第六話 裏切りと絶望


夜の名古屋港。

だみんちゃんは、田村、ユウ、ミサキとともに倉庫街の闇に身を潜めていた。

冷たい潮風が吹き抜ける中、彼女たちは慎重に倉庫の裏手へと進んだ。

「ここが密輸の現場だ。証拠を押さえれば、きっと……」

田村が小声で言う。

ユウはノートパソコンを膝に、監視カメラの映像をリアルタイムでハッキングしていた。

ミサキは震える手でスマホを握りしめている。


だみんちゃんは、心の奥でわずかな不安を感じていた。

仲間と力を合わせれば、きっとこの町からフェンタニルを駆逐できる。

そう信じていた。

だが、どこかに拭いきれない影があった。


倉庫の裏口が開く。

中国語の怒号、フォークリフトのエンジン音、トラックの荷台から降ろされる医薬品の箱。

「今だ、写真を撮れ」

田村が指示を出す。

ユウはネットワーク越しに倉庫内の映像を保存し、ミサキは市民の証言をライブでSNSに流していた。


そのときだった。

突然、背後から強烈な光が彼女たちを照らした。

「動くな!」

複数の男たちが現れ、銃を構えて包囲する。

だみんちゃんは咄嗟に身を伏せたが、田村もユウもミサキも、あっという間に取り押さえられた。


「なぜ……どうして、ここがバレたの?」


だみんちゃんの脳裏に、これまでのループで感じてきた違和感が蘇る。

誰かが、組織に情報を流している。

だが、それが誰なのか、確信が持てなかった。


男たちのリーダー格が近づいてきた。

「お前ら、余計なことをしてくれたな」

その背後に、見慣れた顔が立っていた。

――ユウだった。


「ごめん、だみんちゃん。俺、もう限界だったんだ」

ユウは目を伏せ、震える声で言った。

「家族を人質に取られた。逆らえば、みんな殺されるって脅されたんだ……」


だみんちゃんは、全身の力が抜けていくのを感じた。

「……裏切ったの?」

「俺だって、こんなことしたくなかった。でも、どうしようもなかったんだ」

ユウの目には涙が浮かんでいた。


田村は怒りに震えながら叫んだ。

「ユウ、お前……!」

ミサキも絶望の表情でうつむいていた。


男たちは容赦なくだみんちゃんたちを縛り上げ、倉庫の奥へと連行した。

そこには、王建国が待っていた。

「よく来たな。君たちのおかげで、計画が一歩進んだよ」

冷たい笑み。

「だが、もうお前たちは用済みだ」


だみんちゃんは、最後の力を振り絞って叫んだ。

「あなたたちの好きにはさせない!」

だが、王建国は手を振るだけだった。

「無駄な抵抗だ。

この町はもう、我々のものだ」


銃声が響く。

だみんちゃんは、激しい痛みとともに意識を手放した。



再び目を覚ましたとき、そこは2010年の自分の部屋だった。

カーテンの隙間から差し込む朝の光。

壁のポスター、古びたノートパソコン――何も変わらない、何度も繰り返した朝。


だみんちゃんは、ベッドの上で膝を抱えた。

「誰も……信じられないの?」

仲間だと思っていたユウの裏切り。

田村やミサキの絶望の顔。

自分の無力さ。


「何度やっても、同じことの繰り返し……」

だみんちゃんの心には、深い絶望が広がっていった。


それでも、彼女は涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。

「でも、諦めるわけにはいかない」

どれだけ裏切られても、どれだけ絶望しても、

この町からフェンタニルを駆逐しなければ、死のループは終わらない。


だみんちゃんは、再びノートを開き、震える手で新しいページに書き始めた。

「裏切り」「絶望」「それでも前へ」

彼女の戦いは、まだ終わらない。


名古屋の空は、今日も曇っていた。

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