第13話 戦いの準備

 洞窟から出てきたのは、盗賊風の人間が四人だった。だが、それが全てではないだろう。洞窟の奥には、まだ多くの仲間が潜んでいる可能性が高い。遺体を捨てに森へ向かった彼らをここで襲うのは危険すぎた。もし洞窟に多くの敵が残っていれば、ロニたちの今の人数では太刀打ちできないのは明らかだ。


ロニは冷静に判断を下した。今はまず、殺されてしまった仲間の遺体を回収し、弔ってやることが先決だ。敵の正確な人数や、その行動パターンを知るのは、それからでも遅くはない。


ロニたちは物陰に隠れ、人間たちが遺体を捨てに森の奥へ向かうのを見送った。彼らが洞窟へ戻るのを待ってから、ロニはパウ、ベロ、クロウを連れて、彼らが向かったと思われる方角へと足を進めた。


血の跡を辿っていくと、少し開けた場所に出た。そこには、ゴブリンたちの遺体が乱暴に投げ捨てられていた。体には生々しい傷跡が痛ましく残されていた。


「…ひどい…」


ロニは胸を痛めながら、ゴブリンたちに遺体の回収を指示した。皆は無言で仲間の遺体を運び始めた。彼らもまた、無残に殺された仲間への深い悲しみと怒りを抱えていたのだ。


全ての遺体を回収し終える頃には、すでに日は西に大きく傾いていた。傷ついたゴブリン二匹をこれ以上連れ回すのも可哀想だった。ロニは一度村に戻ることにした。


村に戻ると、待っていたゴブリンたちが遺体を見て、皆が悲しみにくれた。彼らの悲しみは、失われた仲間へのものだけでなく、ロニへの心配も含まれていた。


ロニは集会所に皆を集め、亡くなった仲間のために小さな式を執り行った。そして、彼らを丁重に埋葬してやった。


葬儀の後、ロニは皆に語りかけた。ジェスチャーと絵を交えて、仲間の命を奪ったのは森の洞窟に潜む人間であること、そして必ず彼らの仇を取ることを伝えた。ゴブリンたちは、ロニの言葉に力強く頷いた。彼らもまた、同じく仲間の仇を討ちたいと願っていたのだ。


だが、感情に任せて突撃するだけでは勝てない。相手が何人いるのか、どんな武器を持っているのか、いつ洞窟に滞在しているのか。知るべき情報はあまりにも多い。


ロニはゴブリンたちに、交代で洞窟の周辺を見張り、そこに潜む人間の数を数えるよう指示した。特に、夜中から明け方にかけて、彼らがどのように過ごしているのか、その行動パターンを知ることが重要だった。


数日間、ゴブリンたちが交代で洞窟を見張った。ロニは彼らからの報告を聞き、その情報を精査・集計していった。


その結果、洞窟を根城にしている人間は全部で九人いることが判明した。そして、意外なことに、彼らは明け方、すなわち夜明け前から朝にかけての時間帯に、全員が洞窟内で眠りについているらしい、という事実が分かったのだ。夜の間はどこかへ出かけているようだが、夜が明けると、必ず全員で休息を取るようだった。


九人の人間。剣やナイフといった武器を持っているだろう。彼らに正面から戦いを挑めば、ゴニブリンたちの被害は甚大となるのは火を見るより明らかだ。ロニは、犠牲を最小限に抑える方法を考え始めた。


明け方、敵が全員、無防備に眠りについている時...。ここしかない。不意打ちだ。

ロニは、敵が最も油断しているであろう明け方の時間を狙って、奇襲をかける作戦を立てることにした。


まずは、戦いの準備に取りかかった。村のゴブリンたちを集め、武器作りを始める。鋭く尖らせた木の枝で簡単な槍を大量に作り、動物の骨も先端を鋭く削ってナイフのようなものを用意した。


さらに、大量の石も集めた。石は投げつけたり、高い場所から落としたりすれば、強力な武器となり得る。また、森に生えている頑丈な蔓も、敵を捕らえる罠として使うために集めさせた。


パウ、ベロ、クロウ、そして村のゴブリンたちは皆、ロニの指示に従い、黙々と準備を進めた。彼らの目には、敵への怒りとロニへの厚い信頼、そして来るべき戦いへの固い決意が燃え盛っていた。


槍、石、蔓…。準備された資材。そして、何よりも強い、仇を討つという意志。ロニは、集まった資材と決意に燃えるゴブリンたちの姿を見て、必ずこの仇を討つと心に誓った。


作戦は、まだ綿密に練る必要があった。どうやって敵の潜む洞窟に忍び込むのか。どうやって奇襲を成功させるのか。そして、どうやってあの九人の人間全てを確実に仕留めるのか。


ロニは夜空を見上げながら、来るべき戦いに向けた最後の準備を整えていった。

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