11. 俺の金が賞金の武術大会

 


 この国から旅立つ予定でいた俺たちは、ぐしゃぐしゃに握りしめた号外チラシを片手に、エルトニア王国の城門にいた。

「何とか昼までに間に合ったようだな……」

 手にしたチラシの文字は、俺たちには正直何て書いてあるかはわからない。それでも町中が騒いでいれば嫌でも伝わってきた。


 チラシの内容は要約するとこうだ。

----武術大会開催 優勝者には賞金✕✕✕✕万ギル。


 大陸のどこからでも見えていた城だが、まさか到着するまで半日もかかるとは思わなかった。そして縦にも横にもでかい城に、俺たちは圧倒されていた。

 世襲制だというこの国の王族たちは、何かの宿敵か巨悪とでも戦っているのか??? 王城ならもっと、三角屋根に旗が立っていたり、花壇や噴水があったり、民衆に顔を出せるバルコニーがあったりするイメージだったんだけど、そのバルコニーは頂上に近い遥か高い場所に存在していた。

 まるで魔王城だ。

「上等だな……」

「罠じゃないかな? 無視しようよ」

「これは挑戦状だ」

 すぐに国を出る考えの翡翠とは逆に、俺は黒猫の面を付けて、堂々とその金を持って国を出てやろうと意気込んでいた。タンス預金は奪えても、優勝者の賞金は奪えないはずだ。

「勝っても負けても罠な気がする……」

『参加登録はこちらにどうぞ~!』

 ひたすら同じ声量で呼び掛けている方へ近付けば、何やら喋っているのは5cmくらいのどこにでも落ちている小石だった。録音機能付きの……石???

 摩訶不思議なアイテムの前で、綺麗なお姉さんがにこにこと愛想を振り撒きながら受付を行っている。

 当日に突然行われた大会らしいのに、賞金額のせいかけっこうな人数が集まっていた。

 こいつら全員、俺の金目当ての奴らか。そこがまたムカつくんだよなぁ。目の前の全てに納得がいかない。

 俺はイライラしながら列に並んだ。

 そうしてようやく参加者名簿に記入しようとした時、何やらざわめきが起こった。

「我が国の武術大会へようこそ」

 蜂蜜を溶かしたような甘ったるい微笑みで、あの第二王子がこちらに向かって来る。

「逃げずによく来たね」

 この瞬間、俺の静かな怒りは最高潮に達した。

「後で泣かす」

「楽しみだ」

 翡翠がため息をついているが、何度も言うように、ここで逃げる選択肢は俺には無い。

 サインをすると、見たことが無い文字だったからか、読み方がわからないと受付のお姉さんから確認されてしまう。発音をして代筆してもらった。こうして会話は出来ているけど、きっと今話してるのは日本語じゃないのかもしれない。

 すると、何やらあの第二王子が、最初に書いた文字を食い入るように見つめている。それから、なるほど、という謎めいた言葉を呟いてから去って行った。

 何がなるほどだ、俺はお前が何でこんな真似をするのか、ぜんぜん解らないんだけど。


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