第33話 「フィアー」入場!
「トール殿は「ガーディアン」のお二人の実子であられるというのか!
・・・また何という数奇な運命・・・。」
デリンジャーさんが俺の身の上を知って驚き絶句する。
あの後、ギルマスの執務室に移動して「フィアー」についての情報共有を行っていた。
デリンジャーさんとピルスナーさんは定期報告に近いもので、こう言っては何だが特別な情報は無かった。
むしろ、俺の出自が衝撃的だったようで、二人してビックリしているところである。
そりゃそうだよね。ガチ当事者のガチ血縁者です勇者の力で両親解放に来ましたって、なかなかぶっ飛んだ内容だもの。
「早速向かわれますか?」
驚きの余韻を飲み込んでピルスナーさんが聞いてくる。
流石ギルマス。即応することの大切さが分かってらっしゃる。
危機管理能力が高くて好感が持てる。
そもそも俺に対してハナから相手にしないって態度じゃ無かったからな。
仕事できるんだよなぁこの人。
「はい。俺なら10分かからず到着できます。
探索依頼の受理証さえ発行していただければ直ぐにでも。」
と答える。
「・・・っえ?じゅって今、え?私聞き間違えましたかね?今10時間っておっしゃいましたか?」
流石のピルスナーさんが混乱する。
だよねー。
飛べること伝えて無かったもんね。
「お伝えしていませんでしたが、俺、飛行できる能力があります。
それもかなりの速度で。
もう一度言いますが、10分かからず到着できます。」
流石に立場のある大人二人はポカーンとはならないが、目は点になっている。
しかし、二人とも直ぐに持ち直して現実に戻ってくる。流石だ。
「それだけで「勇者」のお力の凄まじさが分かりますね・・・。
うちの娘なぞ到底そこまでは及ぶものではない気がしますが・・・。」
デリンジャーさんが感じたことを口にする。
本当に娘さんのこと心配されてるなー。
「デリンジャーさん。
聞くところによれば俺の他にも勇者の資質を持つ人たちが複数いるようですが、おそらくですが、俺、現時点ではおそらく飛び抜けて強いです。
他の勇者の皆さんは今のところ僕ほどの力は身につけてはいません。
一番乗りで「ミラジェ」入りして、大師匠から手解き受けたの俺だけですから。
でも、娘さんのカーリーさんも順調に修行で力をつけていらっしゃいました。お互い怪我の無いように少し手合わせしましたから、お世辞抜きです。」
デリンジャーさんが少し明るい表情、何というか、僅かに「希望」を見つけた様な、相好を崩すとまではもちろんいかないが、一瞬、柔らかい表情を見せた。
娘さんを心配しているだけじゃなく、会ってからずっと感じてるけど、この人、ずっと一緒に戦ってる。娘さんと一緒ってだけじゃなく、まるで勇者と一緒にそこで戦っているかのような。なんてすごい人だろう。
「・・・トール殿。今後とも娘をよろしくお願いします。一刻も早く貴方の様に強くなって欲しい。心から願います。」
「分かりました。一緒に強くなってみせます。」
俺は約束する。
そして「いつの間にか」と言うと嘘になるが、俺とデリンジャーさんが色々話し込んでいるその間に、ピルスナーさんはサッと必要書類を仕上げていた。
できる男ピルスナー。マジカッコ良い。
「ではこちらをお使いください。」
ダンジョン内の魔物討伐依頼を受注した証明書を渡してくれた。
「トール殿。最早お力を疑ってなどおりませんが、くれぐれもお気をつけて。世界は、世界の未来には貴方が必要です。」
「お気遣い感謝します。ついでと言っては何ですが、俺の力、お二人には見ていただきたい。飛翔能力がどんなものか、ご覧にいれます。」
礼を言って受け取り、早速「フィアー」に向かうためにギルド庁舎の外に向かう。
二人とも付いてきてくれる。
ギルド庁舎前にはそこそこ広めの噴水広場があり、そこまで来て振り返って、もう一度挨拶する。
「色々取り計らっていただき感謝します。直ぐに戻りますから、その時またお力添えください。」
言ってから力を解放する。
少しずつ浮かんでいき、屋根の上まで来た時点で「では行ってきます!」と大きな声で伝えたあと、北に向かって一気に加速した。
瞬きする間に彼方へと飛び去った勇者トールの飛翔能力を目の当たりにして、ピルスナー氏とデリンジャー氏は驚くよりも安心していた。
「デリンジャーさん。
トール殿はまだまだ成長途上のはず。にも関わらずあの規格外っぷりだ。
どうやら我々は、新しい歴史の目撃者になるようですな。まさかあの二人、ここまで見越してるなんて事は無いですよね?」
とピルスナー氏が意味深にデリンジャー氏に話しかける。
「否定できませんね。何せあのお二人のお子様です。
歴史の目撃者になるという点は同感ですよ、ピルスナーさん。
彼が他の勇者を高みに導き、前代未聞の勇者隊を作り上げるような気がします。」
と頼もしげに話すデリンジャー氏。
今世に生まれ出ることを後悔すると良い。
魔物の王よ。
我らが勇者は貴様などに屈しはせんぞ。
そう思いながら、トールが飛び去ったあとに真っ直ぐ引かれた雲を見つめて、「我々もあのご夫婦と共に戦いましょうぞ」と、ピルスナー氏が呟くと、それぞれ決意を新たにするのだった。
ーーーーーーーーーー
気合い入れて飛んでたらあっという間に着いた。
上空から突然着地して「何奴?!」とか警戒されたく無いから、手前で地上に降りてから監視役の冒険者がいる小屋に向かう。
「魔物の間引きを請け負いました。入場させてください。」
ダンジョン内魔物討伐依頼受注の証明書を渡す。
訝しむ監視役の冒険者。
「・・・受注証明書は確かに確認した。だが、一人とは一体どう言う、ん?」
監視役の冒険者は、証明書とは別のサイン入りの書類を見つけ、素早く視線を走らせる。
何度かこちらを見ながら、初めは値踏みするような視線だったのが、文面を読み進めると徐々に驚きと戸惑いが混ざったものに変わっていく。ピルスナーさん、良いもの混ぜてくれたみたいだな。後でお礼をしなきゃな。
それでも、まあ信じきれないよな。
と思って、監視役の人の目の前で真上に飛んでみた。
豆粒にしか見えないくらいの高さまで一気に。
んでもって意図的にドスンと降りて来た。
その上で目で語る。
「理解していただけましたか?」と。
「・・・今の見せられてギルマスからの添え書きまであれば信じざるを得ないですよ。
先ほどまでの非礼はお詫びします。
我らが勇者よ。
どうぞお通りください。」
なかなか使命感の強い冒険者だな。敬意を払って挨拶を返す。
「油断無く対応されてご立派です。お手数をおかけしました。」
俺は心からの言葉を伝える。
「どうかお気をつけて!」
再度監視役の冒険者から激励の声が飛ぶ。
「ありがとうございます!」
俺は元気よくお礼を伝える。
いろいろあってようやく「フィアー」に足を踏み入れた。
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