第35話 ダンジョンの向こうにいるもの

 まずは二人を仙気で包み込む。

 そして、少しずつ仙気の力で二人の情報を読み取っていく。


 肉体的な変化は意外と少ない。

 って言うかほとんどホモ族のままだ。

 良かった。


 心臓に「魔核」がくっついちゃってるけど、どうにも後付けな感じで、どこかしら問題の根本では無いように感じる。


 見た目に分かりやすいモノなら、言っちゃなんだがグルヴェイグ大師匠がどうにかできない訳がない。

 うちの大師匠はそんなに甘くない。

 もっと色々試してるはずだ。


 そういう意味では既に試されたことなんだろうけど、肉体的なと言うか、物理的な部分から離れて少し深い部分を探る。

 魔力回路、精霊力の状態、闘気の面でチャクラの状態をそれぞれ調べていく。

 ここまではグルヴェイグ大師匠も、俺とは違うやり方だとしても調べたはずだ。


 慎重に、丁寧に二人の状態を読み取っていく。


 ・・・まず一つ。

 魔力回路に巣食ってる奴を見つけた。


 本人由来の気配では無いから判別できた。

 イメージは細く張り巡らされた血管の様。

 宿主と一体化して、すぐには見つからない類の寄生蟲だ。


 全身に根を張っていやがる。

 こちらが探っていることに気づいたかの様に、澱んだ魔力を発し始める。


 すると母さんが声を上げる。

 「トール!気をつけて!「フィアー」に強制転移させられる時と同じ感覚がするわ!」


 「分かった。で、痛みは無い?」

 一応聞いてみる。

 「それは大丈夫よ。

 あら?転移が起きないわね?トールあなたが抑えてるの?」

 母さんなんか興味が湧いてきたみたいだな。

 まぁ見たまんま魔術師だろうから知的探究心強め女子なんだろうね。


 「そうだよ。だから母さんは自分を保つことに集中してくれれば良い。」

 「フィアー」の影響を抑えつつ答える。

 分かったわ!と元気よく答える母。

 なんかかわいい。


 ・・・次にもう一つ。

 母さんには火の精霊が守護精霊としてついてくれてるけど、精霊の体に呪詛が巻き付いてる。

 どうやらそれがどんなものなのかすら俺に訴えることができないみたいだ。含めて縛られてるのか。だが仙気でその施された呪詛の実体を把握する。

 待ってろ。君も解放してやるからな。

 思うと同時に精霊が微かに微笑む。

 そんな顔されたら絶対負けらんねーな。


 同時に、父さんの方から伝わる感覚には、母さんと同じ魔力回路にへばりつく寄生蟲と、チャクラに集中して集まっている黒く細かい蟲の群れの様なものが感じられた。


 コイツら父さんの闘気をほんの少しずつだけど餌にしてやがる。その上で父さんの闘気と同質化して、「フィアー」の力を流し込み、父さんを束縛する枷になってるんだ。


 「父さん、確認だけどさ、ダンジョンに捕まってからも、魔力も闘気も問題なく使えたんだよね?」

 一応聞いてみる。


 「ああ。問題なかったな。体も普通に鍛えてたし、病気らしい病気もしたことがなかったよ。

 不意打ちしてダンジョンから逃げようとすると、強制的に引き戻されたけどな。」

 と、父さん。


 まあ二人のことだから色々やってたんだろうな。多分、最近になっても思いつけばなんか試してたんじゃないか?

 それがモチベーションに繋がってたとか。


 でも状況を把握してみて理解した。


 グルヴェイグ大師匠が匙を投げる訳だ。


 魔力や精霊力、更には闘気にまで順応して、肉体と精神を繋ぐ様な器官に姿を変えて入り込み、その一部になって束縛する。


 「魔核」を中心にして。


 魔力回路であれチャクラであれ精霊を縛る呪詛であれ、宿主を害するそれらの力を、肉体の中心に「魔核」を埋め込むことで強力に作用させて確実に縛りつける。

 尚且つ、それぞれに巣食う寄生蟲や呪詛という存在が理解できなければ、根本的な解決には至れない。


 外科手術的に「魔核」を取り出させたとして。


 ダンジョンとの繋がりを取り除けた様に見えても、「魔核」は中核というより「フィアー」の意思を増幅するブースターのような位置付けだから、構築された束縛機構そのものである寄生蟲や呪詛の除去ができていない。

 「魔核」だけ取り出せば、まちがいなく悪い影響が出る。恐らく二度と魔力も闘気も使えなくなる。精霊との交信も。


 そして、一度巣喰った寄生蟲どもが、大人しく出ていく訳がない。

 必ず宿主を害して、下手しなくても死ぬ。


 仮に寄生蟲どもに気付けたとして、俺の様にアプローチできなければ、そもそも「魔力回路」や「チャクラ」に巣食ってる存在なのだ。

ここに手を出すためには、文字通り人間業では無理だ。


 グルヴェイグ大師匠も、俺ほどハッキリは掴めずとも、違和感を感じたはずだ。真実に迫りつつあったのに何もできなかったんだ。さぞ無念だっただろう。


 ・・・ここまで理解してふと思った。

 いや、急速に一つのイメージに繋がっていくような感覚。

 ・・・何だろう。

 この違和感の様なものは。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・!!


 そしてイメージが繋がり、俺は一つの事実に気づく。


 ・・・そうか。

 囚われた対象の体内に「魔核」をわざわざ創り出したのはこのためか。


 たかがダンジョン・コアの分際で。

 束縛や支配の仕方がと思ったんだ。

 生き物を取り込んで「ガーディアン」として仕立てる?自我を残して?


 通説ではそうだ。

 過去に事例もある。

 目の前の両親などレアケースと言われて通説を裏付ける筆頭事例扱いだ。


 だけど。

 そう。

 たかが「ダンジョン・コア」が振う力としては、


 「仙気」で感じ取ったのは、二人の肉体と精神の狭間にある魔力回路やチャクラに巣食っている澱んだ存在、それに指示を出していると思い込んでいた、「フィアー」のダンジョン・コアよりも更に奥にいる


 言い換えれば、コイツら「寄生蟲」どもを「、ダンジョンに・コア」と「魔核」を経由して「ガーディアン」に寄生させた


 俺のような存在が現れることを何処かで恐れていたんだ。


 「フィアー」という名のダンジョンを隠れ蓑にして、復活までの情報収集をしているんだな。

 


 他のダンジョンも、言わばお前に現世の情報とお前が成長するために「魔素」を送り続ける「端末」だったってことか。


 まさかこんなに早くの存在に触れることになるとはな。



 よくも俺の大切な身内の人生奪ってくれたな。

 絶対に落とし前つけてやんよ。

 もう楽には死ねねーぞ?


 「魔物の王クソ野郎

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