04. エルトニアという国 Ⅱ

 町を歩きながら、新たに調達した白い上下の服にベルトやポーチ、ベスト、腕には防具を合わせていく。

 翡翠にも防具を用意したいけど、諸事情から今の段階ではオーダーメイドが難しい。

 俺たちは町で人気のアップルパイを食べたことが無いんだ……。完全予約制のそれは、『予約』が出来ない俺たちには手の届かないものだった。いつも行列を遠くから眺めていることしか出来ない。

 これがどういうことなのか、順を追って説明しよう。


 この町に暮らし始めて数ヶ月で色々とわかったことがある。

 俺のスペックは、この国の一般人より遥かに高かった。

 先ず、魔法を使える人間はかなり珍しいらしい。その魔法もイメージによる力が大きく、詠唱を行うことで具現化するらしい。俺が意識するだけで使えるのは、元いた世界の日本で慣れ親しんだゲームのおかげで、この世界の人々の想像力を遥かに上回るからだと思う。

 銃や機械など、科学の存在しない世界で想像出来るのは、ごく小さな自然の力のみ。火薬の存在しない世界に、爆発は生まれない。そもそも概念が無いのだ。

 高い動体視力は、剣を自在に扱うために役立ち、ここに魔法が加わることで無限の可能性が広がる。余程のことが無ければ窮地に立たされることは無さそうだ。

 そんな俺は賞金稼ぎや用心棒をしたり、宿屋を転々としながら、体感3ヶ月ほど経過した頃にはかなりの財を成していた。

 銀行口座が存在しないこの世界では、稼いだ金は自分で管理するしかない。だから、金持ち商人や貴族は大きな屋敷を構えるようになっていくのかもしれない。

 ところが、残念ながら金はあっても家が買えないせいで、俺は毎日借り続ける家のタンスに預けている。不安しかないよ……。

 やっぱり、生まれ変わったとしても、魂が同じなら似たような境遇や人生になるのかな?

 次に誰かに奪われようものなら、死に物狂いで奪い返さなければ気が済まないだろう。

 それから、この国には身分制度があって、王族、貴族、平民、信じがたいが最下層には奴隷がいるらしい。この国で奴隷を見たことがないが、何故か俺は『性奴隷』としてよく狙われるから、きっと奴隷もいるんだろう。

 今いるこの国はエルトニア王国といって、大陸始まって以来の世襲制の王族が代々治めているらしい。その王族には、魔法を上回る特殊スキルが存在しているらしく、どんなものかは一般人には明かされていないらしい。

 冒険者ギルド的なものも存在していて、自由商連盟じゆうあきないれんめいという日本でいう役所のような場所がある。管理しているのが、現在は不在の第六王女らしい。

 この国で仕事をするためには加入必須で、税金として給料から20%も差し引かれる。というより、加入していないとまともに生活が出来ない。住所登録もこの自由商組合で、身元が明らかでないと働けない仕様になっているし、何かの契約や決済には必ず所属の証が求められる。領主から奪った宝を売却出来ないのも、翡翠にオーダーメイドが難しいのもこの為だ。

 外国人として働こうにも外国籍をそもそも持たない俺は、不審者扱いされるかしょっぴかれそうな雰囲気だった。

 つまり、俺のような身元がはっきりしていない人間は、この国ではまともに暮らせない。そんな異世界人に厳しいルールでは、どのみち俺は非合法な裏の仕事や賞金稼ぎをするしかなかったんだ。

 こうなれば、チート能力を授かった醍醐味を思い切り満喫してやるしかないじゃないか。

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