第6話 隣国到着


 牛車に乗って移動を始めてから十日後の深夜に部屋で寛いでいた僕の頭に蚩尤しゆうからの念話が届いたんだ。


『貴人様、まもなくアルバート王国を出る。国境の検問はどうすれば良いのか指示を!』


『あっ、そうだね。取りあえず牛車も含めて蚩尤も隠れて空を飛んで越えようか』


『相分かった、貴人様』


『この国の最初の村か街に着いたら教えてくれるかな』


『貴人様の望む通りに』


 という事で深夜にアルバート王国を抜け出て隣国へとやって来ました。


 ところでここって何ていう国なんだろう? まあ知らなくても不都合は無いんだけど。明日の朝にセレネスにでも聞いてみよう。そう思いながら僕も寝たんだ。


 翌朝、起きた僕はこれぞ【ホテルのバイキングスタイルの朝食!】をダイニングキッチンに新たに出した机の上に並べたんだ。並べ終えた時にちょうど御前みさきさんとセレネスが起きてきたよ。


「ふわぁ〜、おふぁよ万っち」

「お、おはようございますマンバ様」


「いや、セレネスさん【様】は止めてね。呼び捨てで良いし、せめて【さん】か【くん】でお願い」


「あっ、はい。分かりましたマンバさん」

「ほらねセレちゃん。万っちは様って呼ばれたら嫌がるって言ってたの当たってたでしょ」

「うん、コマチの言う通りだった」


 二人とも初日に一緒にお風呂に入ってから仲が良いよね。裸の付き合いが良かったのかな? あ、ダメだ。ヲタクらしくリアルな創造をしてしまったよ。これじゃ昨日お風呂で自家発したのにまたっきしちゃいそうだよ。

 鎮まれ! 我がジュニアよ!


 そりゃ僕だって健全な青少年だからね。美少女二人と一緒にいたなら淫らな妄想も出てくるよ。

 実行はしない(できない)けどね。


『貴人様、一時間ほど進んだ先に村があるようだ』


『そうなんだ。ちょうど良いね。そのままその村を目指してよ蚩尤』


 ここで僕は気に入った料理を取り皿いっぱいに盛ったセレネスに質問をしたんだ。


「セレネスさん、聞きたい事があるんだ。アルバート王国の東にある国の名前は何ていうの?」


「東ですとティティー王国ですね。お茶ティーの一大産地でもあります」


「そうなんだ。どんな国なのかは知ってる?」


「国王陛下もその臣下の方々もよく言えばゆったりとした方々が多く、国民も同じようにゆったりと過ごす方が多いと聞いております。わたくしおもむいた事はございませんが、確か魔王国とも友好を結んでおられる筈です」


「へぇ〜、そうなんだね。それじゃこの国を少し観光しながら進むけど良いかな? 魔王国に行くのは遅くなるけど」


「はい、問題ないですわ『むしろ遅ければ遅いほど良いですわ!!』」

  

 内心の声が聞こえてきそうなほど喜びの表情でセレネスが問題ないって答えてくれたよ。

 まあ気持ちは分かるけどあまり偏見を持たない方が生きていく上で楽だと思うんだけどな。

 

「やった! 観光するんだね万っち! 先ずは何処から行くの?」


「御前さん、今から一時間ぐらいで最初の村に着くみたいだからその村に先ずは行ってみようよ」


「万っち、第一村人発見をするんだね!」


「いや、違うからね御前さん……」


 僕がそう否定した時に御前さんから不満が出てきたんだ。


「それ! それだよ万っち!」


「えっ!? どれ?」


「セレちゃんは名前で呼んでるのに未だにアタシは御前さんなんて他人行儀に呼ばれてるところよ! アタシも名前で呼んでよ!」


「あっ、えーっと、それじゃ小町さん」


「呼び捨て!」


「あ、うん、分かったよ小町」


「うんうん、それで良し、万っち!」


 良いんだろうか。僕ごときが御前さんを名前呼び、しかも呼び捨てなんて! 僕の脳内ヲタク辞書だと女性を名前呼びするのは結婚を約束したのと同義なんだけどな…… まさか! 小町もその気が!? 

