☆第一話 メカヲタクの苦悩☆
「「ごちそうさまでした」♪」
マコトが作った美味しい朝食を終えた二人は、食器を自動洗浄機に収めると、ユキの手でマコトへのメイクを開始。
ショーツ一枚で鏡の前へお尻を下ろしたネコ耳パートナーへ、バスタオル一枚なウサ耳のユキが、楽しそうに向かい合った。
「~♪」
「………」
メイクもファッションも明るいユキの、楽しそうな鼻歌に、ファッションが頭に入らないマコトは、黙ってされるがまま。
幼馴染みであり精神的なパートナーであるマコトへのメイクだけど、ユキは一つだけ不満があったり。
「マコトは 素肌のままがとても映えますもの。お化粧も必要最低限で、そういった意味では、メイクのしがいが 薄くありますわ♪」
とか楽しげな感想をくれると、マコトも素で言う。
「でもきっと ユキ程ではないよ。ユキが一番、ノーメイクが綺麗だもん」
「うふふ…♡」
ユキに対して絶対に嘘を吐かないマコトの言葉はいつも、実はユキが一番欲しい言葉でもあるのだ。
「~はい、出来ましたわ♪」
「うん、有難う」
パートナーのメイクに不安のカケラも無いマコトが、自分の姿を鏡で見たのは、どんな顔をしているかだけを確かめるからである。
ユキにメイクをして貰っても、やはりマコトの頭には入らないけれど、それでも外へ出たり人と会う以上は、自分の顔くらいは把握しておくのも、特に女性の特殊捜査官としては常識と言えた。
ナチュラル・メイクが整うと、二人はベッド・ルームで脱衣をして、再びヌードとなる。
「主任への挨拶を済ませたら、出発だよね」
「ですわ♪ ふぅ…」
笑顔になったと思ったら、純白のウサ耳がペコんと折れたりして、気持ちも沈んだりするユキ。
愛らしいお姫様のような媚顔が寂しさで曇ると、見る者が強い庇護欲を刺激されてしまう程の、危うい魅力を放っていた。
それは、マコトにとっても同じ事。
「白鳥も、十分に 休ませてあげないとね」
「はぃ…私も、我慢をいたします…くすん」
クローゼットから、専用の特種捜査官スーツが出てくる。
特種捜査官とはいえ、先輩たちは男女の区別なく、そして多少の個人アレンジ込みとはいえ、常識的なスーツ姿で勤務をしている。
しかし、マコトとユキの専用スーツは、まさしく特別仕様が支給されていた。
艶々でパツパツな素肌の上に、カットが鋭角なボトムを履く。
引き締まった下腹部は、少し上下幅のあるベルト・バックルから後ろまでを隠す極薄い生地だけで、前後が飾られていた。
しかも後ろ姿は、Tバックどころかお尻の谷間と尾てい骨だけが隠れるような、極細Iバック仕様。
ボトムそのものは、ガンベルトも兼ねるベルトで腰骨より上に留められていて、万が一にもズリ落ちてしまう心配は無し。
トップは、首元とアンター・バストで前留めな、ビキニ・タイプ。
巨乳を護るカップは、アンダー・ベルトと肩紐で繋がっていて、白い乳肌の上と谷間全般は完全露出をしていて、カップの形も丸い乳曲面を忠実にトレースしている。
淡い桃色の先端部媚突は、カップの端でギリギリ隠されていた。
グローブとブーツは、スーツ本体と同じ白銀色で、全体的に古式ゆかしいメカ・ビキニっぽいデザインである。
グローブやブーツには、通信機や身分証や隠しアイテム、更にメカヲタクなユキが好き勝手に施した様々な機器や機能などが、てんこ盛り。
耳には小型発信器などの機能を持った、イヤリングが煌めく。
ベルトには、ユキは右側に女性用で小口径のレーザーガンを、マコトは左右に男性用の大口径ビームガンを、ホルスターで装着。
「どう?」
「はい♪ 今日も、美しいですわ♡」
公僕としては露出過多な二人のスーツ姿だけど、これには行政側の思惑があった。
若く美しく人々の平和を護る女性特種捜査官チーム「ホワイトフロール」というビジュアルも含めた、対外宇宙国家民に対する、地球連邦国家のイメージ戦略も兼ねている。
そしてその戦略は的中し、祖父たちチームの知名度も相まって、二人の美貌や活躍は広く銀河に知れ渡り、人々から高く好評を得ていたり。
同時に、犯罪者たちにとっては何とも憎らしい美少女捜査官チームとして、逆恨みりの対称ともなっていた。
「それじゃあユキ、主任へ 挨拶に行こうか」
「はぃ…しょぼん…」
部屋を出て、エレベーターで地下駐車場へと向かう二人。
ユキが寂しそうに落ちこんでいる理由は、今回の任務とも関係していた。
二人の専用航宙船である、銀河を羽ばたくメカ白鳥「ホワイト・フロール号」は、一週間の定期メンテナンス期間に、本日の地球本星時間にして午前0時から、入っている。
特種捜査官の装備は、制服や護身用の武器だけでなく、地上仕様のビークルや専用航宙船なども含まれていた。
