第27話 番争奪戦
「ゔぅ~~!!」
隣の席に座るコガネは唸り声を上げながら、私の膝の上に座るコンを睨みつける。
「ちょっと! ワタシのご主人から離れてよ! ご主人はワタシの番なんだから!」
「――ってこのワンコは言うとるけど、あんたは容認しとるん?」
コガネに威嚇されながらも、コンは私の首に腕を回して余裕の表情を浮かべている。
「いや、コガネちゃんが勝手に言ってるだけだよ……」
「――ってメメは言うとるみたいやけど~?」
私が首を横に振ると、コンはにやりと笑いながらコガネの方を見つめる。
「うぅ~! ワタシあなたのこと嫌い!」
「ふふ~ん、やっぱりメメはうちのもんみたいやなぁ?」
悔しそうな表情を浮かべるコガネを前に、コンはケラケラと笑いながら勝ち誇った表情を浮かべている。
「あの……言っとくけど、コンも私の番じゃないからね?」
「あーあー、なにも聞こえーん」
コンは耳を塞ぎながら、わざとらしい口調で私の言葉を遮ってくる。
「も~! この泥棒ギツネが~! あなたにご主人は渡さないんだから~!!」
「わぁっ! ちょ、ちょっとコガネちゃん!?」
コガネはコンを押しのけ、私の首に抱き着いてくる。
「く、苦しいよコガネちゃん……!」
コガネの腕は私の首に巻き付き、完全に決まっている。
「ちょっと! メメはうちのもんなんやから、あんたこそ取らんといてくれるか?」
「ちょっ……! コンまでっ……!」
しかもコガネに対抗して、コンまで私の首を腕でぎゅっと絞めてくる。
それぞれ反対方向から首を絞められ、今すぐにでも昇天してしまいそうだ……。
「ふ、二人ともやめるにゃあ! メメちゃんが困ってるにゃあ!」
そんな様子を見かねてシュンが助けに入ってきてくれる。
「あの……シュン? 助けてくれるのは嬉しいけど、どうしてシュンまで私の首に抱き着いてるの……?」
シュンが二人を押しのけて、やっと呼吸ができるようになったと思いきや、今度はシュンの腕が私の首に回ってきた。
「あらまぁ、尻尾まで体に巻き付かせて、独占欲丸出しやん」
「ハッ……! こ、これは違っ……す、すぐ退けるにゃあ!」
そう言ってシュンは私から離れようと後ろに下がる。しかしその影響で、今度は私のお腹に巻き付いたシュンの尻尾が締まっている。
「ゔっ……! ぐ、苦しいっ……」
「な、なんで……! 尻尾が言うこと聞かないにゃあっ……!?」
シュンは自分の尻尾を引き離そうとするが、依然として私のお腹をがっちりとロックしたままだ。
「口ではそんなこと言いつつも身体は正直やなんて、むっつりスケベどすなぁ」
「ち、違うにゃあ~!!」
シュンが否定すればするほど、お腹に巻き付いた尻尾に強く締められる。
――や、やばい……だんだん意識が遠のいて……。
先程から首やお腹を締め付けられているせいで、呼吸が上手くできない。
視界がだんだんと黒く、狭まっていく。
「ご、ご主人!? ご主人~~!!」
薄れゆく意識の中、コガネが私の名前を何度も叫んでいるのが見える。
そしてその声が頭の中で反響しながら、やがて私の意識は途絶えていった……。
次に目を覚ました時、私は何となく見覚えのある天井を見上げていた。
柔らかく清潔感のあるベッドの上で、布団に包まれた状態の私。ここはおそらく保健室だ。以前、健康診断の時に訪れたことがあったので、その時の記憶をわずかに覚えていた。
「――あ、起きた」
「うわ~ん!! ご主人~~!!」
「げふぅっ!」
目を開けるやいなや、ベッドの側に座っていたコガネに勢いよく抱き着かれる。
「死んじゃったかと思ったよぉ~~!!」
「い、今まさに死にそうなんだけど……」
コガネは泣きじゃくりながらも、私の体を強く抱きしめる。
「これこれ、良い加減離れんかい」
