第37話 どうしてこうなった?

 腕の中にはリア。

 背中にはフェルノア。

 横には葵。

 そして目の前にはエル………。

 さらに周りにリエラとシェリス。


 どうしてこうなった?



「……誰よこの女は!?」


 明らかにイライラした様子のエル。

 しかし、これに対しては納得できない。

 そもそもお前、俺を婚約破棄して王子に嫁ぐはずだろうがよ?

 なんで文句言ってるんだよ!?


「フェルノアのことか? こいつなら、ずっと一緒に旅をしてただろ?」

「はっ? 嘘を言わないで! こんな人、いなかったわ! そうよね、リエラ。シェリス!?」


 しかし、エルフィーネの勢いは止まらない。

 ますます肩を怒らせて顔を近づけて……って、なんで赤くなる俺!?

 もう物語は終わっただろ?

 バッドエンド回避したんだから、もう仕事してんじゃねーよ!?


「いや……その……じつは……」

 しかしリエラは言いよどむ。

 そりゃそうだよな。

 こいつらは知ってるんだから。


「聖女様。申し訳ございませんが、私たちは知っています。彼女はレオフェルド様の肩に乗っていましたので」

「はぁ?」

 恥ずかしがるリエラが何も言えないので、シェリスが言葉をつないだ。

 

「まさか幻術? 魔物がなぜここに!?」

「魔物じゃないから。こんなのでも聖獣だから」

「嘘をおっしゃい! なんでこんなところに聖獣がいて、レオを抱きしめているの!? そんなの物語にないでしょう!?」

「物語……?」

「あっ……」


 俺がジト目で睨みつけると、急に慌て始めるエルフィーネ。

 やっぱりこいつらは物語を知っていて、それに沿って動いていたんだな。


「俺を誘い込み、惚れさせて、酷い婚約破棄を喰らわせて、最後は殺す。それがお前たちの計画だな?」

「へっ? いやいやいやいや。そんなことはないわ!? どうして殺すなんて?」

「ん?」


 慌てて否定するエルフィーネ。

 違うのか?

 でも、あのゲームでは確かに俺は処刑されたはずだ。


「ストップだよ正義まさよしくん。それ、バッドエンドのことを言ってない?」

「なんだよ、葵。知ってるのか?」

「当たり前でしょ? あのゲームをあなたに貸したの私だよ?」

「まぁそうだけど」


 今までテレビでも眺めているかのようにお俺の隣にちょこんと座っていた葵が会話に入ってくる。

 そう、こいつはちょっと前まで魔王をやってた、俺の友人だ。

 あのゲームを貸してくれた張本人でもある。

 この世界ではシキとか呼ばれてたみたいだけど、魔王としての名前なんてもういらないよな?


「あのゲームはね……」


 そして葵が語った真実は衝撃的なものだった。


 そもそも魔王を討伐して帰還すると婚約破棄がなされて王子と聖女が結婚し、主人公はもともと好きだった義妹と結婚するらしい。

 なんだよ、頑張ったのに、普通にやればその未来だったのかよ。

 目をぱちくりしているリアが可愛い。大好きだ。


 それが崩れるのは、魔王を消滅させたときらしい。

 実はこの世界では魔王ループなる企みが長い長い年月をかけて走っていて、魔王を消滅させるとその企みを崩してしまうことになるらしい。


 こうなると、企みを継続させるために敵が出てくる。

 それがあの悪霊だ。葵の見たところバゼルもそうかもしれないらしい。

 ちなみに、葵はこの話を攻略本で読んだだけで、バッドエンドは味わってないから、実際には知らないんだってさ。


 サーシャがそんな役割を担っている理由がわからないけど、この世界でむしろ悪霊と仲良くなっている俺の方が異常とのこと。



 俺がゲームをやったときは、どうやら頑張り過ぎたらしい。


 不必要なほどに主人公を育て上げ、恋人だと思ってたエルフィーネと大切なリアを守るためと意気込んで魔王を消してしまった。


 結果、ループ修復のエネルギーを得るためにリアは悪霊に殺されて生贄にされ、俺はその悪霊を呼び出したと言って殺され、ガイルはなぜか死に、フローラもローレンスも死んでいく。

 落差が激しすぎるだろうが。

 


「マジかよ……」

「そんな計画だったのね?」


 驚く俺と、驚くエル。

 お前も知らなかったのかよ。

 ということは、転生してきたゲームプレーヤーではない人間も一部はこの話を知ってるってことだな?

 

「そんな計画って言うか、そもそもループはなんのために存在してるんだ? ゲームの物語を始めるためとかいうガバ設定じゃないんだろう?」

「それは知らないんだ。ゲームの中では語られていない。少なくとも僕がプレイした中では」

「まだ先があって、そこで知ることになるかもしれないってことか?」

「恐らく」

「ちなみにお前はどんなストーリーをやってたんだ? 魔王が可愛いんだぁとか言ってたっけ?」

「そうそう。可愛いでしょ、ボク」

「はいはい……」

「適当すぎるぞ、このクソ野郎!!!!?」

「あなたもそう思うわよね? 私だけじゃないわよね!? このクソ野郎!!!?」

「なんでだよ!?」


 なんで葵とエルの2人から殴られるんだよ!?


「どう思います、聖女様。この反応。ひっどいよね?」

「本当に。あなたも苦労したのね。酷いわ!?」


 しかも結託してるし。

 どういうことだよ!?


「そう言えば、あの時はごめんなさい。何もしてあげられなくて」

「いいよ。さっき王子が言ってたことは本当なんだろうけど、奴隷の立場で抗うのは無理だよね」

「えっ……えぇ……」

 これは謝罪だよな?

 なんかマウント取ってない? 大丈夫?


「まぁ、しいて言うなら、ゲームにはちゃんと聖女ルートもある」

「はぁ?」

 眼鏡をかけてもいないのに、くぃってやる素振りを見せながら爆弾発言をする葵。

 今そんなコメント求めてないんだが……。


「ふっふっふ。そうなのですね。それは良いことを聞いたわ。さぁ、惚れなさいレオ!」

「バカじゃねーの? そんなので惚れるやつがどこにいるんだよ!?」

「あなたは棒でしょ? だったら大丈夫よ。ほら、おっぱいですよ~」

「うるせ~よ!? なにやってんだよクソ女!?」

「クソ!? 言うに事欠いて、クソ!? 酷いわ、レオ。あんなに愛し合ったのに!?」

「どこでだよ!? 俺、全部拒否ってただろ? 告白とかもしてないし!!!」

「本当はしたかったのね? もう大丈夫。王子クズは永遠に檻の中にぶち込んだから気にする必要はないわ。さぁ、私たちは愛し合いましょう!?」


 これは逃げないとまずい。

 聖女のくせになにやってんだよ!?


「あれぇ? 聖女ってこんなに押しの強いキャラだったっけ?」


 葵!

 のんびり感想呟いてる場合じゃないんだよ!?


 いいのか?


 俺の貞操が悪女に奪われちまうぞ!?

 おい!!!?










「お義兄さま……楽しい人たちですね?」








 あっ、あれ?

 そう言えば、俺、リアに何も話してなかったような……?



 お邪魔な女どもを振り払ってそのまま土下座したのは言うまでもない。

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