第29話 狂気のバフ

 街に戻ったサキたちは生産室を借りるためにギルドの受付に寄ったが、そこにミスズの姿はなかったため、別の職員で受付を済ませたのち、ギルド2階へと向かった。


「じゃあポーションを作っていくよ!」


「はい!」


「きゅう!」


 サキは薬草と魔力水、生産初級セットを取り出して、ポーション作りを始めた。色々な試行錯誤するつもりだったが、最初は以前と同じような作り方で作ることにした。


――インベントリ――


ポーション レア度2 品質D

体力が100回復する

若干の苦みがある。


――インベントリ――


「久しぶりだから、最初から品質Cを作ることはできないかぁ」


「でも品質の低い薬草から、品質Dを作れるだけ凄いですよ!!」


「きゅう!!」


 品質が低くなってしまったことにサキのテンションが低くなっていることを察したアリウムとカグヤは、彼女のテンションを上げるために持ち上げていた。勘違いして欲しくないのは、アリウムたちの持ち上げは本音であり、そこに嘘は一切存在していない。


「そうかなぁ?」


「はい!!」


「きゅう!!」


「よぉーし、頑張っちゃおう!!」


「おー!!」


「きゅう!!」


 サキはテンションを持ち直し、再びポーション作りを始めた。薬草をより細かに潰したり、逆に殆ど潰さなかったり、魔力水に加える魔力を過剰にしたり、逆に微量にしたりと考えられる作り方を色々と試した。その結果、彼女が作り出した最高のポーションは


――インベントリ――


ポーション レア度2 品質B

体力が200回復する

若干の苦みがある。


――インベントリ――


 と言った品質Eもしくは品質Dの薬草から作り出せる中で、最高品質のポーションを作ることができた。しかし最高傑作の裏には、最低最悪のポーションもできていた。


――インベントリ――


まずい薬草水 レア度3 品質E

体力が毎秒1回復する 10分間

とても不味い、体力回復の効果が続く間、その苦みは舌に残り続ける。


――インベントリ――


 体力が合計600回復する破格の性能を持つが、その苦みも規格外であり、戦闘がままならないほどの威力を持っている。


「かなりいいポーションを作れたけど、こっちはどうしようか……飲む?」


「――」


「――」


 サキは“まずい薬草水”を持ってアリウムとカグヤに問いかけた。問いかけに対して、一生懸命を首を振って、反対の意思を示した。そんなアリウムたちの行動を見て、苦笑いをしながら一気飲みした。

 どす黒く、ドロッとした液体が舌に触れた瞬間、何とも形容しがたい味が彼女を襲った。ピリッとした刺激、身体が拒否するほどの苦み、そんな不味いと聞いて想像する刺激、味が一斉に脳を支配した。


「かはっ――“キュア”!!」


 あまりの不味さに状態異常を解くキュアを使ったが、彼女を襲っている不味さは状態異常ではなく、体力持続回復――つまりバフに付随する効果であり、状態異常を解く魔法であるキュアでは解くことができなかった。この世界にはバフを解く魔法も存在しているが、彼女の周りにはその魔法を使える者がいなかった。

 つまりサキは、十全に“まずい薬草水”を味わうこととなった。


「がぁぁ――」


 その不味さは想像以上で、戦闘どころか動くことすらままならなかった。生産室で倒れ込み、転がりながら悶絶している。そんな様子を周りのプレイヤーはコソコソと見ているだけだったが、とあるプレイヤーが近付いて来た。


「おい、大丈夫か?」


「だ、だいじょうぶです。のんだものがまずすぎただけです」


「これで口直ししろ」


「あ、ありがとうございます」


 サキは手渡された液体を流し込む。すると口の中で、程よい甘さと爽やかさが爆発した。しかし“まずい薬草水”の不味さは舌にこびりついているからではなく、システムとして存在しているものだったため、舌の上に甘い液体が乗った程度では、どうにもならなかった。


「美味しかったです。でも不味さは健在みたいなので、放置してもらって大丈夫です」


「そうか? まあ何かの縁だ、フレンド登録しようじゃないか」


「い、いまですか……はい、お願いします」


 サキに飲み物を分けたプレイヤーは、タイルという名前らしい。


は鍛冶師をやっているから、武器だったり、鎧が欲しくなったら、ウチに来てくれ」


「はい、行かせてもらいます」


「じゃあ、頑張って耐えてくれ」


 タイルはそう言って生産室をあとにした。残されたサキは未だに地面を転がり続けている。それが10分も続けば、周りのプレイヤーも慣れてきて、最後の方は誰も気にしていなかった。


「はぁはぁ、やっと終わったよ」


「お疲れ様です」


「きゅう」


 サキは息を切らしながら、インベントリに入った飲み物という飲み物を口へと流し込んでいる。

 アリウムとカグヤは、そんな狂気的にも思える行動を取るサキに苦笑いしつつ、労いの言葉を送った。


「それにしても不味すぎたなぁ」


「そ、そんなにですか?」


「おっ、アリウムも飲んでみる? たぶん再現性のある奴だから、作ろうと思えば作れるよ!」


「大丈夫です!!」


 アリウムが過去一番の声量で拒否した。


――あとがき――

次回はデスペナルティー解除後の話になります。


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