第6話 神父とシスター夜の顔

 「いらっしゃぁいまぁせぇ♡」


 やたらと母音を伸ばした来店歓迎の声がかけられました。

 声の主がボインなだけに。

 ・・・。

 殴るポーズ、やめてください。


 あぁ、私が誰だかお分かりになりませんか。


 私、神父です。

 ほら、皆様から微笑みを掻っ攫っていった小癪で憎いあんチキショーですよ。

 え?ぐうたら神父?真性のクズ?残念フレスコ画?


 ハハハハ。扱い酷いねー。

 まぁ仕方ないけどね。

 世を忍ぶ仮の姿は徹底されててナンボですから。


 真面目な話、私こと神父のカンヌは、王宮直属諜報部所属の諜報部員。コードネーム「アンパレスー昼あんどん」を与えられている、歴とした国家の犬であります。


 危機管理上見逃しがちな、市井の民の間に流れる噂レベルの端緒情報まで網羅して、いち早く危機の目を掴むのが使命。


 ですから普段は、灯りはぼんやり灯りゃ良い精神でやってる訳です。できる人って思われたら、相手が油断してくれませんからね。


 嘘つけ、素のくせに?

 お褒めに預かり光栄です。そのように印象付けられているなら、諜報部員冥利に尽きますな。


 そんなわけで今日も情報収集に勤しむ訳ですよ。決してお姉ちゃんたちと戯れたいがメインテーマではございませんよー。


 ああ、ついでに言うことではないかもしれませんが、シスター・ミコは歴とした神の僕ですよ。国教会所属のガチ神職さんです。

マイルドヤンキーですけどねー。

 皆さんもご存知の通り、私ちょいちょいしばかれてますし。


 でもあの方、かなり高度な神聖魔法の使い手なんですよ。

 ぶっ壊すより直すの、もとい治すのめちゃくちゃ得意らしいです。

 流石に死者の蘇生あたりは無理らしいですが、手足が切断されても切断された部位さえ無事なら速攻でなんとかしちゃいますし、部位が失われているなら、それはそれでなんとかしちゃうくらいの実力だそうです。

 お互い本当の立ち位置でお話しできている訳ではないですがね。私は私で諜報員であることは当然ですが明かしていません。

 だが恐らく彼女も、指令を受けている母体こそ違いますが、似たような使命を帯びているような印象を受けます。孤児院付きのシスターという肩書きと、神職としての身につけている実力が明らかに合っていませんから。


 その点、勘でしかないですが、「彼女の周りから目を離してはいけない」という気がするんですよ。

 まぁ諜報員としての長年の勘ですから、実際捨てたもんじゃなかったりはします。


 私がよく出入りしているお店の一つであるここ「スナック エルドラド」は、とても庶民的な良いお店です。

 メインの客は冒険者や商人で、この街の内部の諸事情よりは、今街の外では何が起きているのかがよく耳にできるんですよ。

 訪れる彼らも、そんな草の根情報を拾っていくことが一つの目的になっています。


 しかし、俄かには信じられないというか、店には失礼ですが、先ほどここで聞くものとしては何か相応しくない単語を耳にしました。


 こっちでは「魔物の王」が生まれる、とか。

 こっちでは「兆し」を確認した、とか。


 ・・・って、おいおいマジか。

 緊急報告ものじゃないのよ。

 ちょっと失礼・・・


----------


 こんばんはー!。

 朝も昼も晩もいつでもみなさま癒やしちゃう♡

 超絶ビューティー魔法シスターのミコでぇす♡


 ・・・ちょっと無理あるなー。

 可愛い寄りにっていうより軽薄寄りの色ものアイドルみたくなっちゃってるから軌道修正しなきゃな。


 改めましてシスター・ミコです。


 神父ガラクタはいつも通り歓楽街ですよね。


 分かりやすいなー。

 軽薄テキトーに行動している真性ダメ人間を演じ切れてるつもりなんだろうけど。

 根が真面目な人ってそこが分かってないですよね。

 ランダムいい加減に行動しているようで、行動記録を分析すると幾つか特定の行動パターンが抽出できたり、テキトーの匙加減がおおよそ把握できて、街の人や子どもたちから温かく見守れたりしているようなレベルの「ぐうたら」に留まっていればワタシじゃなくてもバレますよ。


 本当の馬鹿は真面目なフリをしますから。

 逆に行動記録を分析すれば、思いつきで動いてて当たり前に長続きしないから、本質的に考えが浅くて衝動的なのがモロバレで、他責思考で破滅的なんですよ。発言も行動も。簡単に辻褄が合わなくなる。


 この人多分、ワタシと似たような使命を帯びてるどこかの組織の人なんだろうなーって会って程なくして気付きました。だって完璧に演じてるから。

 ああ、神父とシスターの関係だから組織的には同根でしょ?前情報無かったの?って疑問を持つ方いらっしゃいますよね。

 ある程度ありましたよ。とても自然な経歴が伝わってきました。

 でもごめんなさい。ワタシ、偽装看破できちゃうんですよ。あくまでその対象の言葉が嘘か真かの審議判定ですから、強制力のある情報開示機能じゃあないですけどね。神聖魔法はその手の系統ありますんで。もちろん修めてます。

 ああ、さっきのぐうたらが演技って見抜いたのは、自慢じゃないですが純粋に洞察力と分析力ですよ。


 近いうちに腹割って話します。


 だって、「魔物の王」覚醒に向けた「兆し」が見つかったんですよね?

 え?なんで知ってんのって?

 そんなの分かりますよ。

 神様教えてくれますもの。ああ、私にだけ気軽にってことじゃなくて。お告げでね。

 全部じゃなくても、この「魔物の王」っていう災厄を乗り越えるためのキーマンをこの世界に送ってくれてますからね。

 教会の一部と王族だけが把握してる、この世界の公然の秘密ですけどね。

 そういう意味でも、多分あの人、王族側の諜報部員かなんかじゃないかな。何気ない動きが達人級だし。私のフルスイング喰らってもノーダメージだし。


 まぁ、私にしたって「導き手」だし。

 もしかしなくてもあの人もそうかも。

 年齢差あるから、一緒に修行してないだけで可能性は十分。

 え?サラッと言うなーって思われました?

 アタシいっつもこんななんで。


 と言う訳で、前情報を元にワタシは孤児院に派遣された訳です。

 あそこに一人、とびきり優秀な「勇者」の卵がいるんです。あ、これもお告げの形で分かってました。

 6人のうち誰なのかは最近分かりました。

 どうやら覚醒したようで、「目」の奥の光って言うのかな、恐らく「魂」が使命を受け止めた感じ。雰囲気変わりましたから。


 え?なんか不思議シスターみたいで良い感じですか?

 やだー♡もっと褒めてー♡



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