獣人美少女たちに私の貞操は奪わせません!
mikanboy
第一部
アンスロ学園入学式
第1話 狩る側と狩られる側
獣人――それはヒトの形をした、限りなくヒトに近い動物のこと。
頭上に生えた耳と、お尻に生えた尻尾を除けば、見た目はヒトとほとんど変わらない。多種多様な種族の獣人が存在するとはいえ、みなヒトと同じ言葉を喋られるし、ヒトと同じものを食べることができる。
ならばヒトと獣人が共存する社会において、二つの種族はお互いを心から分かり合える存在だと、認め合うことはできるのだろうか。
答えは否――少なくとも獣人恐怖症である私、
そしてその考えは、今日という日を境に確信へと変わっていく。
私以外全員獣人の学園、『アンスロ学園』への入学をきっかけにして……。
「暖かい春の日差しに包まれながら、私たちは今日、このアンスロ学園の門をくぐりました」
全校生徒が集まる体育館の真ん中で、私は前方の壇上に立つ新入生代表の挨拶を上の空で聞いていた。
――そうせざるを得ない理由が、私にはあった。
右を向けば獣人。
左を向いても獣人。
前を見ても、後ろを振り返っても、見渡す限りの獣人、獣人、獣人……。
約千名の生徒が集うこの入学式で『ヒト』は私一人だけ。
もはや生徒たちの興味は壇上には無く、身を縮こませ、体を震わせた私に向けられている。
時々私の方をチラッと見ては、隣の獣人とヒソヒソと話をしている様子が嫌でも目に入ってくる。
「ねぇねぇ、あのヒト可愛くな~い?」
「え~めっちゃタイプ~! 私、襲っちゃおうかなぁ」
「だめだよ、私が先に目を付けたんだから!」
「ん~、じゃあ一緒に襲うってのはどう?」
「あっ! それ天才かも~!」
いや、それは天才じゃなくて犯罪でしょ……。
ヒト社会では到底ありえない奇想天外な会話に、私は頭を悩ませる。
――そう、この視線の発端は、ただの興味本位から来ているものではないのだ。
獣人はヒトと動物の二つの性質を併せ持つ生き物。
超人的な身体能力を持ちながら――その分知性はやや低いが――年中発情期の獣人は、いわばケダモノ同然。
そしてそんな彼女たちの恋愛対象は『同じ種族の獣人』または『ヒト』。
つまり、私は今ここにいるすべての獣人から獲物を見る目(恋愛対象)で見られているというわけだ。
もしそんな身体能力の高い獣人に捕まってしまえば、私の貞操はいとも簡単に奪われてしまうだろう。
――目を付けられませんように! 目を付けられませんように!
ヒトである私に唯一できることは、こうして身を縮めて神に祈ることくらいだ。
「……ねぇねぇ、キミ、体震えてるけど大丈夫かニャ?」
しかしそんな祈りを裏切るようにして、私の右隣に座る獣人は声をかけてきた。
くりっとした猫のような目つきに、黒い斑点模様が付いた細長い尻尾。淡黄色の短い髪に、どこか気怠げでアンニュイな雰囲気をもつ彼女は、小さい耳をピンと立たせながらこちらを覗き込んでいる。
それと同時に、彼女の手は私の肩へとそっと添えられる。
その手には鋭く尖った凶器のような爪が剥き出しにされていた。
「ひぃっ!?」
それを見た瞬間、私の体はビクンと跳ね上がる。
その爪と容姿を見て確信した。彼女はまさしく猛獣と呼ばれる獣人の一人、『チーター』だ。
――いや無理無理無理! チーターなんかに目をつけられたら、絶対逃げられないじゃん!
「だ、大丈夫ですぅっ……!」
私は目を瞑ったまま全力で首を縦に振り、大丈夫だとアピールした。
「そう……? にゃらいいけど……」
そう言って彼女はしゅんと耳を下げ、肩に添えた手を下げる。
よかった……。どうやら興味を無くしてくれたみたいだ。
ほっとひと息――
「あ~あ、残念。その調子やと暇潰しの世間話すらできなさそうやな~?」
――つく暇もないまま、今度は左隣の獣人に声をかけられてしまう。
「ヒトは獣人より賢いって言うけど、あんたはそうでもなさそうやな?」
そう言って手に持った扇子で口元を隠す彼女は、目を弓なりに細めてクスクスと笑っている。
大きな耳に、不規則に動く太くてモフモフな尻尾。綺麗に切り揃えられた赤茶色のボブ髪と、キリっとした目つきが特徴的な彼女は『アカギツネ』の獣人だ。
「背中曲げて目立たんようにしてるみたいやけど、そんなビクビク体震えさせてたら、嫌でも目に付くで?」
初対面にも関わらず、彼女は流暢な京都弁で嫌味を言ってくる。
――それはそうかもしれないけど、仕方ないじゃん!
