第18話 連携訓練初日の始まり

ピクニックを満喫した翌日。

日が登り始めた朝早くからトレストの東門、その外壁の外には多くの冒険者が集まっていた。


その中には当然私やレアード達"希望の守り手"も含まれており、現在トレストにいる多くの冒険者が集まっていた。


「こんなにいたんだ・・・・・・」


数の全容を把握していなかった私は驚きの余り、辺りを見渡していた。

見知った顔もいれば、知らない顔もいる。

ざっと数えただけでも100人はいるであろう事実に目を丸くしていた。


カインとリリィは別々に行動して、それぞれ冒険者パーティの元へ赴き挨拶を交わしていた。


「気づいていなかったのかよ。トレストは四方を森に囲まれた街。その上、その森の一つが禁止区域に指定されているほどの危険な地だ」


レアードの発言に私は納得した。

確かに言われてみれば、四方が敵に覆われているようなもの。

見方を変えれば絶好の狩場だ。


「だから多いんだ。けど、私今まで気づかなかったんだけど・・・・・・」


「それはお前。いつも下向いてたじゃん」


ぐうの音も出ない。


しばらく話に興じていると、冒険者の空気が変わったのに気づく。

冒険者の視線が城門に向き、人が集まっていく。

その中心には、4人の男女。

その姿を見ただけで只者じゃないことに気づく。


「何かしら?」


「誰か来たみたいだな。顔見に行くか」


私とレアードは足を向ける。

そこには何度か見たことのある者たちがいた。


「ありゃあ"深紅の刃"だな」


「深紅の刃?」


何度か見たことはあるが、彼等について話したことも聞いたこともなかった。


「Bランクパーティ"深紅の刃"。ここトレストを代表する冒険者パーティだ。何度か深淵でも見たことあるだろ?」


確かに何度か見かけたことはある。

話しかけたことはなかったが、戦いっぷりを見たことはあった。

そして、おそらくリーダーだろうと推測出来る赤髪の青年。

彼はきっと人気を集める類の人だろうと感じるものがあった。


「何度か見たことある。話したことないけど」


「話してみろよ。良い奴らだ」


その後、彼らが各冒険者と挨拶を交わしていると、赤髪の青年の視線がこちらに向く。

赤髪の青年は笑みを向け、近づいてくる。

群がる冒険者が海を割るように道を開け、赤髪の青年は私達の目の前までやってきた。


「やぁ、レアード。元気そうだね」


赤髪の青年は笑みを浮かべる。


「ああ、お前らも相変わらずの人気だな、カノン」


「そんなことないよ。最近は物騒だからね。気が滅入るよ」


カノンは赤髪を靡かせて、爽やかな表情を浮かべている。


「そんな風には見えないけどな」


カノンは首を傾げていた。

ん?何言ってるの?と言っているかのようだ。


「よぉ、レアード。あとで模擬戦しないか?」


カノンとレアードが会話を続けていると背後にいた褐色の肌をした女性が前に出て話しかけてくる。

赤黒い癖のある長髪を結んで下ろしている。

サングラスをかけていて、ビキニアーマーに身を包み、まるで海水浴をしているような格好だ。


「ああ、後でな・・・・・・」


レアードは視線を外す。


「いっ!!」


一瞬視線がとある一点に注がれたことに気づいた私はレアードの足を思い切り踏んだ。

これは制裁だ。


それを見ていたカノンは微笑んでいた。


「突然済まないね。彼女はローラ。バトルジャンキーなんだ」


カノンの視線が私に向く。

わざわざ私に説明してくれるのは有り難い。

と言うかバトルジャンキー、初めて聞いた。


「良いねぇ。君も強そうだ。強い人間は好きだよ」


突然目の前に現れた為、半歩下がってしまう。

ぞくりと変な感覚に襲われた。


「辞めなさい。初対面の子にそんなこと言ったら嫌われるよ?」


「ちぇっ」


ローラは不貞腐れたようにアヒル口を作っている。


私はカノンとローラの背後にいる男性二人に目を向ける。

伸びた黒髪を腰まで伸ばし眼鏡をかけている男性と厚いロングジャケットにそれと繋がっている帽子で顔を隠している男性だ。

一人は視線を逸らし、一人は気付けば居なくなっていた。


あれ?

