第2話
昼休み。自分の席でお弁当を広げながら、私の視線は、少し離れた席にいる彼に吸い寄せられていた。
彼は、お母さん特製であろう彩り豊かなお弁当を前に、箸を止めている。その視線の先にあるのは、鮮やかな緑色のピーマン。
(あいつ、まだピーマン苦手だったんだ……)
子供じゃないんだから、と呆れる気持ちと、悩んでいる横顔がなんだかおかしいという気持ちが混ざり合う。見ていたら、なんだか無性にからかいたくなった。
「あなた、まだそんな子供みたいな好き嫌いしてるの?信じられない」
自分でも意地悪な言い方だと思う。でも、素直な言葉なんて、どうせ出てこない。
彼は一瞬きょとんとした顔で私を見ると、次の瞬間、何かを閃いたようにハッとした顔になった。
「そっか……雪宮さんの言う通りだ。俺ももう子供じゃないもんな。よし!」
そう言うと彼は、今まであれだけ避けていたピーマンを箸でつまみ、えいっと一口で食べてしまった。
(え、食べた!?)
予想外の展開に、今度は私が固まる番だった。ただからかっただけなのに、私の言葉で彼に無理をさせてしまった。
なんだか、罪悪感で胸がチクチクする。
どうしよう、と内心焦っていると、彼はピーマンを飲み込んだ後、少しだけ誇らしげな顔で私を見た。
(う……そんな顔で見ないでよ……)
照れ隠しと罪悪感を隠すために、私はとっさに説教めいた言葉を口にした。
「べ、別にいいけど……。やればできるじゃない。……そ、それに、それはあなたの栄養バランスを考えて、お母さんがわざわざ入れてくれたものでしょ。ちゃんと感謝しなさいよね」
完璧な正論。これでどうだ、と心の中で少しだけドヤ顔をする。
しかし、彼は私の予想をさらに超えてきた。
「そっか……お母さんに感謝……。そうだよね!雪宮さん、ありがとう!大事なことに気づかせてくれた!」
キラキラと、効果音がつきそうなほどの純粋な笑顔と感謝の言葉。
その破壊力は凄まじく、私の心臓は一瞬で撃ち抜かれた。
(うっ……!そんなキラキラした目で見ないでよ……!)
もう限界だった。
「ふ、ふん!わ、わかればいいのよ、わかれば!」
私はそれだけを言い捨てると、自分の席に逃げ帰った。お弁当の味なんて、もうよくわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます