あの数を一人で相手にするなんて」


「大丈夫さ」ジークが不敵に笑う。「俺を誰だと思ってる?」

彼が前に出ると、魔喰虎が低い唸り声を上げた。その巨大な体が、まるで山のように立ちはだかる。


「さあ、踊ろうか」

ジークが地面を蹴った。光のような速度で魔喰虎に向かっていく。召喚された小型魔獣たちが一斉に襲いかかるが、彼の剣がそれらを次々と斬り払っていく。


「今よ、グラム!」

「おう!」

グラムが雄叫びを上げながら突進する。魔喰虎がジークに気を取られている隙を突いて、側面から戦斧を振り下ろした。


「でりゃあああああ!」

渾身の一撃が魔喰虎の側腹を捉える。だが、その硬い体表に阻まれ、深い傷を負わせることはできなかった。


「硬えな、この野郎ォ!」

魔喰虎がグラムに向き直る。巨大な爪が振り下ろされるが、グラムは大盾でそれを受け止めた。


「おう!いい爪だ!」

だが、魔喰虎の力は想像以上だった。グラムの足元の石畳が砕け、彼の体が後ろに押し込まれる。


「グラム!」リィナが叫ぶ。

この時、彼女は決断した。魔法を吸収されるかもしれないが、やるしかない。


「特製爆薬、最大出力!」

リィナが投げたのは、これまでとは桁違いに大きな爆弾だった。それは魔喰虎の足元で爆発し、巨大な爆煙を上げる。


「やったか?」

だが、煙が晴れると、魔喰虎はまだ立っていた。爆発のエネルギーを吸収し、逆にその体が光を帯びている。


「まずいな」ジークが呟く。「パワーアップしてる」

強化された魔喰虎の動きが速くなった。グラムの盾を押し切り、その巨体で彼を押し倒そうとする。


「この野郎ォ!」

グラムが必死に盾で支えるが、その圧倒的な力の前に膝をついた。


「グラム!」

リィナとジークが同時に駆け寄ろうとした、その時――


「がっはっは!面白えじゃねえか!」

グラムが突然笑い声を上げた。


「だがな、俺にはまだ奥の手があるんだよ!」

彼が戦斧を高く掲げると、その刃が赤く光り始めた。


「ドワーフ秘奥義――」

戦斧に宿った力が、まるで炎のように燃え上がる。


「大地砕斧撃!」

グラムが戦斧を地面に叩きつけた瞬間、大地が割れた。亀裂が魔喰虎の足元まで走り、巨大な魔獣のバランスを崩す。


「今だ!」

ジークが宙に舞い上がった。光の翼を背中に生やしたような美しい光景だった。


「天空光剣――」

空中で剣を構える。その刃に、これまで以上の光が集まっていく。


「星墜斬!」

天から降り注ぐような光の斬撃が、魔喰虎の頭部を貫いた。

巨大な魔獣が、ゆっくりと倒れる。その瞬間、周りの召喚獣たちも光となって消えていった。


「やったぜ」ジークが着地しながら笑う。


「がっはっは!面白かったな!」グラムが戦斧を肩に担ぐ。


「全く、毎回毎回無茶ばっかり」リィナが溜息をつくが、その顔には安堵の色が浮かんでいる。


戦いは終わった。夕日が完全に沈み、星空が顔を覗かせている。


「さて、報告書でも書きますか」リィナが手帳を取り出す。

「その前に風呂と酒だ!」グラムが叫ぶ。

「まずは街の人たちに無事を知らせないと」ジークが街の方を見やる。


三人は肩を並べて、街の灯りに向かって歩き始めた。

「いやあ、今回も暴れた暴れた」グラムが満足そうに言う。

「まあ、悪くない仕事だったわね」リィナが同意する。

「華麗にキメたぜ、俺たち」ジークが髪をかき上げる。


爆雷三傑の名前が、また一つ伝説に加わった夜だった。

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