時を越える歯医者
奈良まさや
第1話
第一章:現代と過去が交錯する診療
居酒屋「風車」の奥座敷で、赤提灯がほんのりと揺れる。ホッピーのグラスが軽やかな音を立てる中、ジュンとタカシは酒も三杯目に入り、最近ジュンが通い始めた奇妙な歯医者の話で盛り上がっていた。
「でさ、二回目の治療のとき、受付で『お連れの方いらっしゃってます』って小声で言われたんだよ」とジュンが切り出す。「誰だよそれ、芸能人か?」とタカシは笑う。ジュンが通されたのは、お香の香りに包まれた和室だった。そこにいたのは、着物を着た花魁のような女性で、メンソールを吸っていた。「キセルじゃないのかよ」とタカシがツッコミを入れると、ジュンは「『今日は来てくれてありがとうやんす』って言うから、もう分かったね。これはタイムスリップしたって」と続けた。
タカシは「マジかよ!タイムスリップして落ち着いてられるなんて、すげー対応力だな」と驚きを隠せない。その女性――名前は“お雪”――は、丁寧に「お客様の歯をお直しするために、お待ちしておりました」と言ったという。「歯医者は歯医者なんだな」とタカシがこぼす。しかし、治療道具は竹のピンセットと煮出した薬草。お雪は膝枕で、髪に刺したかんざしで歯を削り始めた。「痛かったら、手拍子くださいまし」と言われ、治療が終わると三味線で一曲披露された。「また来ておくんなさい」と、お雪は優しく告げた。痛々しいはずの治療が、どこか幻想的な体験としてジュンの記憶に残った。
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