気づけば窮地に立たされる
(「風助その竜巻に近づくな!」)
雷太が大声で叫んだ。
やってしまった。あまりにも急すぎる展開続きで、ちょっと惚けていたようだ。気付かないうちになにやら小さな竜巻が目前まで近づいていた。
もしかしてこれって触れると不味いのだろうか? いや不味いよな。瞬間的に転がるように後ろへと飛び退いたが、靴の先が竜巻に触れてしまった。
ズバババババッ!
スニーカーのつま先が切り刻まれる。靴がバラバラになるほどではなく、ひとつひとつの傷は浅いようだが、これを生身に浴びると……。ちょっと想像するだに痛いし怖い。
「かまいたちじゃな。意思は感じられないからまだ生まれたばかりじゃろ。自分から触れなければ寄ってはこないはずじゃからよく動きを見ておけ」
(「うりゃっ!」)
雷太が竜巻をケリで吹き飛ばす。消えるまではいかないようだが、勢いは一瞬弱まる。
「助かる!」
(「おうよ! 危なかったら声かけるけどおまえも気を抜かないでくれ」)
かまいたちは物理的な現象のようで、雷太にはダメージがない。これなら安心して任せられる。
「オヤシロさま! どうしたらいいんですかこれ!」
「集まりやすい土地とはいえこれはさすがに集まりすぎじゃ。なんかこうなった原因があるはずじゃぞ。なんか心当たりないか!」
普通に生活しているだけなのに異常事態などあったのだろうか……
(「あれだよあれ! こないだの心霊写真のとき一度埋めただろ! あそこがなんか瘴気みたいの出してたぞ!」)
写真はなんとかしたはずだけど、確かにあれしか思い当たるのはないな。とりあえず畑に行ってみるか。
「オヤシロさま庭の方です!」
庭まで駆けていく。ひときわ濃い靄が渦巻く箇所を発見したが、雷太の指摘通り写真を一旦埋めた場所のようだ。
(「うーん、あの中を孫が突っ切るのは危険じゃのう。どうにかして近づかないといかんのに。そばに行けばわしが清められるはずじゃ」)
そう言われましても。危ないって言われて突っ込む勇気はないし、そもそもたどり着く前にどうなることやら。そうだ!
「オヤシロさま。オヤシロさまは、この御守りに憑いているというかお力を宿してる状態なんですよね?」
(「そうじゃよ。だからこそこの御守りから大きくは離れられんのだ」)
「ですか、ってことは」
(「なんじゃ」)
「つまり、こう!」
御守りを握りしめ、振りかぶって問題の場所に力一杯投げつける!!
(「うぉおぉぉおおおお! なにするんじゃい! 祟るぞ! 祟ってやるぞ!」)
お守りに宿ってるんだなというのがよくわかる。飛んでいくお守りに引っ張られるように変な姿勢ですっ飛んでいくオヤシロさま。
「緊急事態です! 許してくださいー。あ、ちょうどいいところに落ちた」
(「真横に飛んでいく人間って初めて見たな」)
「抵抗もできそうだけどね、きっと。オヤシロさまお優しいんだよ」
こんな扱いしてしまってどう思っているかはわからないが、無事元凶にたどり着けたのも事実である。オヤシロさまはギロリとこちらを睨みつけている。
「不敬にもほどがあるわ! あとで覚えていろ! ……今から清めるが少し時間かかるぞ。数分なんとか生き延びい」
両手を合わせてなにやら唱え始めるオヤシロさま。祝詞や呪文というよりも、なにか歌っているような音が響き渡る。空間を清めるような高い音、そして大地を包み込むような低い音、それらが合わさりひとつの大きなうねりとなっていく。
ほのかに光るその姿も相まって思わず手を合わせたくなるような神々しい風景が作り出されていた。さすが神様。
「オヤシロさますごい……」
思わず見惚れてしまっていると
(「おい! なんかこっちに攻撃してきてるぞ! ぼーっとしてるんじゃねえ!」)
雷太の必死な声が聞こえてきた。そうか、よく考えたら狙われてるの俺だから、オヤシロさまいなくなったらこっちにより集まってくるのか。
(「じっとしてるな! 逃げろ逃げろ!」)
ここは一旦離脱するのがベストかな。
(「いかん! 離れすぎるな! 今孫の器を絡めた結界を張っている所じゃ! 離れるとまた最初からやりなおしになってしまう」)
どうしろというのか。つかず離れず逃げ回るとかなかなか難度高い。
うわ、またカマイタチだ。
端っこではあるが袖が切り裂かれる。やっぱりこれ手足巻き込まれたら洒落にならないぞ。
(「後ろ後ろ!」)
雷太の声に振り向くと、
(「まだ時間かかるか? 蛇の神様!」)
「もう少し! あとは仕上げじゃ!」
キィィィィインと甲高い音があたりに響き渡る。空気を切り裂くようなその音に、淀みが祓われていく。
(「でかいカマイタチも来てる! あっちは任せろ!」)
「いかんぞチンピラ! お前が離れるのは悪手じゃ!」
雷太が俺から離れた瞬間、ぷちりと何かが外れるような感覚があった。これは不味い気がする。
(「えっ!?」)
雷太がそう漏らした瞬間、古びたモノクロ写真のように世界が色を失った。
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