ほんぶん②

 小林くんは、これを私に託してくれたけれど。今日初めて喋ったくらいのクラスメイトに、妹の遺品をほいほい預けるなんて、普通するだろうか?


「だいたい、なんかちょっと怪しんだよね」


 何度も言うけれど――そもそも私は、小林くんについて知らなすぎる。

 それならいっそ、に聞くのもありかもしれない。



 翌日、午後から部活動で登校した私は、校門の前でふたりの男子に声をかける。


「どーも、エセ霊能力者ですけど?」

 

 相手は、三組の渡辺と五組の松田。幼稚園の頃からよく知る同級生だ。

 私は、腕組みをして仁王立ち。わざとふてぶてしい態度をとってみせる。


「またの名を、スピリチュアルとも言うんだけどね」


 冗談まじりにそう言うと、わかりやすくギクッとしたふたりは、「うわっ」と小さく声を上げて、気まずそうな顔をする。


「……こんなところで、なんだよ?」

「俺等、今から部活なんだけど」

「いいえ、部活の前に確かめておかないと。私について、小林くんにいろいろ話してくれたらしいじゃない?」


 ふたり揃って「ははっ」と笑ってみせる。余程酷い悪口でも言っていたのだろう。


「いや、それはさぁ……」

「ちょっとした世間話だよ」


 そうは言っても、ふたりとも今にも逃げ出してしまいそうだ。

 歩き出そうとしたふたりの行く手を塞ぎ、私は問いかける。


「小林くんについて教えて。どんな子なの?」


 ふたりは顔を見合わせる。


「小林って……小林諒太? 別に普通のヤツだけど?」

「ああ、だよな?」


 普通というのが、どう普通なのかわからないけれど。


「俺等、アイツと一年で同じクラスだったんだけどさ。頭いいし、運動神経もいいし。悪いとこ全然ねーし、優しくていいヤツだよ」

「絵に描いたような優等生、ってヤツだよ。でも、そういうの自慢したり、偉そうにしたりしないんだよな。いいヤツだよ。


 ふたりの話を聞いた感じでは、小林くんはいい子みたいだ――ただし、気になるところがひとつ。やけに『』を強調しているように聞こえた。


「小林くん以外に、何か問題があるの?」


 私がそう指摘すると、ふたりはハッとした顔をする。


「やっべー、時間ねーんだった」

「部活間に合わなくなるから、俺等もう行くわ」

「質問に答えてからにしてよ」

「いや、だからその……」

「俺等、忙しーんだよ」


 渡辺はキョロキョロ、松田はオロオロして、わかりやすいくらいの慌てぶりだ。


「待って! まだ話の途中!」


 咄嗟に呼び止めたけれど、ふたりは振り向くことなく、体育館の方へ走って行ってしまった。

 その後ろ姿を見つめて、ため息をひとつ吐く。

 どのみちあれ以上問い詰めたところで、私と同じ小学校出身のあのふたりから、詳しい話は聞けないだろう。


「小林くんのことを聞くなら、クラスの子か……それとも、同じ小学校の子か……ああ、でも、向こうの小学校の子は……」


 額から垂れる汗を手の甲で拭った私は、ひとりでぶつくさ言いながら、校舎へ上がる。下駄箱で靴を履き替えていると、ちょうどチャイムが鳴り響いて、急かされるように音楽室へ向かう。


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