爆雷三傑録
偏狭伯
「ル=カンタ攻防戦」
第1話 迫りくる嵐の前に
王暦537年、晩春の月第13日。
アルフェリア王国西南部、ル=カンタ要塞跡。
夕日が山肌を赤く染める中、三つの影が石畳の上に立っていた。廃墟と化した要塞の城門前、風が運んでくるのは遠い森の匂いと、かすかな硫黄の臭い。そして、何かが近づいてくる気配。
「がっはっは!久々に面白そうじゃねえか!」
豪快な笑い声を上げたのは、ドワーフの戦士グラム=バロルドだった。背丈は人間の肩ほどしかないが、その筋骨隆々とした体格と、背負った巨大な戦斧は見る者を圧倒する。分厚い大盾を軽々と片手で振り回しながら、彼は廃墟の向こうに広がる森を見据えている。
「筋肉バカ、もう少し緊張感持てば?今回の敵、今までとは規模が違うのよ」
隣で地図を広げているのは、リィナ=フォッセ。一見すると細身の美女だが、その腰に下がった小袋の数々と、指先に付着した火薬の匂いが彼女の正体を物語っている。元貴族令嬢にして、王国屈指の爆薬術師。
「まあまあ、リィナ。今日も華麗にキメさせてもらうぜ」
三人目の男、ジーク=ハウエルが剣の柄に手を添えながら軽口を叩く。流麗な剣術で知られる彼の得物は、刀身に淡い光の筋が走る魔剣。その美しい刃は、今まで数え切れないほどの敵を屠ってきた。
爆雷三傑――彼らの名前は、アルフェリア王国の傭兵業界では知らぬ者はいない。不可能と言われた依頼を次々とこなし、どんな絶望的な戦場からも笑って帰ってくる伝説の三人組。
「それで、今回の敵は何匹くらいだ?」
グラムが大盾を地面に突き立てながら尋ねる。
リィナが報告書を見直しながら答える。
「公式発表では『大規模』としか書いてないけど、予備調査では最低でも千体以上。しかも今回は変異種も混じってるって話よ」
「千体?」ジークが口笛を吹く。「俺たち三人で?正気か?」
「正気じゃないから面白いんだろうが!」グラムが大笑いする。「この野郎ォ!久々に腕が鳴るじゃねえか!」
リィナは溜息をつきながら、腰の袋から小さな水晶球を取り出した。
「まあ、やるしかないでしょうね。報酬も悪くないし、何より――」
彼女の視線の先で、夕日に照らされた街の灯りがちらちらと見えている。そこには何千という人々が、今この瞬間も普通に暮らしている。
「あの人たちを守るのが、私たちの商売よ」
三人は無言で頷いた。理由はどうあれ、彼らは戦う。それが爆雷三傑の流儀だった。
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