第二十七話 ただいま!(お題:しっぽ)

 犬が邪魔だ。

 可愛いけど、餌代がかかるし、散歩もめんどくさい。もう捨ててしまおう。

「ほら、おいで」

 尻尾を振ってやってきた。首輪にリードを繋ぐ。

 このまま公園へ連れていって、置き去りにしよう。

「散歩に行くよ」

 犬がワンと吠える。鳴き声を聞くのもこれで最後かと思うと、少しだけ寂しくなった。



 嘘だろ。

 帰ってきやがった。

 ドアの前に座ってやがる。首輪にリードもつながったままだ。

 ワンワンうるせぇ。隣からクレームが来るだろ。

 クソ、もっと遠いところに捨てないと駄目か。

「ほら、おいで。今度はドライブだ」

 犬のリードをひく。犬は尻尾を振ってついてくる。

 全く、この馬鹿犬が。



 マジかよ!

 また帰ってきやがった!

 行ったこともない町の適当な道路に捨ててきたのに!

 マジか。どうなってんだ。

「何してくれてんだ! お前さあ、もう帰って来んな!」

 はあ……こうなったら絶対帰って来れねえような山奥に捨ててやる。

「おら、来い!」

 あーめんど。誰か殺してくれねえかな。



 よし。今日も犬は帰ってきてねえな。よかったよかった。

 さすがにあんなところに捨ててきたらもう戻って来れないか。これで一安心だ。

 お、ラインが来てる。

『なあ、お前んとこの犬、大丈夫か?』

 大丈夫かって、何がだろう?

『どういう意味だ?』

 リンクが送られてきた。タップする。

 ニュースの記事だ。犬を殺していた奴が現行犯逮捕されたらしい。場所は……俺が犬を捨てた公園だ。逮捕された日付は三日前。犬を捨てた日だ。

 待て。三日前に犬が殺されていたのなら、あの後戻ってきた犬はなんなんだ?

──ワンワン!

 玄関ドアの外から、犬の鳴き声が聞こえてきた。

 今、ドアの向こうにいるのは、本当に犬だろうか。確かめる方法はない。

 両耳を抑えてうずくまる。

 鳴き声はやまない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る