首を傾げる。


「ああ、二人はロンドとアキト。ロンドは人見知りでアキトはちょっと変わった子でね」


長髪の男性がロンドで、視界から消えた男性がアキトのようだ。

私はふと気配を感じ、背後を振り向く。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


アキトと目が合う。

アキトは大鎌に手を掛けようとしていた。

もしかして大鎌を興味があるのだろうか?


アキトがカノンの背後に戻ったので視線を戻すとカノンとローラがほぉーっと少々驚いた顔を見せていた。


「アキトは気配を消すのが上手いんだよ。それを一瞬で見破るとは流石は赤い死神」


「へぇ、後で模擬戦しようか」


カノンとローラは各々感心する様子を見せる。


「もしかしたら、やる機会があるかもな」


「「楽しみだ」」


カノンとローラはワクワクした様子を見せていた。






⭐︎






「その、済まなかった」


頭を下げるカノン。


「まさか二つ名が嫌いだとは思わなくて」


いや、乙女に死神は普通嫌がるでしょ?


「あんた、それはあたしでも分かることよ、おバカ」


まさかのローラによる説教であった。

ローラのまさかの理解できる発言に面食らう。


「私も一応女だからね。流石に死神は嫌だよ」


バトルジャンキーも死神は嫌なようだ。


「まさかローラに説教喰らうとは思わなかったよ」


口を挟まないロンドとアキトも頷いている。


そうして話し込んでいると今度は離れたところから大きな声が聞こえてきた。


「おお〜い!皆〜!久しぶり〜!!」


耳に響くような甲高い声。

かと言って耳心地が悪いわけではなく、むしろ透き通った綺麗な声。

声を聴いただけで笑みが漏れてしまいそうなそんなわんぱくで、楽しげな声が聞こえてくる。


「おっ、戻ってきていたのか」


カノンが視線を向けると同時に私達も視線を向ける。


そこに居たのは男性二人、女性二人の組み合わせのパーティ。

オールバックの猫背で覇気がなさそうな男性と高貴な身分かと疑いたくなるような身なりの整った長髪の男性。

目つきが鋭く、全身を黒い装束で見に纏い、手袋などで顔以外の一切の露出をなくした黒髪の女性と、反対にミニスカートに胸元の空いたセクシーな装束に身を包んだギャル風な茶髪の女性が現れる。


セクシーな装束に身を包んだギャル風な女性が遠くから手を振っていた。


すると冒険者が次々に手を振り始める。

人気者のようだ。


「彼女達は?」


見覚えのない顔だった為、レアードに囁く。


「あ?初対面か?たまには帰ってきてたけどな」


そんなこと言われても覚えていないのだから仕方がない。

催促すると、レアードは彼女らに目を向けながら口を開く。


「"黒王戦艦"。Bランクパーティの四人組だ。拠点はここだが、いろんなところを飛び回ってる。3ヶ月から半年の間で依頼を終えて戻ってきてるから会ってるはずなんだが・・・・・・」