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、私は沈黙を貫く。
変に言い返して逆上されても、困るのは私だからだ。
しばらくすると彼女は興味を無くしたのか、私に話しかけてくることはなくなった。
……そんな調子で私は多くの視線を浴びながらも、ほとんど俯いたまま入学式を過ごすこととなった。
1時間に及ぶ入学式を終えた後、私は自分の教室に戻るまでの時間に一人抜け出し、人影のない校舎裏で気分を落ち着かせていた。
「はぁ……やっと一人になれた……」
校舎の壁に身を預け、ほっと一息つく。
「こんなので私、やっていけるのかな……」
やっぱりこの学園だけは選ぶんじゃなかった。
入学初日にして、後悔の念がじわじわと押し寄せてくる。
「……まぁ、そもそも私に選ぶ権利なんてなかったんだけど……」
自嘲気味に笑う私の頭の中には、とあるヒトの言葉が浮かび上がる。
「――行く宛がないんだろう? だったら、うちに来るといい。なにせこのアンスロ学園は、ヒトなら誰でも常時定員募集中だからね」
そう言って、スーツ姿が似合う二十代後半くらいの女性は学費全額免除を条件に、私の母親を説得した。
父親がおらず、貧乏な家庭で育った私はとある理由で受験に失敗し、行く宛を失っていた。そんな時、私と母の前に現れたのがその女性だった。
私の母は「娘が進学できるなんて……」と涙し、彼女の提案に感謝していた。
だから私も今まで育ててくれた母親に迷惑は掛けたくないと思い、アンスロ学園への入学を決意した。
――ダメダメ、弱気になっちゃ! お母さんと約束したんだから。絶対、学園は卒業するって!
母との約束を思い出し、私は一度深呼吸をする。
「……よしっ」
心を落ち着かせ、覚悟を決める。
きっと大丈夫。獣人に襲われるなんて、そう滅多にあることじゃないよ(多分)。
そう自分に言い聞かせ、私は自分の教室に向かおうと顔を上げる。
すると目の前に一つの影が落ちてきた。
「……へ?」
目と鼻の先には息を荒げ、今にも襲い掛かってきそうなほど興奮した獣人が一人。
「ハァ……ハァ……ねぇ、後輩ちゃん……」
「はっ、はぃっ!?」
その先輩らしき獣人は私に近づくなり、壁に手をついて逃げ道を塞ぐ。
そして私の耳元で熱い吐息を漏らしながら、こうささやいてくる。
「お姉さんの
それはまさしく獣人が繁殖をするために行う儀式――求愛行動だった。
そしてそのまま彼女の口は大きく開き、私の首元まで近づいて来る。
丸い耳に焦げ茶色の髪、口の中からギザギザした歯が見える彼女は『ブチハイエナ』の獣人だ。
「ひぃっ!?」
――襲われる!
ヒトとしての本能が警鐘を鳴らす。
私は咄嗟に彼女の体を突き放し、全速力で走りだした。
とにかく人影のありそうな場所に逃げようと、必死に足を回す。
「もう後輩ちゃんったら……先輩の誘いを断るなんて生意気……ねっ!」
すると彼女は二足で立っていた体を大きく前に倒し、クラウチングスタートのような態勢から一気に四足歩行で駆け出した。
その姿はまるで獲物を全力で狩りに行く純血の獣のよう。
「はい、捕まえた♡」
「きゃあっ!!」
二足で走るヒトが四足で走る獣人に追いつけるはずもなく、私はいとも簡単に捕まってしまった。
そしてそのまま押し倒され、身体を密着させられる。
「ねぇ、誘ってたんでしょう……? 入学式の時からずっとビクビクしちゃってさぁ……こんな可愛いヒトのメスがいたら、襲わない方が失礼だよねぇ……?」
そんな暴論を吐きながら、彼女は私の身体を弄り、匂いを嗅ぎ、好き放題貪ってくる。
「さ、誘ってませんからっ! 襲わない方が礼儀正しいですからっ!」
自分でも意味不明な弁解をしながら、彼女の腕を引き離そうと必死に抵抗する。
しかし獣人の力に人が敵うはずもなく、いくら力を込めても彼女の体はピクリとも動かない。
「そんなこと言われても、もう我慢できないから。ハァ……ハァ……」
興奮して理性を失った獣人に何を言おうが意味がない。彼女の頭の中はもう、交尾のことでいっぱいなのだ。
「……それじゃあ、いただきま~す♡」
「ちょっ……ほんとにやめっ……!」
彼女は問答無用で私のスカートの中に手を入れる。
――いやっ! 誰か助けてっ!
そう叫ぼうとした瞬間、私に乗りかかる体重がすっと軽くなる。
「ちょっと、何よアナタ! 離しなさいよ、今イイところなんだから!」
「ゔぅ〜〜〜!」
横を見ると先程まで私の上に乗っかっていたブチハイエナの獣人は、何処からともなく現れてきたもう一人の獣人に腕を噛まれ、押し倒されている。
「痛い痛い痛い! 分かった、分かったから! もうあの子に手は出さないから、噛むのを辞めて!」
それを聞いたもう一人の獣人はぱっと口を離し、今度は「立ち去れ」と言わんばかりに威嚇する。
相当痛かったのか、ブチハイエナの獣人は腕が自由になるなり、颯爽と逃げ出していった。
――助かった……?
「……ふんっ!」
その後ろ姿を見送り、ぷいっとそっぽを向く彼女。すると今度は私の方を振り向き、そのままゆっくりと近づいてくる。
明るいクリーム色のゆるふわな髪に、ぺたんと垂れた耳が特徴的な彼女。
その姿に、私はどこか見覚えがある気がした……。
やがて目の前まで近づくと、彼女は流れるように私の体を強く抱きしめる。
「え……? な、なに……?」
あまりにも自然で、唐突な出来事に頭が混乱する。
どうして私は今、彼女に抱きしめられているのか。
しかしその答えは、彼女の声と抱きしめの強さが示していた。
「やっと会えたね、ご主人!」
彼女の豊満な胸が私の顔を圧迫する。
その柔らかい感触と元気いっぱいな声を、私はよく知っていた。
「その声、その姿は……もしかして……!」
彼女の名前は
私の幼馴染であり、私が獣人恐怖症を患うことになった全ての元凶だ――
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