第34話 決戦 魔王!(前半:魔王視点、後半:バゼル視点)

 ついにやって来た勇者。

 よくも私のクラウスを……許せないわ!?

 ブルトラッケのことはありがとうなんだけど、とにかくいざ決戦よ!


「"光をすべからく飲み込む闇の大口ラクス・ラガロ・ラガト"」

 私は持てる力の全てをもって、そのふざけた男を迎え撃った。

 それくらいやらないとこの勇者にはダメージを与えることはできないだろう。直感的にそう感じた私は、瞬時に発動できる全魔力を集中させて大技を放った。


 これで多少はダメージを与えられたはず。

 いや、与えていて。

 そうすれば、あとは細心の注意を払って攻撃を当て続ければいいのだから。


 しかし、その強さはまさに主人公だった。

 っていうか、予想以上過ぎた。


 私もゲームの中で何度となく使った偽神葬滅ヴェグナレクス……は、私には通じない。

 でも、それをきっと理解しているのね。


 私の攻撃はほぼ効果を発揮しておらず、勇者に傷は見えないし、そもそも怯む様子すらない。

 私の全力の攻撃だったのに?


 その衝撃は大きい。

 いや、大きすぎた。


 だからこそ、一瞬注意を忘れてしまった。


 その隙に勇者から放たれたのは光属性の魔法や攻撃。

 っていうか、視界を埋め尽くす光攻撃の嵐なんて、さすがに想定外すぎるわよ!?


 ふざけんな、こんなの無理ゲー過ぎるでしょう!?


 必死に避けた。

 私はもう、的宛ての的。

 できることは死に物狂いで避け続けること、ただそれだけ。


 

 もう何発避けたの?

 まだ終わらないの?

 

 しかし気を抜くことはできない。

 目を開いて前方を確認することもできない。

 ひたすら魔力を感じ、体を動かし続けて回避し続ける。


 私が避けた攻撃が城に着弾して、あっさりと床や壁をぶち抜いてるのが見える。

 この城は古参の魔物であるグオルヴァが文字通り命を削って魔法障壁をかけて守ってるはずなんですけどぉ!!!?

 

 

 こんなのってない。さんざんボロっカスにされて、逃げたのに捕まって無理やり連れてこられて、仲間も数人いるけどみんな私を崇めるだけ。

 それがあるから逃げれもしない……逃げたら魔族は殲滅されるですって?


 だからなんとかここに踏みとどまっていたのに……こんな化物、どうしろって言うのよ。

 

 初手で繰り出した私の死にものぐるいの攻撃はあくびでもするかのようなのんびりとした動作で消された上に、なんなのよこれ~~~~!?


「!?」

 そして捕まれる私の腕。

 ようやく全部避けたと思ったのに、もう勘弁してよ。

 

 続く2手目にして起死回生を狙うしかなくなった……。

 力の差が酷すぎて……。


「"無慈悲なる鋼鉄の強撃クルーデル・フェルム・フランゴール"」

「ふん」

「あぁ!?」

 

 そんな切羽詰まった私は今度は範囲を絞って勇者の腕から胸のあたりを狙った魔法を放つが、あっさりと蚊でも叩くかのような気軽さで叩き落とされ、チェックメイト。

 

 もう、この腕から逃れられる未来が見えない。

 きっとこのまま殺される。

 これは確信……。


 ダメだったよ……ボラボラ……。

 この世界に無理やり呼び出された何もわかっていない私を散々いたぶった許せないやつら。

 その仲間である聖女を名乗るケバイ女だけはせめて道連れに、なんて戦いが始まるまでは考えていたのに、そんなことはもう不可能になった。



 そして私の魔法を叩き落とすために振るわれた勇者の腕に込められた力の余波によって、私が纏っていた仮面が破壊されて落ちていく……。


 きっとこんな風にあっさりと私自身も粉々にされてしまうのだろう。

 それくらい残酷な力の差があった。


 もう何も感じない。

 怒りも、悲しみも、恐怖も……全部置き去りにされた。


 ただ、涙だけが勝手に零れそうになる。



「クバラ・ドゥバラ・バルタ!」

「なに!?」

「えっ?」


 そこに飛んできたのは、見たこともない黒ずんだオレンジ色の光の筋。


 勇者は私の攻撃を軽く叩き落とした時とはうって変わって、体全体で回避した。


 

 ってなんで勇者が泣いてるの?

 

 

「葵?」






「へっ?」





◆バゼル


 まずいまずいまずいまずい。


 これはまずい。


 なにがまずいって、歯が立っていないことがまずい。


 力の差がありすぎて、まるで幼子と騎士が戦っているかのようだ。


 こんなことでは、勇者の一撃で魔王が消し飛んでしまう。


 っていうか、なんだあの光魔法の数は。


 一発一発がそこらへんの魔物どころか、威勢よく勇者に斬りかかった魔王軍の幹部を消し去れるほどの威力だ。


 あれが一発でも当たったら魔王は消し飛ぶかもしれない。

 

 それはまずい。


 そんなことになったら、一定以上の生贄を捧げて、再度魔王の力を呼び起こさなければならなくなる。


 そのためには本当は精神を残してこの世に留まらせているサーシャを使わなければならないのに、あれは数年前に勇者の近くで観測された後、どこかに行ってしまっている。


 そもそも、国王による魔王召喚は、ゼロから魔王を生み出すものではないのだ。

 むしろ、魔王の力は常にこの世界にあるのだ。


 そこに魂が入っている時は魔王として動き、魂がないときは眠っている。

 ただそれだけだ。


 つまり、国王による魔王召喚は、この世界に存在している魔王の力を持つ躯に魂を入れ込んでいるだけだ。

 

 そんな魔王の器は、腹立たしいことに勇者の力であれば消し飛ばすことが可能になってしまっている。

 

 だから、なんとしても阻止しなければならない。


 もしそんなことをした勇者がいれば、その後酷い目にあわせ、魔王を消すなんてことをその後思いとどまらせなければならない。


 しかし、今回は失敗した。


 長らく、魔王を消し去るような勇者がいなかったせいで、消し去った場合の悲劇が語り継がれていない。


 ワタシは気を抜いてしまった。

 いざ失敗してもサーシャを使えばいいと、思い込んでしまっていた。

 


 それがミスだ。

 今さら対処できない。



 これはまずい。


 本格的に、詰んだかもしれない。



「クバラ・ドゥバラ・バルタ!」

「なに!?」

「えっ?」


 力を流出して干からびたワタシに放てる最大の魔法を放ち、なけなしの延命をすることくらいしかもうできない。


 

 が、勇者の攻撃がやんだ。

 魔法を放ったかいがあったのか?

 

 

「葵?」






「へっ?」










 どういうことだ?

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