第6話・プロットの重要性と対象読者


 先生にすすめられた短編小説の感想を、本日感想文にして提出したあと。


 先生はいつものように講義を開始させていた。


「プロットは大事だが、それにしばられすぎるのもそれはそれでよくない」


 プロットという単語に最初、なじみのなかった俺だが。


 入部したての頃に、かるく教えて貰った。

 プロットとは小説や演劇などの物語の、筋道すじみちや構成をさすらしい。


 簡単に言えば、これから書く話がどういうもので、どういう展開が起きるかなどを事前に考えておくということだ。


「少年誌の連載漫画でさえ、編集の好みに合わなくて展開変わったやつ結構あるって話ですもんね」


「うむ。それでもやはり物語を書く上で、プロットは必須だ。ジャンル・対象とする読者・テーマ・ストーリー展開・作品の魅力は何か……等々、決めておくことは山のようにあるからな」


「行き当たりばったりで書き進めると、絶対に途中で詰まっちゃいますもんね」


「そうだ。伏線を張っておくこともできないし、明らかな矛盾点がでてくることも多い。そうならないように、プロットを書いておくわけだが……」


「その通りにしすぎても良くない、と」


 むぅ、と先生は口の形をへの字にしてうなりはじめる。


「そうなのだ。途中で凄く面白い展開がひらめくこともあるし、自分が想定していた読者層より別のファンがつく可能性も捨てきれないからな」


「あー。最近の名探偵○ナンとかそんな感じしますよね」


「プロットの通りにしなければ、と考えすぎるとどうしてもり固まった感じになりやすい。それでは書いている作者としても楽しくなくなってしまうものだ」


「確かに、夏休み中の計画とか立てても、その通りにしなくちゃいけないって考えると微妙に嫌な時ありますからね」


「だからプロットはあくまで指針、羅針盤らしんばんのようなものと考えるといいかもしれない。目指す先は決めておき、そのうえで途中に少し冒険してみたり、横道に入ったりするのもそれはそれで面白いものだ」


「なるほど。参考になります」


「うむ」


 そこで、先生は一度椅子に腰掛け、いつもの超・砂糖水を飲む。


 先生が席を外した時にあれこっそり飲んでみたことあるけど。シロップを数倍甘くしたくらい、甘ったるい味するんだよなぁ……。


 そんな風にちょっと引いてる俺をよそに、先生はポンと手を叩き話を再開させる。


「よし。話に少し出たついでに、今日は対象読者についても少し語ろう」


「対象読者、ですか?」


「そう。自分が書く作品が、どういう読者にウケるのか。それについてだ」


「少年漫画雑誌なら少年向け、青年漫画雑誌なら青年向け、って感じのことですよね?」


「そうだ。単純なようだが、意外に考えから抜けてしまうこともあるからな。今のうちに少し講義しておこうと思うのだ」


「わかりました、お願いします」


 先生は改めて教壇に立ち、次なる講義を開始する。


「キミがいま言ったように、少年漫画雑誌なら中高生の少年に向けた話が主流だ。小説の世界でも、大人向けの一般文芸と、子供向けの児童文学と、青少年向けのライトノベルとでは書き方も表現もかなり違ってくる」


「確かにそうですね」


「そして、そうした同じ界隈かいわいでも微妙に対象読者は枝分かれしていく。ライトノベルでも男性向けと女性向けはまるで違うし、恋愛ものですら純愛とラブコメとで変わってくる」


「だからこそ自分が書く小説が、どういった対象に向けたものかは、最初に決めておく方がいいということですよね」


「そうだ。誰に読んで貰うかあやふやなまま書き進めてしまうのは、危険極まりない。自分が書きたいものを書く、それはいい。だがそれのみで書き進め出来上がったものは、どうしても自己満足に落ち着いてしまうだろうからね」


「趣味ならいいけど、市場しじょうに出回ることはない、と」


 深々と先生は首を上下に動かした。

 どことなく、その仕草に実感がこもっている気がしたが。俺の気のせいだろうか?


「話を続けるぞ。対象読者について、さらに分かりやすく説明すると『おっさん無双物語』なんてタイトルの小説があったとする。するとそれはだいたい三十歳以降の成人男性を、購入してもらう対象に想定しているわけだ」


「なるほど。でもその例えだと、さすがに読者が限定されすぎる気もしますが」


 苦笑する俺だったが、先生は大真面目な様子のまま続けていく。


「確かにな。シンプルに『無双物語』とすれば、無双して爽快感を味わいたい読者をまとめて引き込むことはできる。だが、それだと他の作品と競合して埋もれやすいという欠点があるのだ」


「あ、それはそうですね。無双系とか転生系とか、いまじゃラノベだけじゃなくマンガにすら進出してますし」


「そうなるよりは、かなり細かく対象読者を絞り、一本釣りを狙っていくほうがやはり目立つ。興味を持ってもらわないことにははじまらないからな。昨今のライトノベルのタイトルが長いのは、そうした釣りを意図している部分もある」


「広く浅く狙うか、狭く深く狙うか。どういう読者を対象に、どういう攻め方をするか考えるだけでも、なかなか大変なんですね」


「うむ。まあそのあたりは、自分の書きたいこととり合わせながら、じっくりと考えていけばよい。とりあえずは、対象読者を意識することが大事だということをしっかり覚えておいてくれればいい」


「わかりました!」


 そこまで先生が話したところで、下校のチャイムが鳴り響いた。


「よし、本日の講義はここまで!」


「ありがとうございました!」

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