17 嫌な予感
僕は振り返り、渡山先輩を唖然と見る。
「なんで、先輩知っているんですか……?」
「なんでって、ほらオレ、オカ研だし。江夏が死んだ日に部室にいたし」
オレはゲームしてたけどな、と付け足す。そんなことはどうでもいい。
ああ……確かに、来宮姉妹先輩に『他に誰がいましたか?』なんて聞かなかったもんな。盲点だった。
そうか、渡山先輩もいたのか……。この人幽霊部員じゃないんだ。そこも驚きであるが。
「江夏が『図書室で調べてくる!』なんて騒いで出ていったんだよ。だからその"おまじない"とやらが書かれた本があるんだろうなって」
「はい……。僕たちも調べる予定でした」
「はんぺんの儀だっけ? 人を蘇らせるやつ。江夏でも蘇らせるのか?」
けらけらと渡山先輩は笑う。
ぐっ、と僕の喉が鳴った。
落ち着け、これは挑発ではない。ただのくだらない、悪ふざけの一片だ。
詩杏はというと、無表情のまま黙りこくっている。渡山先輩を見つめているがそこにどんな感情が含まれているのか僕は推し量れない。
「渡山くん、いけませんよ」
苦言を呈したのは、湯沢先生だった。
顔をしかめている。
「そういうことは冗談でも言うことではありません」
「はーい」
「処置はおしまいです。また絆創膏が剥がれたりしたら来てくださいね」
「ありあっした」
先輩はどこまでも軽い態度で出ていった。
僕は肩から力を抜く。詩杏は息も止めていたので背中を叩いて意識を呼び戻す。
「"おまじない"とはなんですか?」
湯沢先生が首を傾げて聞いてくる。やっぱり気になるよな。
僕はどこまで話したものか悩みながら答えた。
「今渡山先輩が言っていたことです。死んだ人を蘇らせる儀式……みたいななにか。江夏がそれを調べているうちに亡くなったので、もしかしたらそれが関係あるのかもしれないと思って」
「あら……」
少し言葉に迷っているのか、湯沢先生は視線を泳がせた。
「……危険だと思いますよ? もし本当に関係があったとしたら、次に犯人に狙われるのはあなた達でもおかしくありません」
予想通り注意されてしまった。
探偵ごっこしているうちに犯人のほうから名乗り出てくれるなら楽だなと考えつつ、真面目な顔を作って「はい」と返事をする。
「でも、調べるだけですよ」
「本当ですかねえ……」
僕、疑いを持たれるほど悪いことをしでかした覚えはないのだが?
確かに授業中にスマホを弄ったりとかはしていたけどかわいいもんだろ。程度の大きさ関係なく勉学に関係ないものを学校内で出してはいけないのは大前提である。
ほんとですほんとですと言いながら僕は保健室から逃げた。詩杏が代わりに質問攻めされるかもしれないが、そこはすまない。
詩杏が上手くとりなしてくれたらいいのだが、彼女にそこまで期待するのはやめておきたい。
すんなり解決するほど口が上手いなら、あいつはこんなにコミュニケーションに苦しまなくて済んでいるはずなので。
となると、僕がどうにか煙に巻かなければいけないか……。探偵ごっこをしていますと言ったらさらに怒られてしまいそうだ。
足取りを少し重くさせながらクラスに入る。
「……」
昨日に引き続き、僕の机に花が置かれていた。
わざわざ摘み直して飾り直したのか。マメな人間がいるものだ。
ポケットの中でスマホが震えたので取り出す。詩杏からのメッセージだ。あいつはめったに電話をしない。
【クラスの様子はどう?】
こちらとしては【湯沢先生の様子はどう?】と聞きたい。
でも触れていないということはどうにかなったのだろう。……あえて触れていないだけかも。
【いつもどおり。また花をプレゼントされた】
【種類は?】
当然のように聞かれたけど、分かんねえよ。
一応まじまじと眺めてみたけど、花であることしか分からない。
【名前は分からない】
【どういう花だった?】
【青い花びらが二枚しかないやつ】
【ツユクサかも】
なるほど、ツユクサ。種類が分かったところでなにも解決しないが……。まああいつの知的好奇心を満たせたなら良しとするか。
僕は家から持ってきた小説を開いてみたものの、内容はまるで頭に入らず同じ個所をなぞるばかりだった。
というかこんな時にミステリーなんて読むものではない。なんでこれを選んでしまったんだ。
……物語の中では決められた時間内に必ず犯人が出てきて最後はハッピーエンド、もしくはそれなりの着地をする終わりになるんだから羨ましい。
現実では章ごとに日常が分けられているわけでもなければ、犯人が必ず捕まるとも限らないし、ハッピーエンドは約束されていない。
しかも終わりではなく『その後』が続いてく。
僕は最後のページやエピローグを先に見るのは許せない方であるが、この直面している事件だけは先に全てを知りたい。無理なのは分かっているけど。
予鈴が鳴る。僕はため息をついて、ページが進まないままの本をしまった。
クラスメイトや教師が僕によそよそしい以外はとくに変わりなく授業が終わっていった。
職員室にまで僕が殺人犯だという噂が広まっているのかもしれない。
それはしかたないとして、大人なんだから建前でも「気にしてません」みたいな態度を取ってほしいと思うのはわがままだろうか。
昼休みを告げるチャイムとともに、何人かがすぐに席を立った。購買目当てだろう。
僕も図書室に行こうとなんとなく出入り口ドアに視線をやり、呼吸が止まった。
――詩杏がクラスの前に立っている。
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