第13話 修行開始

 カンヌさんとミコさんと旅を始めて10日ほどが過ぎた。


 え?

 「あだ名呼び」無くなったの?って?

 まぁ最初からは流石にね。修行中は師匠な訳だし。

 実力者で、羊の皮を被った山羊だった訳だし。

 え?つの生えただけじゃねーか。って?

 相変わらずイジってんじゃんって?

 まぁ最初から大師匠感は出せないからねぇ。

 でも真面目に向き合ってるよ。


 「早速修行」と言われて何をしてるかと言えば、魔力、精霊力、については瞑想のようなことが中心だね。

 「考えるな。感じろ。」だそうで。

 アチョーッではなくて。

 全く始めてだからね。

 でも合ってるのかどうか心配ではあるな。

 師匠たちが見てくれてるから無駄な努力にはなってないはずだけど。


 あー、こんな時こそ。

 左手の親指と薬指で輪を作る。


 「お呼びですかマスター。」

 瞬時に反応。R久々の登場。


 「そちらから見て、俺の修行は順調かな?感覚の鍛え方間違えたりしてないか?知識が無さすぎるから聞きたかったけど、「考えるな」とも言われてるから、素直に取り組んじゃいるがまだピンときてなくて。」

 と率直に現状分析を頼んでみる。


 「順調ですよマスター。

 マスターも覚えておられると思いますが、「導き手」のお二人にご自分の出自をお尋ねになった日、その日の朝、何かしら違和感をお感じになったことありましたよね?」

 あぁ。あの「モヤモヤ」か。


 「それがご自分の「魔力」ですよ。」


 そう言われて、あゝあれの事かと考えるや否や、


 ゴォッ!

 そんな音が聞こえて来そうな程、俺の周囲をうねるように、吹き上がるように、視覚的にも薄らと自分を中心に渦巻くようなエネルギーの奔流が、突如見て取れるようになる。


 「急になんだよ、これ!」


 言いつつも、自然体で構えてコントロールロールを試みてみる。体の内側にも同じ感覚があることに気づいて、吹き出す力をそのまま垂れ流すのではなく、自分を中心に循環させ、自分の周りに纏わせるようなイメージで感覚に馴染ませてみる。


 嵐のように乱れていた流れが、穏やかになる。


 先ほどと比べてハッキリと、厚みと濃度を増して、自分の周りの「魔力」を感じられるようになった。


 「これか・・・」


 Rにすれば何をした訳でもない。ちょっときっかけになりそうなことを思い出させただけだ。


 「(やはり尋常ならざるの感性の持ち主。規格外の資質と才能。魔力初体感の状況を想起しただけで本質を理解し、しかもコントロールして見せた。最も正しい方法で。)」


 「これが「魔力」」

 改めて俺は理解する。

 あの朝、額の違和感と同時に感じたモヤモヤの正体。

 ただ、「モヤモヤ」は、100%これだけで説明できないような、そんな気がしてもう一度Rに尋ねる。


 「R、なんかこれだけじゃ無いはずなんだ。これ以外にも、何て言うのかな、「魔力」よりはもう少し外側、「魔力」と違って自分の内側に通すような感じではないけど、そうだな、「魔力が「肌着」なら、モヤモヤの中にもう一つ感じた力は、分厚く力強さを感じる「外套のような」」言いかけてで目線を目の前に合わせた瞬間だった。


 「あっ!」

 透明で、でも淡く暖かく光っているような、柔らかな笑みを浮かべる女性のイメージでこちらを見るが唐突に

 心を落ち着かせて、その存在に意識を向けて、意識の中でできるだけ静かに語りかけてみる。急に声を出すと、びっくりされて、居なくなってしまいそうだから。

 そう、野生動物が運良く自分の前に現れてくれたような心境。

 静かに丁寧に、心の波風を立てない様に。


 『お気遣いありがとう。当代の勇者よ。

わたしは光の精霊、「レイ」の名を名乗っています。

 貴方に惹かれて参りました。

 共に困難に立ち向かいましょう。

 世界に住まうものとして、破壊と混沌に満ちた純粋なる無知の暴虐は、我々の存在も乱します故。

 貴方のお役に立てれば幸いです。

 少しづつ、私たちの存在に触れてください。

 世界は折り重なる様に、互いに支え合っていることを感じ取ってください。

 そうすれば、貴方は、はこれまでにない高みに届くはずです。」


 「(自己紹介ありがとう、レイ。

 俺は見ての通り修行をはじめたばかりでまだまだ未熟だ。名はトールだ。今後ともよろしく頼むよ。)」

 意識の内側で声を出さずに語りかける様に言葉を送る。


 「私に対する労わり感謝します。

 一度精神的な繋がりが生まれると、意思疎通は少し意識して呼びかけてもらえれば可能です。

この声も、肉体的な感覚で聞き取れているでしょう?」と、レイは今度は「音」を伴って語りかけて来た。


 「本当だ・・・。聞こえる・・・。」


 Rは驚嘆を禁じ得ない。

 「(「魔力」に続き「精霊力」までも容易く・・!当然まだ自在では無いけど、この感覚の鋭さは!・・私との意思疎通の感覚と類似しているからでしょうか?いずれにしても凄まじい才能!!

 これまでの私の経験で言えば並ぶ者が無い。

 圧倒的という言葉さえ陳腐な程です。)」


 「いつでも貴方のために力を振います。共に成長しましょう、トール。」

 レイが淡くなって消えて行く。でも慌てる気持ちも湧かず、焦ることも無い。先程からのやり取りで、レイが、「精霊」がどのような存在なのか、感覚的により深く理解できたから。

 「ああ。よろしく頼む。レイ。」


 「R、助かった。完璧なサポートだったよ。」

 俺はRの的確な誘導に感謝する。


 「いえ。私など何もしていないに等しい。

 マスターの感覚の鋭さと才能にただただ驚くばかりです。」と謙遜するR。


 「ハハハ。この後本格的に苦労するからまた直ぐにRの出番が来る。その時またサポート頼むよ。」


 「もちろんです。マスター。」


 会話をまとめて左手の親指と薬指で輪を作る。

 意識共有を閉じて、一呼吸。


 Rとの意識共有の感覚は、おそらく相当なアドバンテージだ。

 確かRは「この意識共有の仕組みは、時空間魔法や精霊魔法で構築されております。」と言っていた。

 構成要素に「精霊魔法」が入っているんだ。無関係では無かっただろう。俺は運が良い。

 時空間魔法も「魔力」への理解が深まったら極めたい。俺のイメージが正しければ、おそらく「魔物の王」との戦いにおいても強力な手札になる。


 「お、真面目に自主練やってるね?って・・」

 話しかけて来つつ、ミコさんが目を見開いて驚いた顔をする。

 「何その魔力量?え?コツを掴んだ?は?早っや!」

 やたら驚かれるのだった。




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