その翡翠き彷徨い【第58話 大好きなひと】

七海ポルカ

第1話




 アミアカルバ・フロウ。



 アリステア王国第二王女にして後のサンゴール王国女王である。

 生涯『武の誉れ高き』と謳われた女傑であるが、少女時代の彼女は一体どんな少女であったのか?


 そもそもアリステア王国には武勇に優れた人材が多く生まれることが多かった。

 東に魔術大国サンゴール、南に宗教国家ザイウォン神聖国しんせいこくという二大国家を置くその土地柄もあるかもしれない。

 サンゴールの魔道もザイウォンの信仰もアリステアには脅威だったため、彼らはそれに対抗し得る自分達の武勇を、最も効果的に使うための戦術勘に非常に長けていた。

 その証にどの時代の王も、王の子達もいずれもが優れた武勲を上げるべき将軍位についていた。


 そしてそれは、例え王女であろうと例外にはならなかったのである。


 その中でも一際輝く武勇といえば十代の若さで【オルフェーヴ大戦】にも従軍し、各国の一流の騎士達と剣を合わせても引けを取らなかった第一王女にして後のエルバト王国王妃エヴァリス・デュナンティーナだが、その英雄譚に後塵を拝したというだけで、彼女の兄である第一王子は知略に優れた軍才の王子として知られている。


 エヴァリス、アミアカルバ姉妹の母である王妃は早世したが、彼女は元々アリステア軍系貴族の名門オレガノ一族の出身であり、アリステア王国でも唯一の国務娘子軍――アリステア女子士官学校において三年間、騎士団長として指揮を執ったという、こちらもアリステア史において特筆するべき女傑であった。

 王女達がまだ幼少期から、アリステアの姫は武具を扱えねばならぬと、剣と弓を教え込んだのはこの王妃だったと言われている。


 姉エヴァリスの武人としての鮮烈な生涯に当初は隠れがちではあったものの、母国アリステアでは幼い頃から第二王女の行動力は、姉姫を越えるとまことしやかに囁かれていた。

 またそれを裏付けるような逸話も幾つも残されており、その中でも特徴的なのが、彼女がまだ少女と呼ばれる頃から馬を乗り回し、越境も厭わないほどの行動力に侍女や兵士達はいつも振り回されていた、という記述である。


 アミアカルバは特に森と湖の美しい隣国サンゴールの景色を好み、当時はまだ長い歴史の中で培われた、一種の緊張状態の中にあったサンゴール王家の第一王子グインエルと友好関係を勝手に築くと、度々城を抜け出しては彼の元を訪れ、そのうちに周囲が認めざるを得ないような同盟関係を、二国の間に結果として結ばせてしまったほどだった。


 望むべき場所には自らの脚で赴き、自身の未来は自分の手で切り拓く。


 これはアリステアの血を引く王女達に照らし合わせることもなく、奇しくも共通する性格なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る