第12話 幽霊

「クエスト分のアイテムは集まったし、街に戻って散策でもしようかなぁ」


 サキはある程度戦闘に満足したため、街の中に戻ることにした。そして門を潜ると、今まで通ったことがなかった裏路地へと足を進めた。


「雰囲気がある道だなぁ」


 夜ということも相まって、足元しか見えないくらいには真っ暗だった。一歩先も微かにしか見えないその道は、まるでお化け屋敷にいると錯覚してしまうほど、雰囲気がある。


「幽霊でも出てきそう」


 彼女にはフラグという概念はない。しかしフラグを知らなかろうと、世界は建設されたフラグを回収しに掛かる。それが世の摂理である。

 裏路地におどろおどろしい音楽が鳴り始める。恐怖を煽るような音楽がどんどん大きくなっていくが、彼女が表情を崩すことはなかった。


「お化け屋敷みたいだなぁ……まあ咲良が苦手だから行ったことないんだけど」


 路地裏を進んで行くにつれて、段々と道幅が狭くなり、やがて成人男性1人通るのがやっとなまで道が狭くなった。


「――っ!?」


 サキは狭い道で抜刀し、刀を振るいながら後ろを向いた。彼女は確実に背中を触られた感覚があった。しかしそこには闇があるだけであり、質量を持つ存在などなかった。

 だが彼女の勘がそこには何かが居ると言っている。


「だれっ!」


「ご、ごめんなさい。き、斬らないでぇ」


「こ、子供……の幽霊?」


 サキが声のした方に目をやると、そこには半透明の少女が立っていた。いや、浮遊していたというのが正しいだろう。


「背中を触ったのは君?」


「ご、ごめんなさい。久しぶりに人と会えたから、つい触っちゃった」


「なら良かったよ。自分の背中を触った相手を感知できないとなったら、春風の看板に泥を塗ることになっちゃうからさ」


「そ、そうなんですね」


「それで君はどうしてこんなところに居るの?」


 幽霊の少女は何処か気まずそうにしていた。しかし意を決した顔をして口を開く。


「分からないんです。どうしてこんなところに居るのか……どうして幽霊になったのか……私が誰なのか……全て分からないんです。だからお姉さん、私の記憶を思い出させてもらえませんか!!」


ユニーククエスト発生

【幽霊少女の記憶を探れ】

難易度8

成功条件

幽霊少女の記憶を取り戻す

失敗条件

幽霊少女の悪霊化など

成功報酬

???


「(難易度8!? でも放っておけないよね)いいよ! 一緒に記憶を取り戻そう!!」


「お願いします」


『サキは幽霊少女に取り憑かれた』


「(取り憑かれるんだ!? 幽霊と一緒に行動するなら、取り憑かれるのは、当たり前か)何かしら思い出せることはある?」


 ひとまずサキは裏路地を抜け出すため、来た道を戻っている。その道中では、幽霊少女から手掛かりを得るため、いろいろと話している。


「うーん、本当に思い出せないんです。……でも記憶に関わるものを見たら、何か思い出すかもしれません」


「(とにかく足で探すしかないか……)私は普通を過ごすのが一番効率的かな?」


「はい、私としてもお姉さんの邪魔はしたくないです」


「自己紹介をし忘れてたけど、私はサキだよ」


「サキお姉さんですね。よろしくお願いします!!」


「うん、よろしく――ってこんなに長かったかな?」


 サキたちは話している間も歩き続けていたが、中々裏路地を抜けることができなかった。そして迷ったわけでもない。そもそも彼女が通って来た道は一本道であり、そこまで長い道のりだったわけでもない。つまり裏路地を抜けられないのは、何かしらの異常が起きていると考えるのが、自然だった。


「……もしかして、これはクエストの仕掛けかな?」


 すると、何処からともなく笑い声が聞こえてくる。それは全身に鳥肌が立つほど、気持ち悪い笑い方であり、本能的に拒否する笑い声だ。


「……状態異常!?」


 音が消えた。否、音が聞こえなくなっていた。幽霊少女が何かを必死に伝えようとしているが、声が聞こえない。読唇術で読み取ろうとした瞬間、サキの身体は宙を舞っていた。


「サキお姉さん!!」


「きゃはははは」


 全身に衝撃を感じた瞬間、音が戻って来た。幽霊少女の必死の叫び、そしてふくよかという言葉では片付けられないほどに、肥大化したお腹を持つ半透明の存在が、本能的に嫌になる笑い声をあげながら、幽霊少女に手を伸ばしている光景が見えた。

 サキは即座に空中で体勢を立て直し、少し離れたところで着地する。そして1秒も経たないうちに、敵であろう存在との一気に距離を詰めた。


「その子から離れて!」


「きゃはははは!!」


 その勢いのまま刀を振るったが、当然空振った。彼女が聖炎を使わなかったのは、半透明の存在が敵と断定するには早計だったからだ。

 しかし聖炎を使っていたとしても、攻撃が当たることはなかった。その半透明の存在は、刀が触れる寸前にその場から消えていた。そして少し離れたところで、サキを煽るように笑い声をあげながら浮遊している。


「……そうやって笑うってことは敵ってことでいいんだよね」


「きゃはははは!!」


 半透明の存在は、掌をサキへと向けた。


『“酒乱ゴースト”』


 サキがそのモンスターと目が合うと、それが酒乱ゴーストというモンスターであることが分かった。酒乱ゴーストの掌からは、液体の塊が放出された。

 弾丸並みの速度で放出されたため、サキは避けきれずに頭から浴びてしまう。その衝撃ももちろんだが、頭が揺れていると錯覚し、足元がおぼつかなくなる。


「状態異常……魔法で解かなきゃ……」


 状態異常は神聖魔法を使えばすぐに解くことができるが、魔法を使うための思考が定まらない。

 そしてモンスターは待ってはくれない。


「きゃはははは!!!」


 酒乱ゴーストは別の魔法の準備を始めていた。


――あとがき――

酔いにはいろいろな種類がありますから……関係ないですけど20未満の飲酒は絶対にダメです。


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