第16話 触れ合ってみる
「可愛い寝顔」
サカイの寝顔をのぞき込んで、起こさないように静かな声で呟いた。
サカイが来てから、私は今までになく生き生きしている。
自分の事しか考えず、そしてその自分にやりたいことがなかったために、ただその日を生きているだけだった私。
けれど今の私には、『サカイの居場所を作る』というやりたいことがある。
何にも興味がなく、ただ時間だけを消費しているサカイに、『ここで生きたい』と思える居場所を作る。
なんでそんなことをしようと思ったのか聞かれたら……なんでだろうね?
一目惚れとか?
だからこんなに、サカイの寝顔が可愛く見えるのかな?
「おやすみなさい」
サカイの布団に潜り込む。
遅くまで起きている理由はない。
早く寝て、早く起きて、朝ご飯を作って、サカイを起こさないといけない。
私の朝はこんなに忙しいんだ。
けれどそれが楽しく思える。
瞼を閉じると、自然と眠たくなってエアコンの冷気から逃げるように布団の中に頭まで潜って、眠りについた。
ふと、息苦しくて目を覚ます。
私の顔は、暖かくて柔らかいものに包まれている。
枕に顔をうずめたみたいだけど…なんだか違う。
すごく…いいにおいがする。
暗闇の中に目が慣れてきて、視界がはっきりしてくると…息苦しさの正体が分かった。
(サカイに抱き枕にされてるーー!!?)
視界がはっきりとした私の目の前にあるのは、白の強いペールオレンジの谷間。
至近距離でそれを見せられ、はっきり言って興奮する。
そのせいで眠気が完全に吹き飛んでしまった。
寝られるわけがない。
恋愛感情がどうとか、同性愛がどうとかは一旦置いておくとして…私はサカイの事を性的に意識してる節があるんだ。
…いや、言い訳がましくそんな事言わず、サカイとえっちな事をしたいと思ってる。
そう、セッ――だ。
セッ――したい。
だから…だから…こんな状況、興奮で頭がおかしくなりそうだ。
(ここからじゃ寝顔は見えないけど…どうせ気持ちよさそうに寝てるんだろうなぁ…私の気も知らないで!!)
声には出さず、ただ心の中で叫ぶ。
すると、聞こえるはずのないその叫びが聞こえてしまったのか、私のものではない声が聞こえた。
「…ホミ……」
サカイの、私を呼ぶ声だ。
ドキン!と心臓が強く跳ねる。
すると私を胸に押し付ける、頭の後ろに回された腕が解かれた。
それを好機と見てサカイから離れると…目が合った。
「……………起きてたの?」
「起こされた、って感じかな?」
サカイは私が動いたから起きたのか、理解するのに時間がかかったらしい。
というか、今も眠そうで瞼が何度も上下している。
「ホミ…おやすみ…」
「う、うん…」
睡魔に負けて寝てしまった。
けれど私は全く眠たくないから…どうしたものか…?
寝ているのをいいことに、あれやこれやしたら怒られるかな?
サカイは…サカイなら、許してくれるかな?
「……ごめん」
一応、聞こえているかわからないけど断りだけ入れておく。
そして、サカイの胸に顔をうずめて、右手を下着の中へ入れた。
もしサカイが起きてしまったら、怒られるどころの話じゃない。
絶交というか…訴えられたら負けるレベルだ。
つまり、黒に近いグレー。
けど…人間は愚かな生き物で、私はその中でも特に愚かだ。
「んっ…」
すぐに右手の人差し指が粘性を持った液体にまみれ、股間がうずく。
それをさらに求めるように、何度も何度も指を動かすのだ。
次第に水っぽい音が聞こえ、私の心臓は極度の緊張で外に聞こえてしまいそうなほど激しく脈動する。
(バレたら終わり…!バレたら終わり…!)
もしサカイが目を覚ませば、私たちの関係はおしまいだ。
こんなこと…許されない。
しかしそのギリギリの綱渡りが、私の頭を壊さんばかりの快感を産んで、いつもより激しくなる。
いつもより激しくて、いつもより快感が強いってことは…果てるのも早いってことだ。
「―――~~~ッッッ!!!!……はぁ……はぁ…」
サカイがいる真横で、サカイがさっき目を覚ましたばっかりのタイミングで、サカイの胸に顔をうずめて。
……やってしまった。
もうおしまいだ。
私は人として死んだも同然。
…なのに、もう少ししたいと思うのは間違ったこと…なのかな?
「はぁ……はぁ……」
「…んっ……」
「――ッ!!?」
もう一度致そうしたその時、サカイが小さな声を出した。
それに驚いて、私の体は硬直する。
そこに、サカイの左手が上からかぶさってきて、私の頭を抱き寄せてふくよかな胸に押し付け始めた。
さらに、少し体勢が丸まって、サカイの顔が私の脳天あたりにある。
少し荒い鼻息が、頭にかかってくすぐったい。
息を吸う時の頭が冷える感覚、息を吐いた時の暖かい鼻息の感覚。
それがとてもえっちに思えて、更に興奮してしまう。
…いや、なんか変じゃない?
いくら体勢がよくなさそうとか、私を抱きしめているからにしても、こんなに寝てるときに息が荒くなるものかな?
