アストリム王国は味噌の味 ―味噌が国家を動かすってほんとうですか?

風灯

第1話名もなき集落と、最初の価値


砂のような魔素が舞う原野の奥地。

そこにあるのは、まだ名もない集落だった。


中央には、一体のスライム型国家コードが浮遊していた。

その名は――レム=ユナコード。


「……とにかく、“通貨になる”のはイヤなんだ」

「俺は……国家になる」


その言葉に、誰もがぽかんとした。


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数日前。

レムは、洞窟で多層型スキルコードを誤って吸収し、“ブリッジ型国家意識”を獲得してしまった。


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食糧に困る村人たち。

整備されていない輸送路。

そしてバラバラな価値観で交換される謎の物々取引…。


「これは…経済の体を成してない!」

ノア・アーカライヴ(知性ノード)の助言により、レムは最初の一歩を踏み出す。


「価値」を定め、「通貨」と「プロトコル」を繋ぎ、国家としての基礎を作り上げる――

そのはじまりは、とある青年との小さな物々交換からだった。


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――宿屋の軒先。


「…よぉ。スライムさんよ、何者か知らんけど、腹へってんだろ?」


その男は、短髪で快活な笑みを浮かべた青年商人、ミル・マイル。

彼が差し出した干し肉と、レムが出したのは…「魔石に記録された透明なデジタル署名」。


「お、お前……それ、取引記録か!?それも……署名済で…!?」

「ああ。これが“価値の保証”ってやつらしい」


その夜、村には静かなざわめきが広がった。


スライムが通貨を発行したらしいぞ

しかも“手数料ゼロで流通”してるらしい――


---


それが、アストリム王国の最初の価値となった。

この瞬間、「通貨から国家へ」という珍妙な進化が、味噌の香りと共に始まったのである。

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