虹の橋から始まる3rdライフ
TAMASUKA
00. 王国の黒薔薇
エルトニア王国では、世界平和への祭典が行われていた。
貧困対策や奴隷制度の廃止、豊かな暮らしを育む新しい制度の発表など。
「何だ、エルトニアという国も大したことないな、唯一の戦力の王族がこうも無防備でいては、奇襲でもされればひとたまりも無いのではないか?」
3年おきに開催される三国会議で、初めて参加する代表者の一人は、他国の王族がもてなす場でそうのたまった。
「やめよ、そなた知らないのか? "王国の黒薔薇"を……」
「王国の黒薔薇……?」
「……第二王子の妃に、とんでもない化け物がいる、100名の魔法使いが放った極大魔法を一閃のもと消し飛ばしてしまうような化け物がな……」
当時を知る男は、顔を蒼白にさせ、辺りに聞かれていないかと緊張している。
「第二王子の妃……? 女の剣に我が国が破れたというのか?」
「……男だ、傾国の美貌の、恐ろしい力を持った魔剣士だ」
滅多に公式の場に姿を現さないため、その姿を知る者は少ない。
「建国史上最悪の黒歴史のため、我が国には事実と異なることが書かれているが、今の話は全て事実だ、王国の黒薔薇がいる限り、何者もこの国を侵すことは出来ないだろう」
「…………」
フン、史実と現実が違うだと……?
姿も見せない男に怯えるか、情けない。
傾国の美貌か、どうだかな、噂は尾ひれがつくものだ。そんなもの我が国にもいくらでもいる。
まだ成人したばかりの血気盛んな若者がそう心の内で吐き捨てると、少し離れた場所にいる若き国王が、猫耳の翡翠色の瞳の王妃の手を引いて微笑みを浮かべていた。
来るんじゃなかったと、若き代表は会場を抜けて、人気の無い静かな場所へ足早に進んだ。バルコニーに立った時、真下に見える城の屋根に寝転んでいる人物を見つける。
人の足で行ける場所ではない高さに寝転ぶ男は、見事な黒髪に白い肌の、それはもう美しい男だった。
「…………っ」
息を飲み、無意識にその姿を目に焼き付けようとしてしまう。
男は、ゆっくり目を開けると、黒い瞳でこちらを見つめてくる。若き代表はすぐにこれがあの"黒薔薇"だとわかった。
「……平和の祭典はお気に召さないか?」
「…………」
少年と大人の中間にあるような、美しい声だった。
「早く、長く滞在出来るような国が増えたらいいと思うんだけどな、ランティスの坊や」
ふっと笑った顔が少年のようになり、唇を引き結んだ瞬間に凛とした美貌が際立つ。
「あなたは……」
「そろそろ行かないと」
黒い瞳が
あれは幻獣という、未開拓エリアに生息するという気性の荒い竜だ。
あんなものまで手懐けているのか……。
今見ていたもの全てが、まるで白昼夢を見ていたと思わせるような、美しいものだった。
そして思ってしまったのだ。
実力行使でも、財力でも手に入らない存在ならば。
せめて平和をこよなく愛するあの"黒薔薇"が、いつかふらりと訪れるような国を作れたら、と。
「やっとあの国も代替わりで変化が起きるかもな」
「
「変わらないなお前は……」
こいつ、どんだけ俺のこと好きなんだよ。
まぁ、悪くないけどさ。
世界平和までの道のりも順調だし。
あの頃は考えられなかったよな、異世界で男と結婚するなんてさ。
そう、10年前の俺は、ちょうど今と同じ年頃で、異世界の日本という国にいたんだ……。
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