第2話「もうナーフ済みでした──落とす戦術、通用しません」

 再生回数24。


 うそでしょ、今回は4桁が目標だったのに。


 いつも最低でも3桁は行くのに……。


 昨日のやつ、スベった? いや、盛ったし、会心の出来だったはず。


 なのに。


 おかしい。なにかが、おかしい。


 沈んだ気持ちのまま、翌日を迎える。


 あれ、珍しくドヤ先輩もテンション低い。どや顔に、影が差してる。


 私はスマホをいじりながら、“別に興味ないよ”ってオーラだけ放っておく。


 気まずいわけじゃない。ただ、こっちも傷ついてる。


 「……はぁ」

 ドヤ先輩がため息まじりに言った。


 「俺、昨日“選挙は落とすゲーム”とか言っちゃったけどさ……あれ、とっくに対策されてたわ」


 ……え?


 「え、あんなに自信満々だったのにですか?」


 あぶない、思わず「あんなにドヤ顔だったのにですか?」っていいそうになって言葉を選ぶ。


 「うん、お前にドヤ顔で言ってたやつ、ナーフ済み。調子に乗ってたの、俺だったな」


(どや顔の自覚あったのかよぉぉ!)


「ナーフってなんですか?」


 しまった、思わず突っ込んでしまった。興味があるのがバレるのは、ちょっと悔しい。


 「弱体化って意味。ゲーマーとかがよく使うんだけど──今回は制度の話だな、はぁ……」


 「帰化の要件、めちゃくちゃ簡単になってるって、知ってた?」


 「え……」


 「昔は十年だったけど、今は“実績ベース”。実質、学生でもカウントされるんだよ。高校・大学無償化も、そのための布石ってわけ」


「それって……留学生を囲い込んで、帰化ルートを整備してるってこと?」


 「そう。そして、ご褒美に票を獲得ってわけだ。あっぱれというか、正直、震えたよ」


「あと、最近よく聞く“電子的肯定的行動”。フェイク対策って触れ込みだけど、実態はただの言論フィルターだ」


「それ、通信省が言ってた“ネット信頼性向上”ってやつですか……?」


「そう。“ネガティブ判定”されると、発言は自動で非表示候補。ランキング対象外。表には上がらない。──黙らせるには十分ってわけ」


 「もう、この国の“もともと住んでた側”が“正しい情報”を得て、民意を反映できる時間は──ほとんど残ってないかもな」


 「だからこそ、這ってでもだ。」


 珍しくまじめな顔のドヤ先輩をよそに、私は配信のことを考えていた。


おいおいおい! 私も昨日、どや顔で配信しちゃったんですけど!? みんな知ってたの? くぅ……これはもう、お詫び配信ルート、全力確定コースだわ……。


 「昨日、調子に乗って“選挙は落とすゲーム”って配信したんですけど、今日になって調べ直したら──あれ、対策済みでした……」   お詫びコメント、書きながら泣きそう。


 ──翌朝。

 私のチャンネル、消えてた。

 「センシティブ内容につき審査中」って、は? どういうこと? なんで“私”が? ──まさか、あれが引っかかった?

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