隣にいたコンがコガネの体を引き離す。よく見るとその反対側にシュンが座っている。
「うぅ……ごめんね、メメちゃん。アタシのせいで……」
私の右手を優しく握るシュンの顔は、今にも泣きだしそうな表情をしている。
「ま、まぁ大丈夫だよ……こうして無事生きてるわけだし。それにシュンだけが悪いってわけでもないし……」
「ご、ごめんね、ご主人~~!!」
「うっ……それを言われると何も言い返せんわ。ほんま堪忍な、うちもちょっと調子に乗りすぎたわ……」
危うく三人に昇天させられるところだったけど、彼女たちの反省した顔を見ると、わざとではなかったのはあきらかだ。それにこの保健室に運んでくれたのもきっと彼女たちだろう。それを考えると、とても怒ろうという気にはなれない。
「……しかし困ったなぁ。これじゃあまともにメメとイチャイチャできんやん」
「いや、それはしなくていいから……」
「――それはムリだよご主人!」
「――そ、それは嫌にゃ!」
「え、えぇ……!?」
コガネとシュンは身を乗り出して、私の言葉に全力で否定してくる。
――そ、そんなに私とスキンシップが取りたいの……?
嫌われるよりかはまだマシだけど、あまり距離が近くても困る。そのまま発情されて押し倒されてしまったら、ヒトの私は成す術がないから。
「ふむ……うちら全員メメとイチャつきたいけど、お互いに嫉妬し合ってどうしても取り合いになってしまうのが問題やな……」
コンは腕を組み、冷静に状況を整理している。
「――せや! やったら、こういうのはどうやろか?」
すると何かひらめいたのか、私達にある一つの提案を持ち掛けてきた。
「うちら三人が順番にメメとデートして、誰がメメの番にふさわしいのか、本人に決めてもらうんや」
「……!」
コンの提案を耳にしたその瞬間、場の空気に緊張が走った。
「な、なんでご主人がワタシ以外の獣人とデートしなきゃいけないのよっ!」
「理由はさっきも言ったやろ、このままじゃメメの体が持たんからや。それともなんや? そんなに自分が選ばれる自信がないんかえ?」
「なっ……!」
コンの挑発にコガネは一瞬怯む。
「――あ、アタシは賛成にゃ……!」
「お、まずは一人目やな」
シュンは顔を赤らめながらも、意を決したような表情でコンの提案に乗った。
「うちを入れて二人。さぁ、残り一人はどうするんかなぁ?」
「う~! もう、分かったよ! やればいいんでしょう、やれば! ワタシも賛成だよ!」
「よし、これで三人とも賛成みたいやな」
コンの煽りに負けたコガネは、最終的にやけになりながらもコンの提案に乗った。
「……それじゃあ明日の放課後から順番にデートしていくってことで、問題あらへんな?」
コガネとシュンはこくりと頷く。
「あの~、ちなみに私の意見は……?」
とんとん拍子で事が進んでいくが、肝心な本人の意思を忘れられては困る。
「残念やけど多数決方式を採用してるから、あんたの意見はもう通らんわ」
「で、ですよね~……」
なんとなく分かってはいたが、やはりそこにヒトである私の意志は考慮されないみたいだ。
……こうして、私の意志とは関係なく、三人の獣人とデートする日々が始まるのであった。
#今日の獣人観察日誌「
クラス:1年1組 → 1年2組
恥 :捨てたらしい
遠足のご褒美を使い、1組から2組に転入してきたコン。
しかし転入してくるやいなや、私の番を名乗り、人目をはばからずに甘えてくるようになった。
本人曰く、プライドを捨てたのではなく、恥を捨てただけとのこと。
――どうして私の周りには自称番を名乗る獣人が多いの……?
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