レアードは首を傾げ、考える素振りを見せる。


するとギャル風な女性が残りの3人を引っ張って私達の前に集まる。


「やっほ〜!皆元気してる〜!?私はちょ〜元気だよ〜!」


「見れば分かるわ」


ローラが突っ込みを入れる。


「ローラさん、冷たい!!」


ギャル風の女性は嘘泣きのポーズを見せる。


レアードはそれを見ながら私に紹介をする。


「あそこのやる気が無さそうなのリーダーのルーファス。貴族っぽいのがアイゼ。目付きのキツい女がロッサ。で、そこのギャルがメイデルだ」


「おい、やる気なさそうって言われてるぞ、ルーファス」


ロッサがルーファスに説教をかます。


「いやー、事実だし」


ルーファスはあまり気にしていないようだが、かえってそれがロッサの反感を買っている印象だ。


「と言うか、目付き悪いって言われてるけど良いのか?」


「私の事は別に良い!!」


アイゼは責め立てる勢いでルーファスに寄って行く。


「貴族みたい・・・・・・流石は私ですね」


アイゼはレアードの発言を聞いて気分を良くしている。


「も〜!レアードさんもっと他に無いの!?」


メイデルは頬を膨らませていた。


私は一歩距離をとって4人を眺めていた。

騒がしいパーティだな。

それが私の第一印象であった。






⭐︎






「ところで俺ら戻ってきたばっかで詳しく知らんのだけど・・・・・・今回は何すんの?」


唐突に話し始めるルーファス。


「聞いてなかったのかよ!連携訓練言ってただろ!」


「へぇ、そうなの?・・・・・・それで理由は?」


「・・・・・・それは・・・・・・私も知らない」


ルーファスとロッサはアイゼとメンデルに目を向ける。


「私も詳細は聞き及んでいませんね」


「私も知らな〜い!」


このパーティほんとにBランク?

頼りなさそう・・・・・・。

私はこのなんとなく頼りなさそうなリーダーと周りのやりとりを見て少し心配になる。


「まぁ、色々あったんだけどな・・・・・・」


私とレアード達は“黒王戦艦"と"深紅の刃"を連れて、場所の移動を開始する。

そして深淵の森での一件を包み隠さず教える。

魔人の事は秘匿情報ではあるが、彼らになら話しても良いと判断したようだ。


やっぱり頼りになるのかなぁ。

私の心中は大きく揺れていた。


「なるほどなぁ。そんな存在がいたとはなぁ。聞いたことあるか?」


「ない」


「私もありませんね」


「知らな〜い!」


「だよなぁ」


相変わらず騒がしく、真剣身を感じない。

やっぱ頼りないかも・・・・・・。

私の評価は段々下がりつつあった。


「俺達も初耳だね」


カノンは顎に手を置いて考え込む。


「そんなに強いのかよ。戦ってみてぇなぁ」


ローラはうっとりとしていた。


「「・・・・・・」」


残りの二人は声をあげず、黙っている。


私は改めて魔人の存在が本当に秘匿されていたことを認識した。






⭐︎






その後、再び世間話となりワイワイしていると、再び周囲の空気が変わったことに気づく。

流石は高ランク冒険者。

周囲を見回すと皆、会話を止め一点に視線を集めている。


そこは城門のすぐそば。

城門からギルドマスターガロがギルド職員を伴い、姿を現したのである。






⭐︎






ギルドマスターが城門の前に立つと、冒険者が皆ギルドマスターの元へ集まる。

あの烏合の衆がなんの文句も言わずに集まり始めたのをみて、ギルドマスターの威厳を再認識する。

私達もギルドマスターの元へ向かう。

パーティ毎に束になり集まる。

ソロ冒険者はソロ冒険者同士で集まっている。


集まったことを確認したギルドマスターはゆっくりと口を開く。


「朝早くからこうして集まってくれたこと。まずは感謝する。今トレストでは大きく事態が変化しつつある。その変化に抗う為にこの度は連携訓練をすることとなった」


ギルドマスターは今回の連携訓練を行う経緯を説明し始める。

と言っても、秘匿情報である魔人の存在には触れず、ただ深淵の森の異常という形での経緯だ。


「深淵の森は知っての通り指定禁止区域。高ランクの魔物が闊歩している。そして現状、我々人類はその指定禁止区域の探索に難儀しており、思うように行っていない。現に深淵の森の深部に到達した者はおず、トレストが抱える高ランク冒険者の力を結集しても中域までがやっとな状態だ。しかし、その状態であっても我々は異常を感じ取ることに成功した。だが、分かるのは異常が起きているという事実だけ。深部では何が起きているのかさっぱり分からん。我々では調査することも出来ない。だからこそ、不測の事態に備える為に連携訓練をすることとなった」