 何ていう勘違いは絶対にしないからね。僕は知ってるんだ。陽キャ同士はそんな気は無くとも名前呼びをしている事をね。

 だから陽キャな小町にしてみれば僕の呼び方が気に入らなかっただけなんだと思う。


「そ、それにしてもマンバさん。この服、とても動きやすくて身体も楽で。本当に頂いても良いんですか?」


 セレネスに渡したのはウニシロのストレッチ素材の服だ。ワンピースタイプのモノでブラ部分もちゃんと付いてるんだよ。


「セレネスさん。気に入ったなら問題ないよ。自分の服にして良いからね。部屋にあるモノは全部だよ」


「有難う存じます!!」


 うんうん、美少女の笑顔は良いよね。最初はワザと意地悪を言ったけど拉致についてはセレネスがした事じゃないからね。

 目の保養にもなってるから面倒臭いとは思ったけど連れて来て今は良かったと思ってるよ。


 ニヨニヨとした視線でセレネスを見てたら何故か小町の機嫌が悪くなった気配がしたけど何でかな?


 まあ普通に食事をしてるし大丈夫だよね。


 食事を終えて僕は残りの料理を小町の蔵司に保管してもらったよ。無いとは思うけど、もしも僕とはぐれてしまっても餓えたりする心配が無いようにね。


「万っち、もう三カ月分ぐらいは入ってるよ〜」


 小町はそう言うけど僕としてはせめて一年分ぐらいは保管しておいて欲しいと考えているんだ。

 なので機会があればこれからも保管してもらうつもりだよ。


「まだまだもっと保管してもらう予定だからね」


 僕は小町にそう言って話を締めくくった。


 それから僕たちはそのままダイニングキッチンでコーヒーを飲みながら雑談をしていた。両手に花の状態っていうのはヲタクにとっては滅多に、いやコレまで全く無かったからついつい嬉しくて顔がニヤけてしまうよね。


 小町が少しだけ不機嫌だけどもそれでも楽しく話をしていたら村に着いたようだよ。


『貴人様、村まであと五分で着く。ペースを時速十キロに落としてゆっくりと近づいてみる』


『うん、分かったよ蚩尤』


 蚩尤に返事をした後に二人にもう少しで村に着くよと伝えた。


「わっ、いよいよだね万っち」

「最初の村という事は恐らくティーワ村だと思いますマンバさん」 


 村に着いたけどちゃんと石造りの壁で囲まれた大きい村みたいだ。牛車の窓から見たけど門番なんかは居ないみたいだ。


『貴人様、どうやら結界が張ってあって邪なる思考を持った者は入れないようだ。中々の結界だ』


 蚩尤が言うならそうなんだろうね。


 僕たちは何の問題もなく村に入れたよ。で、畑、畑、畑の広大なお出迎えを受けたんだ。


「ふ〜わ〜、万っち、アタシ北海道に行った事は無いけど、こんな感じなのかな?」


「うん、僕も行った事は無いけどきっとこんな感じだと思うよ」


 小麦、じゃがいも、多分豆かなという作物が広大な畑に植えられている。お茶の一大産地の国って聞いたけどこの村は食料生産の目的で作られた村なのかな。


「あっ、居たよ万っち! 第一村人発見!!」


 小町が指さす方を見てみたら確かに僕たちと年の変わらない人が畑から僕たちの乗る牛車を見ていた。


「すみませーんっ!! 僕たち旅人なんですけどこの村には何かのギルドはありますかーっ?」


 まだ少し距離があるから窓から大きな声で聞いてみた。


「おおーっ、あるぞーっ! 商業ギルドと職人ギルド、農業ギルド、狩人ギルドがあるぞー。そのまままっすぐ進めば村の中心地にあるからなーっ! ようこそティーワ村へーっ!!」


 大きな声で返事をしてくれた人にまた大声でお礼を言って僕たちは村の中心に向かった。


 畑で仕事をしてる人はそれから何人も出会った。でもみんな牛車を珍しそうに見てニコニコしたり、窓から顔を出してる僕たちに手を振ってくれたりで歓迎してくれているのが分かった。


「何だか良い雰囲気の村ですわね」


 セレネスがそう言ってホノボノと外を見ている。小町もその隣で「そーだねー、セレちゃん」とホノボノしてるよ。


 うん、最初の村が良さそうな場所で良かったよ。取りあえず先ずは何処かのギルドで身分証明を手に入れよう。





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