喰育
豊臣 富人
プロローグ ニュース
画面には、山深い林の奥にぽつんと佇む木造二階建ての校舎が映っている。色褪せた校名プレートには「旧・篠原第三小学校」と刻まれている。場所は岐阜県飛騨地方、かつて廃村となった集落「篠原」の中だという。
緊張した面持ちの若いレポーターが映る。背後には立ち入り禁止の黄色いテープと、警察車両の赤色灯がぼんやりと瞬いている。
レポーターは、かすかに震える声を押し殺しながらも、必死に現場の状況を淡々と伝えた。
「こちらは岐阜県○○郡篠原村――廃校となっていた旧・篠原第三小学校の前です。三日前、SNSに『肝試しに行く』と投稿していた若者たちがこの場所で消息を絶ち、翌朝、近隣住民の通報を受けて警察が現場を発見しました」
背後を吹き抜ける風に、錆びついたブランコがかすかにきしむ音が重なる。レポーターは一瞬身を縮めたが、懸命に仕事を続ける。
「警察によりますと、建物内は激しい破壊と流血の痕跡が確認されており、現在も事件の詳細は捜査中とのことです。現場は……凄惨な状況だと報告されています」
ここで汗を拭う中年の刑事が映る。目の下に深い隈が刻まれている。
「……正直、こんな現場は初めてだ。誰がどうやったのか……それとも“何か”がやったのか……わからん。想像を絶している。どうしてこんなことが起きるんだ」
刑事の言葉は途切れ途切れに濁り、その後カメラは再び廃校の外観を映す。
――そのとき。
画面の端、雑草の茂みの中にそれが映り込んだ。
白くて関節のある……人間の…手?のようなもの。
カメラが一瞬それに気づいたように揺れ、すぐに映像はスタジオへと切り替わる。
スーツ姿の女性アナウンサーが硬い表情で画面を見据えている。こうしたトラブルが起きたときこそ、冷静に視聴者へ伝えるのがプロの仕事だ。慌てた様子は一切見せず、彼女は静かに謝罪の言葉を口にした。
「ただいまの中継映像の一部に、不適切と思われる映像が含まれていた可能性があります。ご不快な思いをされた方には、深くお詫び申し上げます」
言葉を区切りながらも、照明の下でわずかに額に汗がにじむ。彼女は普段、お茶の間に笑顔を届ける人気アナウンサーだが、今は凛とした、どこか冷たい表情で続けた。
「この旧・篠原第三小学校で、一体何が起こったのでしょうか。続報が入り次第、お伝えいたします」
「続いてスポーツです。昨年最下位だったヤクルトが――」
テレビの電源が切られた。
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