ここまで説明したところでカノンが手を挙げる。


「経緯は分かりました。しかし、我々だけで抗えるのでしょうか?騎士団では何かしらの動きはないのですか?」


「そこについては問題ない。今回の件を伝えたところ最上位騎士の派遣が決まった」


最上位騎士という名が出たことで、冒険者の間でざわめきが広がる。

それほどの出来事であると言っているようなものだからだ。


「つまり我々全員が指定禁止区域に入るのですか?」


すると再びざわめきが広がる。

無理だろ。

無茶だ。

引っ越そうかな。

などと弱気な発言が聞こえてくる。


「いや、我々の役目は城壁を守り、街中に魔物が侵入することを防ぐことだ」


それならなんとか。

良かったー。

ヒヤリとしたぜ。

などと一安心する声が多い。


「深淵の森の調査は最上位騎士とAランクパーティ以上の者のみで行う。隣町のオークスからも冒険者を派遣する旨の通達が来ている」


「畏まりました。ではどのような連携訓練をするのかお聞かせください」


カノンは初めから分かっていたに、流れるように誘導し、話を進めて行く。

おかげでギルドマスターも随分と話しやすそうだ。


「相変わらず、ああいうのがうめぇなぁ」


隣でレアードが呟いている。

どうやら、カノンは流れを作るのが得意らしい。


「率先して声を上げることであくまでギルドマスターとBランクパーティのリーダーとの衝突という構図を作り出す。そうすれば、下のランクの冒険者は口を挟めなくなる。その上、衝突しているのが人気のあるカノンだ。周りはカノンに全て任せるだろうな」


「自分の立場と人望を良く分かっているわね」


気づくとカインとリリィがそばに来ていた。


「きっと今回の連携訓練もカノンが中心になってやることになるんじゃないかしら」


確かに私がカノンを見かける時は、決まって誰かに囲まれていたっけ。

リーダーシップがあるってことなのね。

私の中でカノンの評価は鰻登りになっていった。


そして、カノンとは対極なのが・・・・・・。


「リーダーシップあってかっちょいいなぁ」


「あんた、しっかりしろ!」


隣ではルーファスがロッサに尻蹴りを食らっている。


「カノンちゃん、カッコいい〜!」


さらに奥にいるメイデルはカノンに声援を送っていた。


「・・・・・・」


"黒王戦艦"は本当に大丈夫なのだろうか?

そう思わずにはいられなかった。






⭐︎






「本題の連携訓練のやり方だが・・・・・・」


本題に入ると同時に辺りは静寂に包まれる。

無駄話が無くなり、皆が聞く体勢に入る。


「主にやるのは3つ。大雑把に言えば、他のパーティの特色を知ること。パーティの連携力を磨くこと。個人の実力を磨くこと、だ。」


ざわざわと話し声が広がる。


「まず一つ目、他のパーティの特色を知る事だが、これはパーティごとにグループを組み、実際に魔物の討伐をやってもらう。戦いながら、味方の戦い方を学び、連携力を高める。二つ目、パーティの連携力を磨くこと。これはパーティごとに模擬戦をしてもらう。互いに戦術を理解した上であえてぶつかる事で双方の成長を促す。そして、三つ目。個人の実力を磨く事。これは個人戦の模擬戦だ。いろんな人と模擬戦をして経験値を増やす。これが連携訓練の主な内容だ」


確かに理にかなっている。仲間の理解を深め他の戦い方を学ぶ。

パーティ間での連携を鍛え、戦術の引き出しを増やす。

個人での模擬戦で土台のレベルアップ。

それらを全てクリアすればもしかしたら全員冒険者ランクをワンランクアップ出来るかもしれない。

私はそう考えた。

そして、気になることが一点あった。

しかし、それを聞く前に隣で手を上げるものがいた。

隣でレアードが手を挙げる。


「ソロ冒険者はどうすんだ?」


レアードは私の考えに気づいたかのように発言する。

そう、私達ソロ冒険者は徒党を組まない。

その為、一つ目と二つ目は経験がほぼ無いのだ。

そして、この場には少数ではあるがソロ冒険者がいる。

ほとんどがパーティを組んでいるイメージであるが、ソロ冒険者はそれなりの数あるはずだ。


「ソロ冒険者もパーティの中に組み込む。ソロはパーティの戦い方を学び、パーティはソロの戦い方を学ぶんだ」


なるほど、理解出来た。


「分かった」


レアードも理解出来たようで口を閉じる。


「他に聞きたいものはいるか?」


ギルドマスターが周囲に視線を向けるが手を挙げるものはいなかった。


「よし、ならグループの発表を始める」










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