狸よりもワイルドすぎる





 日付も変わろうという深夜に突然現れた大男。

 甘葉から頼まれて来たというその男は重崎と名乗る隣の市の住職だった。

 一升瓶を何本も抱えて現れた重崎さんは、風介の家でくつろいでいたオヤシロさまと、ダンボールで寝る準備をしていた狸を見つけると、初対面の俺の家で酒盛りを始めた。





「そうなのです! 狐どもは調子に乗っておるのですよ!」

「ほうほう。許せぬか」

「いや、許せないという話ではなく、我々が冷遇されているということなのです」


狸さんが憤慨しつつ酒を呷る


「焼き物とか置物ではお前らの方が人気だろう。お、酒なくなったぞー」


重崎さんは俺の家を居酒屋かなんかと勘違いしてないだろうか。


「確かにぞんざいに扱われているとまではいいません。しかし、我々は愛されたいのではなく信仰されたいのです」

「まあ確かに信仰で力は得られるだろうがな。今さら力を得たところで、人間の世はすでに科学への信仰の方が上じゃろう。わしらの存在など微々たる物ぞ」

「まあ信心深いやつなんざそういないわな、神仏を信じるヤツなんかはもっと少ねえ。おーい酒ー」

「それでも! それでも一族の悲願なのです! あ、ご主人私も少しだけ梅酒のおかわりを」


 話が盛り上がっているようで、こっちの都合なんて全く考えてないようだ。正直付き合ってらんないのだが。でも放って置くわけにもいかないので、酒瓶をちゃぶ台へと運ぶ。


「わからんでもないがのー。しかし今さら信仰されても稲荷ほどになるのは無理じゃぞ。何百年かかることやら」

「始める、始まるのが大切なのです。やつらが稲荷神の眷属なら我らは、えっと」

「ふぐり神なんてどうだ?」

「ふぐり神! 響きは悪くないですな」

「ほほう。ふぐりとはなかなか悪くないの。どういう意味じゃ?」

「まあいなりと似たようなもんだよ。気に入ったのならなによりだ。わはは」


 俺だって酒は飲まなくもない。でも質の悪い呑兵衛はちょっと苦手だ。

 これ以上世話をしなくていいように、おかわりのセットをまとめて運んでいくと、実に酔っ払いらしい下品な冗談を重崎さんが発していた。この人お坊さんなんだよな? ……なんか腹立ってきた。


「おい! この生臭坊主! 動物にいらん言葉教えんな!! くだらないことばかり言うなら解散だ解散! 帰れ!」

「わはははは。初対面の相手に堅いこというな小僧」

「初対面のヤツの家でくつろぎすぎだろ!」

「なんじゃなんじゃ。孫はなに怒っとるんじゃ」

「そうですよ、ご主人、いい名前いただきましたよ、ふぐり神ですな」

「わはははは。そうかそうか。じゃあ改めて乾杯だ!」


 コップやら酒瓶やらつまみやらでもう隙間のない座卓の上で、がちゃんとグラスが打ち鳴らされる。またまだ酒宴は続くようだ。



 風介は頭を抱えて後で甘葉に抗議のLINEを送ることを決め、雷太は風介の行き場のない憤りを上から眺めケタケタと笑うのだった。



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