勝手に話が進んでいく
「おいそこの。隠れてないで出てこんか。不敬じゃろがい」
「……」
雷太よ、無視は通じないと思うんだよ。
「孫よ、あやつを呼ぶのじゃ」
困ったことになった。蛇が苦手だから来れないとか言ってもいいものだろうか。怒りを買うのはまずいだろう。でも正直に言った方がいい気もする。あと孫って俺のこと?
「あの……、あいつ、雷太は蛇が苦手なようでして。オヤシロさまもそうなんですが眷属の蛇さんが怖いようで」
「なんじゃ、女々しいヤツじゃのう。おい、お染。人の姿にでも変化せえ」
やけにしっかりした蛇さんだとは思っていたが、お染という名前まであったようだ。そのお染さんは蛇の姿のまま軽くうなずいたかと思うと、どろんと煙に包まれた。煙が晴れるとそこには、かわいらしい少女の姿が。艶やかな黒髪で前髪はぱっつんと切りそろえられている。少し眠そうな瞳、薄い唇と、ちょっと古風なおとなしい中学生といった印象だ。日本人形的な顔立ちに巫女衣装がよく似合っている。これは蛇さんじゃなくてお染さんでもなくてお染ちゃんだな。なにやら雷太が好きそうな見た目な気がするけど中身は蛇なんだよなあ。
「これでしたらどうでしょう。えっと、そこの愚連隊っぽいお方」
すごい言われようだが、ガラが悪いのは確かにその通り。
(「もう蛇いない?」)
「んー、元の姿はともかく見た目的には全員人間かな」
姿を確認できたからかすっと雷太が姿を現した。
(「こいつが蛇の親玉か。とりあえず蛇に見えないから……なんとか」)
「変なこと言ってると怒られるぞ」
(「俺の声は聞こえてんのかな」)
憑かれた者と憑いているモノは、見えないなにかでつながっているのか、ごくごく小声でも、さらに距離が離れていても話が通る。
ただし、念じるだけで話ができるというほど便利ではなく、こちら側からは声に出さなければ言葉が通らない。
「こそこそ話すな悪たれ小僧が」
(「わかったよ……。オヤシロさまだっけか」)
「おう、ようやっと来たか。孫に憑いてるようだが、姿を現さなかったら祓おうかと思っとったぞ」
引きつった表情になる雷太。さすがに神様相手だと虚勢も張れないようで、借りてきた猫のようだ。もしかすると相手が蛇だからかもしれないが。
(「それでなんの用なんすか?」)
訝しげにしつつも尋ねる雷太。
「お前は、土地に縛り付けられてた霊じゃろ? なぜ孫に憑いてまで土地を離れた」
確かにと思わずうなずく。雷太が憑いてきたときは少々揉めたが、憑いてきた理由などは詳しく掘り下げることはなかったのだ。危ないところを助けられたというちょっとした恩があるというのも深く踏み込まない理由ではあったが。
(「あー、まあ波長が合ったってのが大前提ではあるんだけど、危なっかしくてな、こいつ」)
そんなに頼りなかったんだろうかと首を傾げる。まあ自信満々で悠々とトラブルを乗り越えていくタイプでないことは自覚している。
「ほう、お前が孫と会ったとき孫にはなにも憑いてなかったのか?」
(「ああ、がら空きだったよ。しかも危なそうなの引き連れててな」)
「なるほどな。放っておけなかったと。お前がそれを言うのも大概だがな」
(「そんなところだ。悪いやつじゃないし、それだったら俺が憑いておこうかってさ」)
俺だけ会話から置いてけぼりである。それに気づいたオヤシロさまが
「つまりな、おぬしはいわゆる霊媒体質ってやつよ。憑かれやすい、というか思わず憑きたくなるような、な。だから器を求めている人あらざる存在たちが集まってくる」
「えー、そんなの知らなかったですよ……迷惑だな。だから雷太が憑いたってこと? ていうかそれ以前はどうだったんだろ」
なんか人ごとのように言ってしまったが、そんなこと知らなかったし知りたくなかったよ。
「あんまり分かってなかったか。タチの悪いのに憑かれると最悪自分を失うんじゃがな。そうなると死んだようなものよ。この
当たり前と言えば当たり前か。オヤシロさまや雷太に言っても仕方ないよな。
「それで話を続けるぞ、憑きやすいとはいっても人数制限というか入れるスペースに限りがあってな。すでに先住がおれば、ぽんぽんと自由に入るわけにはいかない。今はこいつが住み着いてるから結果として他の霊がほいほい入れないというわけじゃ」
(「空き部屋がない状態だな。まあ無理矢理入ろうとするヤツもいるけど」)
説明を受けていろいろ腑に落ちるところはある。
「そうか知らないうちに助けられてたんだな。なんか悪かったな」
(「まあ俺も話し相手になるヤツいて退屈しないですんだしな。土地から離れられるのも正直いい暇つぶしになってる。まあこれからもよろしく」)
俺たちの友情は始まったばかりだ! といった表情で手を差し出してくる雷太。
「でもプライバシーの侵害とどこでもかまわず会話求めてくるのはやめてほしい。あといい女発見したとかデリカシーのない発言もいらん」
親しき仲にも礼儀はあるしと思わず本音が出てしまった。雷太の手も思わず止まったようだ。
(「おう……。喜んでくれるかと。男同士いろいろ話したいじゃん」)
すこし寂しげに見えるが線引きは大事だと思うんだ
「そんな時代じゃないんだよ、昭和の高校生様よ」
「じぇねれーしょんぎゃっぷってヤツじゃの。わしみたいに時代に応じてアップデートかまさんとな」
「こっちはこっちで変な単語を知ってるんだな。神社の運営でアップデートとかあるんですか」
神社の佇まいを見るに、祀られて十年やそこらじゃないだろうな。少なく見積もっても数十年とかうっかりすると百年単位で存在しているかもしれないオヤシロさまである。現代日本に柔軟に対応できるもんなんだろうか。
「いつまでも古いしきたりのままじゃ氏子も増えんしな。この前もなんかゆるキャラだかマスコットだかメディアミックスだとかな、若いのが話しておったぞ」
「ゆるキャラは微妙な古さです。オヤシロさま」
お染ちゃんの突っ込みが入る。正直気になっていたのでありがたい。
「まあ孫と悪僧の件は納得したわ」
「助かります」
人の姿で会話を続けたからか、蛇への恐れが多少薄まった様子の雷太。
そしてそのありようもオヤシロさまに承認されたのだった。あと俺のことを孫って呼ぶの決定っぽいな。きれいなお姉さんに孫呼ばわりされるのなんか変な感じ。
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