20 デート

 学校の最寄り駅から三駅ほど先にそれなりに大きい駅ビルがある。

 デートと言うには近場だが高校生なんてこんなもんだろ。あまり人が多いと詩杏が参ってしまう可能性もあるし。


「ほ、補導とかされない?」


 僕にひっついてびくびくとしながら詩杏が言う。


「注意ぐらいだろ。堂々としなよ、悪いことしているわけじゃないんだから」

「してるじゃん悪いこと……」

「校則ではな。社会的にはただ歩いているだけだしそんなに怯えるなよ」

「うう……」

「補導されても最悪姉さんに叱られるぐらい」

「嫌だぁ……」


 そんなに挙動不審だと逆に警察に声を掛けられてしまうと思うのだが。

 まあ詩杏は基本的にいい子ちゃんなのでこういうイケナイことには慣れていないのだ。


「本屋行く? ここの本屋でかくて好き」

「あ、私も……」


 地元は小さな本屋が一軒しかないので買うとしてもせいぜい週刊少年雑誌ぐらいだ。漫画を揃えたかったり新刊を当日手に入れたいならここまで遠征しなくてはならない。

 エスカレーターを使い本屋まで行く。やっぱり平日のこの時間帯は空いている。

 僕らは無言で分かれた。好むジャンルが違うので昔からこうなる。

 気になっていた漫画を手に取る。これ10巻まで出ているのか。欲しいけど、先日働いていたバイト先が潰れてしまい次を探していないので収入がない。欲のままに一気に買うと携帯料金がキツいことになるんだよな。

 また今度だな……。

 未練を断ち切るべく他の棚に行くと詩杏が立ち読みしているのが見えた。ラノベ……ではないようだ。何読んでいるんだろう。

 そっと近寄り後ろから見ると――どうやら呪術系のものだった。もしかして"おまじない"に似たことを調べているのか?


「勉強熱心だな」

「っひ!」


 そんな驚くことある?


「ホイッスル、鳴らすところだった……」


 そんな驚くことある?

 事実、防犯ホイッスルが入っている制服右ポケットに手が伸びかけていたのでマジだったのだろう。


「なんか情報は仕入れられた?」


 残念そうに彼女は首を降る。

 いくら大きい本屋でもそんな胡乱な本は置いていないか。もっともっと広い場所ならありそうだが。

 雑誌売り場の、カバンがおまけなのか本がおまけなのか不明なものを一通り見たあとに店を出た。


「しぃちゃんはなんか見たいのある?」

「うーん……」

「化粧品とか服とか」


 姉さんと出かけたときによく付き合わされるラインナップをあげてみたが、詩杏ははっきりしない態度を取る。

 あんまり物欲がないんだよな、こいつ。

 無理になにか買う必要はなくても、せっかく来たんだからなにか見て回りたいものだ。


「新しい柔軟剤……」

「なんか違うんだよな……」


 それ近場のドラッグストアで事足りるじゃねえか。

 あと詩杏はよく柔軟剤を変える。そういう趣味なのだろう。

 もっと普段とは違うことをさあ……と思っているとアクセサリーショップが目に入った。ちょっと背伸びしたぐらいの値段のアクセサリーが揃っているところだ。姉さんがよくピアスを買っていた。

 オープンな作りだし、店員もレジから出てこなさそうなので話しかけられることはなさそうだ。


「あ、あんまり、アクセ、つけないし……」

「知ってるよ」


 あんまりお洒落に興味がない。興味がないというか、そこまで精神的な余裕がないのだろうな。

 適当に並べられているのを見ているとチョーカーが目に入った。黒い生地に青緑色のしずくのチャームがついている。シアン色も確かこんな感じだった。

 ちなみに今詩杏がつけているシンプルなチョーカーは彼女の祖母お手製だ。手先の器用な人だったな、と思い返す。外れたボタンをよくつけてもらった。


「しぃちゃん、これどう」

「え? あ、かわいいね」

「ふぅん」


 じゃあいいか。そのままレジに持っていく。


「プレゼント用ですか?」

「あー……いえ。自宅用で」

「よろしいのですか?」


 店員が僕と詩杏を交互に見ている。

 ……うるさいな、そんな気を使わなくてもいいじゃないか。


「え、し、しぃくん!?」

「来月誕生日だろ。あと、普段から飯作ってくれてるし、明日頑張れっていう意味も込めて。外行き用ならつけれるだろ」

「そんな、悪いよ……」


 小袋に入れられたチョーカーを押し付ける。


「返されても困る。僕はつけないからな」

「ええ……」


 おずおずと小袋を両手で受け取る。

 それから、はにかんで僕を見た。


「……ありがとう」


 やめろ。気恥ずかしくなるだろ。

 誕生日プレゼントはシャープペンシルかボールペンを上げていたが、姉さんから「いやそろそろさあ……別のにしてあげたら……?」と苦言されていたので丁度良かった。

 詩杏が目に見えて機嫌良くなった。単純なやつ。


 それから短くウィンドウショッピングをして、帰宅ラッシュが始まる前に電車に乗った。

 分かりにくいが、詩杏はずっとにこにこしている。


「……明日はつけてくるなよ」

「それは、しないから」


 一応釘を指しておくと頬を膨らませて抗議された。


 最寄り駅につく。ホームを出る頃に雨が降り出してきていた。もう少し持ってくれたらよかったのにな。

 折りたたみ傘をリュックから取り出す。


「あれ」

「どうした」

「折りたたみ傘につけてたイルカちゃんがいない」


 見れば確かにいつも詩杏の折りたたみ傘にくっついているイルカのキーホルダーがない。

 去年、水族館に行ったときに買ったものだったか。


「落としたのかなあ……。朝は、あったんだけど」

「学校では?」

「確認してない。通学中は出していないから、多分保健室かも」

「月曜日探そう」

「そうだね」


 保健室なら湯沢先生が回収してくれているかもだし。

 いつもよりもカバンが濡れないように詩杏が気をつけながら傘を傾ける。チョーカー、袋に入っているんだから多少は濡れても大丈夫だろ。

 分かれ道に来た。詩杏はこれから明日のためにいろいろしなければならないことがあるので、ここで解散だ。


「明日香先輩からLINE来たら、連絡するね」

「ああ。ちゃんと薬飲めよ」

「はぁい。……今日はいろいろごめん」

「気にするな。また明日」

「うん、また明日」


 さて……。明日は楽しい法事だ。

 

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