なので、宇宙船のメンテナンス期間となった特別捜査官は、一週間の内勤か、本部が指定をした惑星上での特別パトロール任務となるのが、通例である。
マコトとユキも、敵対する犯罪者たちの殆どを宇宙の塵と化しているとはいえ、それだけ危険な任務に就いているという事実。
なので、特種捜査官が書類整理などの内勤ではなく特別パトロールを選択した場合、それはほぼバカンスという勤務内容として扱われるのだ。
オシャレもファッションも大好きなユキなので、バカンスは大喜びだけど。
「一週間も 白鳥ちゃんと会えないのは、寂しいですわ…」
本部へ向けてビークルを操縦しながら、ユキは寂しさをマコトへ告げる。
「白鳥が元気になる為だから、ボクたちは 我慢しないとね。それに」
「…はい?」
「ボクは ユキと二人きりのバカンスも、すごく楽しみだよ」
「! そ、それは、私だって…♡」
美しい中性的な王子様みたいな、そしてナチュラルに輝く正直な笑顔で助手席から告げられると、ユキも耳から鎖骨までの素肌が、真っ赤になってしまった。
対外捜査部の本部ビルへ到着をして、地下駐車場からエレベーターで、特種捜査室のフロアーへ。
部署内はいつも通り、先輩捜査官たちが忙しく動きまわっていた。
「お早う御座います」
「お早う御座います♪」
最年少の愛らしい後輩チームが丁寧な挨拶すると、先輩たも笑顔で返す。
「よ、お早よ!」
「あら、二人は今日から 特別パトロールだったかしら?」
「はい♪」
「はい…くすん」
マコトとユキそれぞれの素直な反応も、先輩たちには可愛いと感じられた。
捜査室の最奥スペースに、直属上司であるクロスマン主任専用の、主任ルームがある。
「「……コクり…」」
扉の前へ立つ二人が、つい緊張をしてしまうのは、当たり前に過激過ぎる手柄の為でもあった。
「…お早う御座います。ハマコトギク・サカザキです」
「ぉ同じく、ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンです」
『うむ、入りたまえ』
カメラやスピーカーも兼ねる扉越しに、低くて穏やかな男性ボイスが返される。
「「失礼いたします」」
綺麗な背筋を更に正して、二人は息を飲んでから、開かれた扉の中へ、静かに足を踏み入れた。
適度な広さの主任室は、提出をされた捜査資料の山の他、テーブルやソファー、主任デスクと観葉植物のみという、質素な内装。
扉と対面なデスクでは、特種捜査官の上司であり中年男性の、クロスマン主任が、いつも通りに捜査資料へ目を通しながら、優雅な空気を漂わせていた。
二人よりも一回り以上と年上な主任は、艶めくサラサラな黒髪に整った面立ちで、知的で切れ長の目に高い鼻筋や引き締まった口元、広い肩幅と厚い胸板と高身長と、まるでレディース・コミックから抜け出てきたような美中年である。
黒色が好みらしく、シンプルだけど質実な仕立ての高級オーダーメイド・スーツを着こなし、所作にも大人の余裕をナチュラルで感じさせていた。
「マコトくん、ユキくん、お早う」
優しいバリトン・ボイスと穏やかな笑顔で挨拶をくれた主任へ、マコトとユキは、緊張しながらの返答である。
「「ぉお早う御座いますっ、クロスマン主任…!」」
優しい主任に対しての、二人の無駄な緊張は、上司の穏やかさを知る者にとっては特異な反応というか。
任務に於いて、過剰防衛とも執れる犯罪者たちの殲滅や、捜査拿捕課程での必要な報告の忘れなど、二人がミスをした際の、主任の圧。
穏やかな笑顔で静かな言葉を掛ける男性上司だけど、その言動に潜む叱責の意志が、二人にとってはどんな犯罪者たちよりも恐ろしかったりする。
怒鳴られたり修正されたりした経験など皆無だけど、穏やかな美中年による笑顔な叱責の圧力たるや、二人の美少女捜査官が身動きすら出来無くされてしまう程の、絶対上司感で溢れているのだ。
クロスマン主任に呼び出される時は、ほぼ叱責。
というマコトとユキは、挨拶に来る時でさえ、無駄に緊張をしてしまう。
「待たせてしまって、済まなかったね。ソファーへ 掛けてくれたまえ」
「「…はい♪」」
と同時に、声色から「主任から何かのお説教ではない」と安心をすると、二人の緊張は途端に解けて、晴れ行く霧みたいに消える。
穏やかな上司の優しさと信頼もよく知っているからこそ、二人も叱責ではないクロスマンとの面会には、安心が出来るのだ。
ユキはテーブルのボタンを操作して、三人分のティーを準備。
「ありがとう、ユキくん。本日から一週間、二人は 特別パトロールだったね」
「「はい♪」」
ソファーの対面へ腰掛けながら、主任は少し考える、アンニュイな美顔だった。
~第一話 終わり~
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