27話 副作用のもたらす事故


ナーハーシュを倒した後の興奮が冷めると、私は我に返った。

コネクト・レゾナンスの惨状を改めて目の当たりにする。


通常ダンジョンの壁は非常に固く、魔法や魔術などではほとんど傷一つ付かないはずだ。

それなのに、あの光の奔流は、ナーハーシュを倒し、ダンジョンの壁に深々と穴を開けていた。


(これ、人に向けて撃っちゃいけないやつですわ……)


私はその圧倒的な力の危険性を改めて認識した。

思わず、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。


(……最悪、ダンジョン攻略が失敗した時は、三人を闇討ちするつもりだったとは言えないですわね)


自暴自棄になっていたとはいえ深く反省した。

この力を、安易に使うべきではないと、心に刻む。


しかし、その反省の念も、すぐにメンバーの安堵と喜びの声にかき消された。


「私たち……倒したんですね……!」


プリファが、へたり込んだまま、信じられないといった様子で呟く。

その瞳には、涙が滲んでいた。


カーナリアは銃を抱きしめ、深く息を吐き出していた。

一ノ瀬も口元にわずかな笑みを浮かべている。


「ははは……すごい威力だったね。あれならどんな魔物もイチコロだね」


カーナリアが笑い声を上げた。

その声には、まだ興奮が残っていたが、すぐに彼女は立ち上がろうとして、その場で尻餅をついた。


「って、あれ? なにこれ、足に力が入らない……」


彼女は自分の足を見つめ、驚いたように呟く。

足に力を入れようとしても、まるで糸の切れた人形のように、全く力が入らないようだ。


一ノ瀬も壁に体重をかけながら、気合いで立っているような状態だった。

その顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。


「多分、魔力欠乏症です」


プリファが顔色を悪くしながら答えた。

彼女の耳は、普段のピンと張った状態とは異なりシナシナと垂れ下がっている。


「魔力欠乏症……? そんなに?」


私は自分の魔力量を確認したが、まだ十分な余力がある。

しかし、他の四人の顔色は蒼白で、額には冷や汗がにじんでいた。


「お前は大丈夫なのか?」


一ノ瀬が、顔色を悪くしながらも、確認するように尋ねてくる。

彼女の声には、かすかな心配が混じっていた。


「ええ、まだ8割くらい残っていますわ」


私の言葉に、一ノ瀬は目を見開た。


「は、八割?」

一ノ瀬の顔から血の気が引いていくのがわかった。

「コネクト・レゾナンス、初めて使ってみましたけどこんなに負担がかかるなんて……」


(緊急時とはいえ、やはり十人で使う魔術を五人でやるのは負担が大きかったですわね)


私自身も予想以上の魔力消費に驚きを隠せない。


プリファ、カーナリア、エレナ、一ノ瀬はそれぞれがふらふらと座り込んでしまった。

魔力欠乏症は、単に魔力がなくなるだけでなく、一時的に身体の自由を奪い、魔力の使用を不可能になる。


「とはいえ魔力がないとダンジョンの中だと危険ですわね」


私は焦りを感じた、このままでは、次の魔物と遭遇した時に対応できない。

私はポーチからマナポーションを取り出そうとした。

「あっ……」

しかし、先ほどのコネクト・レゾナンスの余波で、ポーチに入れていた魔力薬の瓶が、ほとんど割れてしまっていた。


「高かったのに……」


私は割れた瓶を見て、必要な時にないなんて、と歯噛みする。


「こんなことなら特大のマナポーション持ってくればよかったですわ」


荷物整理に、軽さ重視でマナポーションの数を減らしたことを後悔した。

まさかこんな事態になるとは予想だにしていなかったのだ。


(どうしましょう……)


敵を倒したとはいえ、ここはまだダンジョンの奥深く。

いつ次の魔物が現れるかわからない。時間もない。


仕方ない。この方法しかない。私は覚悟を決めた。


「応急処置として私の魔力を譲渡します」


私がそう告げると、すぐに彼らの顔は複雑な表情になった。


「時間もありませんので、一気に四人同時に行いますわ」


私の言葉に、一ノ瀬の顔がぴくりと動いた。

他の三人も、顔を赤らめたり、視線を逸らしたりと、それぞれの反応を見せる。


魔力譲渡がこの世界において持つ意味を、皆が理解しているからだ。


「くっ……早く済ませてくれ」


一ノ瀬は顔を伏せ、耐えるように呻いた。

彼女にとって、これは屈辱的なことなのだろう。


「あはは、まあ緊急時だしね〜」


カーナリアは頬を掻きながら、普段通りの軽口を叩こうとするが、

その表情は明らかに引きつっていた。


「治療行為……これは治療行為です……」


プリファはまるで自分に言い聞かせるように、ぶつぶつと呟いた。


「………!」


エレナは顔を真っ赤にして、きゅっと目を瞑る。


それぞれ四社四葉の反応をする。

彼女ら全員が、緊急時だから仕方ないと自分を納得させようとしていた。


私は、四人を横一列に並んで寝かせた。

そして、魔力を譲渡するために、魔力炉のある子宮あたりに手をかざす。


「ここら辺ですわね」


私が呟くと、四人は覚悟を決めた様に目を固く瞑る。


「じゃあ始めますわよ〜」


私は緊張をほぐそうと軽く言葉を放つ。


魔力を半分ほどまで回復させようと、魔力を流し始めた。

私の魔力が、彼女らの身体に驚くべき速度で浸透していくのを感じた。


この時、私は知らなかった。

コネクト・レゾナンスを発動した際の副作用で、私の魔力が魔術に加わった人に通じやすくなっていたことを。


それは、魔力譲渡が通常よりもはるかに容易になるということだった。


そして、私の莫大な魔力量も相まって、

それは予期せぬ事態を引き起こすことになる。



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