第9話 もっと早く知りたかった【side 夜翔】

今日一日、俺は沙音を探し回ってたのに、あいつは徹底的に俺を避けてやがった。


つーか、避け方が露骨すぎんだろ。

……本人が気づいてんのかどうかも怪しいけどな。

教室に入ればすぐ出てくし、目が合いそうになったら即そらすし。

……ま、俺が「関わるな」っつったせいかもしんねーけどよ。


だけど――

昇降口でチャラついたクズどもに絡まれてるのを見たとき、あいつが無理して平気なフリしてるのが、見えちまった。


怖がってんのに、必死で平気なフリして。

震えてんのに、それをごまかして歯を食いしばってる。


胸がどっくんと音を立てた。


……その姿が、重なった。

思い出したくもねぇ過去が、勝手に浮かんでくる。


凛夜。


まさか。そんなはずはねぇ。

沙音は、沙音だ。

……わかってる。わかってんのに、目が離せなかった。


似てるだけ。それだけのはずだ。

けど……たった一瞬、あの目が、あの表情が――

凛夜と重なって見えた。


……冗談じゃねぇよ。

だったら、今まで必死で探し続けてた俺は、なんだったんだよ。


あのとき、間に合わなかった。

守れなかった。何もできなかった。そのせいで凛夜を失っちまった。


それを思い出すだけでまだ悔やむ。


だからって。

沙音に凛夜を重ねるなんて……最低だ。

そんなの、本人にも、凛夜にも、失礼すぎんだろ。


けど。けどよ――

それでも、俺はもう……

あの目を、あの感情を、無視できるほど、冷たくはなりきれてねぇ。


……守りてぇなんて、口にすんな。

沙音は、凛夜じゃねぇ。


けど、もし――ほんの少しでも、“あの頃”に繋がる何かがあるなら……

俺はきっと、また……止まれねぇんだろうな。


きっと、沙音の昔の記憶を……無理矢理にでも、思い出させようとするんだろうな。



◇◇◇◇◇◇



夜翔はその夜、一人で屋上に立っていた。


「……話すべきか、まだ早ぇか」


ポケットの中で、凛夜が残してくれた小さな黒曜石のペンダントを握りしめる。


“生まれ変わり”――

本当に、そんなことがあるのかよ。

でも……この世界では、それもあり得るって、もう知ってるだろ?


だから、「探す」って約束したんだからよ。


「お前が、凛夜だったら……。それでも俺は――」


声にならない想いが、夜の風に溶けて消えていった。

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