しかも、はっきり吸われてる感覚と、吹き出す感覚が分かる。
まるで…わざとやってるみたいに。
違和感に気付いて、注意深く音と触角でサカイを観察していると…声が聞こえ始めた。
「…んっ……ぁ……ぁん…」
その声は、必死に押さえているようにも聞こえて……何より、さっき私が自分を慰めていた時に出た声とほぼ同じ。
そして極めつけに…サカイの右腕が、私の腹あたりで動いている気がする。
ちょうど、体制の関係でサカイの股間がある位置で。
「ぁっ…ん…んんっ―――!!!」
「………」
……間違いない。
これは、仕返しなんだ。
大胆にも直接触れておかずにし、起きるなんて当たり前なのに構わず淫らなことをした私への仕返し。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
サカイの仕返しに、私は羞恥心で死んでしまいそうになるほど悶える。
声には出さないし、体はピクリとも動かない。
私の一連の行為はバレていて、仕返しを考えるほどサカイは怒ってるんだから。
恥ずかしくて…でも今更謝れなくて…どうしていいかわからなくなる。
けれど、それでもどうにかしようと思って色々と考えた結果……
「…んっ」
私はもう一度行為を始めた。
吹っ切れたわけじゃない。
頭を使い始めるとだんだん冷静になってきて…今度は逆に、なんだかムカついてきた。
怒るにしても、もう少しやり方があったんじゃないかって。
普通に怒ってくれたらよかったのにって。
ほぼ逆恨みだけど……プライドを気付つけられた気がして、私は仕返しに対して仕返すことにした。
…前にもこんなことがあった気がする。
「…んぁっ……」
すると、サカイも対抗して私と同じことを始めた。
ある意味真剣勝負。
やっていることは、とてもとても口外できたものではないけれど……私たちは本気だ。
本気で…勝敗の条件もわからないまま戦っている。
ぴちゃぴちゃと、意味深な水っぽい音が響いて、エアコンの駆動音にかき消される。
しかし、私たちにははっきり聞こえるのだ。
その音がさらに私たちの性欲を刺激し、いつの間にか勝負を忘れて自分を満たすことだけを考えるようになる。
そして、私たちは同じことを考えていたらしい。
((これもうほぼセッ―スなのでは…!?))
羞恥心とか、怒りとか、プライドとか。
これまでの信頼とか、これからの関係とか、この瞬間の距離とか。
そんなのどうだっていい。
今はとにかく触れ合って、見せつけ合うように、こうしていたい。
本来一人でするもののはずの行為を、二人で見せつけ合うようにする。
隠れてやった時の緊張感とは違う、それと同じくらい強い快感。
頭がおかしく……いや、もう既に十分すぎるくらいおかしくなってるに違いない。
だから…
「「んんっ…あっ…!…んあああぁぁ――――っっ!!!!」」
盛大に、隠す気もなく、声を出して同時に果てた。
頭がチカチカして、視界もなんだかはっきりしない。
そんな状況で、私はサカイの胸から顔を離す。
そして…暗闇の中でもわかるくらい、顔の赤いサカイと見つめ合った。
息が荒くて、唇がわずかな光を反射して艶めいて、焦点が合っていなさそうな目で吉らを見つめるサカイ。
ああ……ものすごく――
((―――は、恥ずかしい…!!!))
摩擦で痛いくらいの速度で同時に反対方向を向き、背中合わせになる。
プルプルと体が震えて、何度も軽く体が触れ合う。
その度に大げさにビクッ!と震わせるけど…すぐに触れ合える距離からは絶対に離れない。
何故なら…自分を抑えようという気持ちと、相手に期待している気持ちがあるから。
(ぜ、全然冷静じゃないけど、冷静に考えて何やってんだ私!もう健全な関係じゃいられないでしょこれ!!?)
頭はまだまだ熱を持ったままだけど…正常な思考が戻ってきた。
その部分が自分のしでかしたことの重大さを訴え、もだえ苦しむ。
一方のサカイはというと…
(な、なんでこんなことに!?何の脈絡も無かったはずじゃ!?いや、確かに今したことの更に先は、私の求めるものではあるけれどさ…なんで?えっ!?)
当然知る由もない事だけれど、サカイもサカイで頭での理解が追いついていなかった。
(どうしよう…明日からどんな顔でサカイと接すればいいわけ…?)
(……いっそこの場で押し倒して肉体関係を持ったほうが、まだマシなんじゃ…?)
(いやでも…そんな事すれば…こ、こここ、恋人同士…!?)
(ホミと…付き合う…?悪い話じゃないけど…まだ時期ってものが…!)
考えていることは同じ。
根拠はないけど…そんな風に思えた。
多少考えている事に差はあれど…結局同じ結論に行き着いた。
((よし、これは夢ってことにしよう!))
夢オチ…実際には起こらなかった事にする。
頭の中でどう考えていようが、夢でどんな体験をしようが、実際にそれが現実にならない事には確定した話ではない。
だから…現実から目を逸らし、夢という事にして無かったことにする。
あとは私達が暗黙の了解で何も言わなければ、もうそれは夢になる。
私達の過ちは無かったことにする。
そう、同じ結論に行きついて、その事を何となく察して………けれど興奮は冷めることはなく、何もなかった事にすることに一晩を使い、朝がやって来た。
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