第18話「私も実は、声がコンプレックスで」



昼休みの学食。咲良がいつものように一人で昼食を取ろうとしていると――


「あの……咲良さん?」


振り返ると、見覚えのある顔が三人。同じ学部だけど、今まで挨拶程度しか交わしたことのない女子学生たちだった。


「ここ、座ってもいい?」


戸惑いながらも頷く咲良。今までこんなことはなかった。


「あのね、昨日の柊さんのラジオ聴いて……それで花音さんが咲良さんだって知って」


一人が切り出す。咲良は身構える。批判されるのか、笑われるのか――


「実は私も、声がコンプレックスなの」


予想外の言葉に、咲良は目を見開く。


「私、声がすごく甲高くて。アニメ声って言われて、真面目に話してるのに笑われたりして」


別の子が続ける。


「私は逆に、赤ちゃんみたいな声だって。電話で年齢確認されたり、なめられたりすることが多くて」


三人目も口を開く。


「私は活舌が悪くて。緊張すると余計にひどくなって、プレゼンとか地獄だった」


咲良は驚きを隠せない。みんな普通に話しているように見えたのに。


「でも咲良さんが勇気を出して地声で配信始めたって聞いて、すごいなって。私たちも何か変われるかもって思って」


学食の一角で、声についての本音トークが始まる。


「分かる……私も自己紹介が苦手で」

「声真似とかされると傷つくよね」

「可愛い声じゃないとダメみたいな空気、しんどい」


周りの学生たちも、ちらちらとこちらを見ている。そのうちの一人が近づいてくる。


「あの、聞こえちゃって……私も混ざっていい?」


気がつけば、テーブルの周りに人が集まり始めていた。


「俺も実は、声変わりが遅くて高校まで女子に間違われてた」

「私は早口になっちゃって、いつも聞き返される」

「方言が抜けなくて、標準語のつもりでも訛ってるって言われる」


みんな、それぞれの声の悩みを持っていた。


咲良は改めて気づく。自分だけじゃなかった。みんな何かしら抱えていたんだ。


「でもさ、咲良さんの配信見て思ったんだ。別に無理に変えなくてもいいんじゃないかって」


甲高い声の子が言う。その声は確かに高いけれど、明るくて元気が出る声だ。


「そうそう。完璧な声なんてないし、むしろ個性があった方が覚えてもらえる」


みんなが頷く。


そのとき、美咲が近づいてくる。咲良の声を「怖い」と言った、あの美咲だ。


「咲良……あの時はごめん」


急に謝られて、咲良は戸惑う。


「私、何も考えずにひどいこと言った。声が怖いなんて……本当にごめん」


美咲の目には涙が浮かんでいる。


「ラジオ聴いて、配信も見て……どれだけ傷つけたか分かった。私も実は、笑い声が変だって言われたことがあって。なのに人の声を傷つけるようなこと言って」


咲良は美咲の手を取る。


「もういいよ。私も、あの時のことがあったから変われた。だから……ありがとう」


美咲が泣き崩れる。周りの学生たちも、もらい泣きしている。


「ねえ、これから定期的に集まらない?」


誰かの提案に、みんなが賛成する。


「声の悩みを共有する会?」

「いいね!お互い励まし合えるし」

「カラオケとか行こう!」

「朗読会とかも楽しそう」


学食が、今までにない温かい雰囲気に包まれる。


その日の夕方、咲良の配信。


「今日、すごいことがあったんです」


学食での出来事を話す咲良。コメント欄も盛り上がる。


『いい話!』

『みんな悩んでるんだね』

『仲間ができてよかった』

『声の悩みあるある』


「一人で悩んでた時は、世界中で自分だけがダメなんだって思ってた。でも違った。みんなそれぞれ悩みがあって、でもそれでいいんだって」


『分かる』

『一人じゃないって思えると楽になる』

『咲良さんのおかげで勇気出た』


そこへ、学食で出会った子たちからのコメントが。


『甲高い声の子です!今日はありがとう!』

『活舌悪い子だよ~ また話そうね』

『美咲です。本当にごめんなさい。そしてありがとう』


咲良の目に涙が浮かぶ。


「みんな……本当にありがとう。私、一人じゃなかった」


柊からのコメントも流れる。


『柊:素敵な輪が広がってるね。これも君の勇気が生んだものだよ』


「柊さん……あなたのラジオのおかげです」


配信後、グループLINEが作られる。

「声の個性を大切にする会」


次々とメンバーが増えていく。

今日会った子たち、配信を見ていた子たち、そして――


『美咲が追加されました』

『柊が追加されました』


咲良は思わず笑顔になる。


あの日、一人で泣いていた自分に教えてあげたい。

声を否定されて、存在まで否定された気がしていた自分に。


一人じゃない。

仲間がいる。

みんな、それぞれの声で生きている。


窓の外では、夕焼けが街を優しく染めている。

新しい繋がりが、ゆっくりと広がっていく。


「一人じゃなかった」


その言葉を、咲良は大切に胸にしまった。

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