第20話 最高戦力との手合わせ②

 「ワシは魔術師じゃからの。」

 見た感じと同じで安心しました。


 「お前さん相手に極大魔法使うことは無いんじゃが。」

 ・・・そう言っていただけて安心しました。

 ん?

 「じゃがbut」?


 「見たところかなり出来そうじゃから、「魔力相撲」やるとするか。「導き手」ともやったじゃろ?」


 魔力相撲。

 魔力操作の鍛錬方法の一つ。

 練り上げた「魔力」に指向性を持たせて放出し、相手とぶつけ合って決められた範囲から相手を押し出したら勝ち。

 物理的な影響を及ぼす魔力の使い方、その鍛錬方法として広く知られている。


 ただしこれ、めちゃくちゃセンスの差が出る。

 魔力を知覚する感覚の繊細さや、出入力の量を調節する感覚の正確さ、魔力に正確な指向性を持たせるための想像力と創造力。そのどれか一つでも足りないと、単純に魔力量が同じ場合でも、その感覚の差がそのまま結果に現れる。


 高度な術になればなるほど、知識理論の難しさに加え、同時多数の繊細な魔力のコントロールがいるため、この部分は魔術の基礎にして奥義とも言える部分なのだ(ほとんどRの受け売りだ!俺元地球人だよ?この理論言えたら気持ち悪いでしょ?)。


 それを、このどう見ても魔力操作の「達人」の大師匠とやるってことはさ。


 相撲で言うたら「横綱」VS「序ノ口」くらいレベチなはずだかんね?


 言い訳するつもりねーし。やるけどさー。


 「不満とやる気の勝負はやる気が勝ったようじゃの。その意気や良し。なら始めるとするか。」


 年の功で心の動き読まれて恥ずい。

 よろしくおなしゃす。


 美魔女と向かい合う。


 「自分の踵の後ろに線を引くんじゃ。そこから下がったら負けとしようぞ。」

と美魔女大師匠。


 「分かりました。」

と俺。


 「では参るぞ」

と美魔女大師匠。


 その一言をきっかけに、両者からほんの一瞬、強い魔力が放たれ消える。

自分にとっての外界に存在する「魔素」から「魔力」取り込む一瞬だけ起きる「起こり」のような現象だ。


 直後、両者から不可視の圧力が相手に向かって伸びる。


 二人とも、相手に片手を突き出すような姿勢を取ったりしない。ごく自然に構えたままだ。


 序盤は全くの互角。

 お互い微動だにしない。


 3分経過。

 トールの額に汗が滲む。

 まだ互角。


 5分経過。

 トールの表情が変わる。

 歯を食い縛るようになる。


 7分経過。

 トールは自然体でいられず膝に手をついて何とか相手に顔を向けている。


 10分経過。

 直後にトールが踏ん張りきれず、片足が踵の線を超えてしまう。


 勝負ありだった。


 「ふうぅ」

 グルヴェイグが大きく息を吐いた。

 「よもやワシと10相撲を取れるとはの。今の時点でこれとは恐れ入ったわい。」


 「でしょでしょ?トールちゃんて超凄いんですよ。精霊力もかなり扱えちゃってます。尋常じゃない才能ですよっ!」とミコさん。めっちゃ褒めてくれて嬉しいけど、こっちは負けて悔しいはヘトヘトだわでうまく笑えない。


 「なるほどのぅ。ミコよ。身体強化はまだ教えとらんのかや?」と美魔女大師匠が聞き返す。


 「はい。実は「修行場」に早く入る判断をしたのもそのあたりがあってのことです。

 「修行場」入りすること自体が年齢的にはまだ早いとは理解しています。ただ、肉体的にはまだまだ途上なのに、早くも各種基礎の修得に至ってしまった。筋力や持久力、魔法式の構築理論の理解や身体強化の技術の他は、目を見張るスピードで我が物にしています。

 なので大師匠方に手合わせしていただく事で最適な判断をしようと。


 でも、さっきのカムイ師匠との手合わせと、今グルヴェイグ師匠との手合わせ見てて確信しました。


 はお二人さえ反対されないのであれば、お二人から直に教えていただく方が良いと。

 おそらく、史上最速で修得することになると思います。」


 「なるほどのぅ。それ程の才能か。くっくっくっくっくっくっ。あっはっは。当代の勇者は面白いのぅ。」


 美魔女大師匠なんかウケてる。

 どゆこと?


