無色の英雄~職業無職でも成り上がります!~
どら
プロローグ
第1話 無職
世界は平穏を求めている。
新暦700年、この世界、アルフィデウスに現れた
突如として発生した謎の存在は、あっという間に世界を混乱に陥れた。
当初、アルフィデウスには数多くの国家がしのぎを削っていた。しかし、迷宮からあふれ出た怪物によって、そのほとんどが壊滅、人類はこのまま衰退の一途をたどっていった…
かに見えた。
世界は英雄を求めている。
あるとき、人々の中に
人々は口々に言った。『これは神々が人類を救うために使わしてくださった力である』と。
人々は考えた。『この力があれば世界を救うことが、いや、新たな世界を作ることができる』と。
才職業を持った人間の数は次々と増えていった。気づけば人類のほとんどが人知を超えた力を持つようになった。彼らはその力を持って迷宮へと挑み、並み居る怪物を倒し、そして死んでいった。
今日もまた不倒の迷宮に、地位や名誉、栄華があると信じて、そこに新しい自分の姿を、力を求めて踏み入れていったのである。
彼らはいつしか、冒険者と呼ばれるようになっていった。
「…はぇ?」
僕は自分の目を信じることができなかった。
ずっと信じていた。小さいころからあこがれた冒険者に、世界を救う英雄になれると思っていた。怪物をぎったんばったん切り裂いて、どっかんぼっかん吹っ飛ばして、あわよくばきれいな女の子と恋人になって…そんな未来を想像していたのはつい先ほどまで。
目の前にあるのはそんなささいな妄想をいとも簡単に粉々に砕いてしまうような現実で。
name:リュウ・ライデル age:10 sex:男
job: ---
「職業が…ない…?」
たくさん頑張った。友達と遊ぶ時間も削って素振りもした。筋トレも頑張った。
冒険者の父さんと毎日訓練した。母さんに魔法のイロハを叩き込まれた。
なのに。
「僕は…冒険者になれない…?」
この世界において、冒険者とはまさしく憧れの対象である。
常人にはとうてい太刀打ちができないような怪物を相手に、剣を振り魔法を放ち、そうして世界を守る英雄たち。
冒険者として名をあげれば、その権力は貴族をも超えるといわれており、
特に、そのなかでも人知を超える強さを誇る上級冒険者たちは、まるで神のように崇拝される存在である。
子供ながらに、僕もそんな世界で生きていくんだと。
たくさんの迷宮を攻略して、いろんな人に尊敬されて、たくさんの人たちを助けて。
そんな人生を歩んでいくんだと、本気で信じていた。
でも、それはもう叶わない。
茫然自失とはまさにこのこと。人間というのは、真に絶望したら目の前が真っ暗になるというのは本当のことだったらしい。すぐ隣で両親が声をかけてくれているみたいだけど、なんというか、言葉を言葉として認識できない感じだ。
冒険者は、その才能と職業によって生み出される
当然職業がなければ技能も生まれない。つまり僕がこのまま迷宮に潜っても怪物の餌になるだけ。そして技術が生まれなければ成長もない。
本来、この世界に生れ落ちるすべての人間は、何かしらの職業が必ず割り振られる。戦闘職でなくても、【清掃人】や【大工】、はては【俳優】なんかまで。
職業がない、ということは冒険者の才能が全くない、というだけではない。
この世界を生きる人間として、異端であるという証左でもある。
「リュウ!!」
「…とうさん…?」
気づけば目の前には、無精ひげの精悍な顔立ちが広がっていた。僕の黒髪は父譲りだ。
彼は僕の父、ヘイゼル・ライデルである。職業:剣士として冒険者として活躍したのち、母と結婚して町の自警団として活動している。
「大丈夫、大丈夫だ。職業がなくたってお前には輝かしい未来が待っている。だから安心しろ。」
「そうよ。なにがあってもあなたのことは私が守ってあげるんだから。」
背後から僕を抱きしめてくれているのは、母エリーザ・ライデル。一片の曇りもない黄金の髪を腰までのばした絶世の美女である。切れ長で美しいヒスイの瞳を涙に濡らしながらやさしく語りかけてくれている。
母もまた、職業:魔法士が顕現し、父とともに冒険者として鳴らしていたらしい。
僕はそんな両親にあこがれて冒険者に…冒険者に…
「あぁっリュウ!泣くなリュウ!」
「大丈夫ですよ!大丈夫ですからね!」
物心ついたころから、両親に聞かされてきたいくつもの冒険譚。
迷宮へ挑戦し、あまたの怪物を倒して、たくさんの財宝に目を輝かせ、様々な出会いとともに成長していく。
僕もそんな人生を歩むと思っていた。だから僕は、どうしても諦められないんだ。ずっと目指していた冒険者にあこがれて、物心ついたころから冒険者になるって信じて過ごしてきた。
…じゃあ諦めるのか?
職業がないから。戦うすべがないから。そういう言い訳をして。
これまで抱えてきた夢を、そんな簡単に投げ捨てられるのか?
自分の心が、叫んでいるのがわかる。
嫌だ、逃げたくない。諦めたくない。
そう叫ぶ心の声が、僕の体の中に鳴り響いている。
職業がないからなんだ。技術がないからなんだ。いまさら、諦められるもんか。
「…とうさん…かあさん…ぼく…それでも、ぼうけんしゃになりたい」
「お前…」
「リュウ…」
諦めきれないなら、前に進むしかないんだ。
たぶん、生まれた時からそうなんだ。心が、体が、もうどうしようもないほど求めてしまっているんだ。僕自身に、英雄を。そう形作ってしまったから。もう止められないって、自分が一番よくわかってるんだ。
「まったく…こういうところは誰に似たんだか…」
「ふふ…本当に…」
ないものをねだったってしょうがない。切り替えるしかないんだ。
ここから、始めるんだ。僕の英雄譚を。何も持ちえない僕の、冒険譚を。
「…なるんだ。冒険者に。…英雄に!」
新暦922年、カーマイン王国は辺境の地、ナールビエより新たな英雄、立つ。
のちの歴史家はこう語たる。
無色の英雄は何も持ちえない。しかしただ一つ武器があるとするならそれは。
不屈の精神、諦めない心。その持ちようであったと。
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