ほんぶん①

「妹さんについて、もっといろいろ聞いてもいい?」


 妹さんの部屋にいた私と小林くんは、そのまま話を続ける。


「小林くんが知ってること、思い出せることはない? 何でもいいの。教えて」


「いいけど、話せることは少ないかもしれないよ」


 アルバムは有力な手がかりになるだろう。『なつのじゆうけんきゅう』の謎を解くにはもっと情報が欲しいと思った。

 私の問いに、小林くんは困ったような顔をしながら答える。


「妹さんが事故で亡くなったのって、いつ頃のこと?」

「事故があったのは三年前。僕が小五で、妹が小三のときだった」

「そういえば、小林くんはおじいさんの家にいたんだよね?」

「そうだよ。その間は、一度も自宅には帰ってきてないから……」


 当時、小林くんはこの家にいなかったから、『話せることが少ない』のだろう。

 そうでなくても記憶は曖昧だ。


 私も当時は小学五年生。周囲の様子を把握できたり、事情を察したりできるような年齢だった。

 たとえ学区が違っても、塾や習い事で近隣の学校の生徒と交流がある子達もいるし、近所で事故があったというのなら、保護者達の間でもそれなりに騒ぎになっていただろう。それなら、噂話がどこからか回ってきたにちがいない。

 だけど、そんな記憶はさっぱりだ。


「事故って? 交通事故とか?」


 詳しく問い詰めようとすると、小林くんは目を伏せる。


「詳しく教えてもらえなかったんだ。子どもには話せないって」

「えっ、そうなの?」

「大人はみんな話したがらなくて。でも、葬儀のときに親戚の人たちが転落事故だって話してたのは覚えてる」


 余程酷い事故だったのだろう。


「突然、父さんから連絡があって。妹が事故にあったって聞いて、じいちゃんと慌ててこっちに戻って来たんだ。病院に着いたときには、妹は亡くなってた」


 俯いた小林くんの表情は暗い。

 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、私は咄嗟にフォローしようと声を掛ける。


「つらい話をさせて、ごめんね」


「大丈夫だよ。もう昔のことだから。それに、僕はずっと離れて暮らしてたから、実感がわかないっていうか。なんだか他人事みたいに思えてて……」


 気持ちを誤魔化すみたいに、小林くんは笑ってみせる。

 でも、やっぱりどこか悲しげで、上手くは笑えていなかった。

 そんな顔をさせたかったわけじゃないのに……。


「兄妹なのに冷たいし、酷いよな」

「そっ、そんなことないよ」


 他にどう返せばいいのかわからなくて、ゴニョゴニョと口ごもってしまった。

 そんな私に気を遣ったのか、小林くんは話題をそらそうとする。


「日比谷さんのところは、弟がいるんだよね?」

「ええっと……」


 その問いに答えようとした、そのとき。



 ガシャ――――――――――――――――――――ンッ!



 どこからか、大きな物音が聞こえてきた。

 私は、思わずビクッとする。

 ビックリして、何を話していたか忘れてしまいそうだった。


「小林くん、今の……?」

「一階からだ」


 小林くんが立ち上がり、部屋を後にする。

 私も彼を追って一階へ向かった。


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