 「トールよ。当代の勇者よ。お主は稀に見る怪物じゃ。最早疑いようが無い。」

 カムイ大師匠が言う。


 ますます「?」になる。


 「そうじゃの。例えば今の対決、ミコでも持って5分ってとこじゃ。ミコの名誉のために言っとくが、ミコとて「導き手」。その力の程はよう知っとる。「導き手」として申し分のない力を持っていることをの。

 その基準からすると、現時点で相応の力、つまり「修行場」へ立ち入れるだけの素地があるとはいえ、まだまだ応用力はゼロに近いお主が、短時間とは言え「導き手」を凌駕してワシらと互せるのはどう考えても異常じゃ。」


 そうなのか。

 まあ自覚が無かった訳じゃないけどね。

 この世界に来て、この体に馴染んでみて気付いたのは、思考と反応の乖離が驚くほど少ないと言うこと。


 転生直前に、生まれ変わる肉体について「」とは言っていた。

 要はハイスペックなのねと、能力が高いのはありがたいよねと思ったくらいで、この修行が始まるまでは無自覚に等しかった。


 それが、カンヌさんやミコさんとの修行中の反応で、あれ?と思い始めた。

 指示通りよりはそれ以上にできてしまう。

 初めはただ嬉しくて浮かれていたが、徐々に感じ始めた。


 この体、普通じゃないぞと。


 普通人間は、全力を出すににしろ手加減するにしろ、少なくとも何回かは試行錯誤して最適の加減を知り、理想の動きに至る。

 それが普通。


 でも、この体は違う。


 


 自分の体なんだし、器用な人ならそんなの当たり前だと思うでしょ?


 少なくともこの特性に気づいて以降、失敗したことがない。

 ここまで、思ったこと全て一発でできてます。


 そんなことあり得ます?

 器用とか言う次元じゃない。

 与えられる情報さえ正確なら、確実にその行為を再現できる。

 異常なまでの「再現力」。精密機械のように正確に力加減ができる「調整力」。


 限界ギリギリまでの力が使えるんですよ。

 その「限界」のラインは、超えたら多分肉体的には崩壊してレベル。

 その一歩手前まで力が出し切れる。はず。

 試したら死ぬかも知んないからやらんけど。

 直感的に分かる。

 おまけに、ここがまた普通じゃないんだけど、「限界」を超えない限り、自分の出す力で自分が傷つく事がない。


 この意味における「普通」とは。

 たとえばパンチ力が強過ぎて拳痛めるボクサーとか居ますよね。

 「リミッターが外れてる」と評されるタイプ。

 怪我の多い人に、たまに紛れている出力過剰のタイプ。

 要は必要以上の出力を出せてしまう、つもりがないのに出してしまうタイプ。

 手加減の下手な人とも言えるのかな。


 そう、体というのは(正確に言えば「脳」だと思うけど)、普通は肉体的な潜在能力の全てを使えないように制限をかけるようにできている。それは力加減が下手な人を含めてこの意味における「普通」となる。

 だから手加減の下手さの例は「普通じゃない」ってことにはならない。


 その「普通じゃない出力」まで出せて、尚且つ「壊れない」。そして、匙加減も尋常じゃなく繊細にできる。

 繰り返すようだけど、「精密機械」のように。


 これは、絶え間なく身体操作と肉体錬磨の修行を重ねた、カムイランケ大師匠のような人が漸く手にする事ができる人外の力だ。


 異常という表現、妥当だと思う。


 俺は今11歳で、修行を始めて僅か1ヶ月余り。

 ここに、これから鍛え続けて得られる筋力、魔法力や精霊力、それを受け止める肉体的なものとはまた違う精神力や、もしかしたらまだ眠っている未知の力も目覚めたら。


 我がことながら末恐ろしいですよ。


 でも。


 たとえ「怪物」「異常」「天才」、どんな形容詞を並べられて、普通じゃ無いって言われても。


 「魔物の王」との戦いが有利になるのなら、願ったりですよ。


 圧倒する。

 そう誓ったからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る