第5話 VSスライム、ゴブリン

 スライムボールを片手に握りながら、俺はダンジョンの奥へと足を進めた。

 さっきの戦闘から、ほんの数分しか経っていない。けれど――


(たったひとつ、“武器”があるだけで……こんなに心が落ち着くのか)



俺の手に、自分で作った、自分のための、ちゃんと効く“武器”がある。


 その事実が、心の奥に一本の芯を通してくれていた。 しばらく進むと、通路の奥にまたしてもあの青い影が見えた。

 スライム。さっきのより少し大きいが、構造は同じ。


(よし、試すチャンスだ)


 俺はゆっくりと距離を詰め、気づかれない位置まで近づく。


「……いくぞ」


 構えて、投げる。


 スライムボールは、思ったより軽く、まっすぐ飛んだ。


 ──ビチャッ!


 粘液がスライムの表面に命中。体の上部を包み込むように広がり、

 ぷるぷる震えていた動きがピタッと止まる。


「マジで止まった……!」


 驚きと同時に、即座に駆け寄る。

 さっき拾い直した短剣を構え、今度は落ち着いて“コア”を狙う。


 突き出す──


 ──グシャッ。


 短剣の先端が黒い核を突き刺し、スライムが一瞬で崩れ落ちた。


『【スライムの粘液】を獲得しました』


「……勝った。ちゃんと、“自分の武器”で勝てた」


 スキル経験値という表示も出た。

 たしかに、俺は“戦った”んだ。

 スライムに勝った。偶然じゃない。ちゃんと狙って、止めて、倒した。


「……これが、“俺のやり方”か」


 力じゃ勝てない。魔法も使えない。

 だけど――“武器を作って、使う”ことで、戦うことはできる。

 俺は、倒れたスライムの残骸にもう一度視線を落とし、素材を丁寧に採取する。


 これが、俺の“仕事”だ。

 そして、これが、俺の“武器商人”としての生き方だ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 スライムを三体倒し、素材を回収し、スライムボールへと武器にした後、開けた場所に出た。

 空気が少しだけ濁っている。湿気に混じって、鉄のような――血の匂い。


(……奥には別の魔物がいる)


 短剣を握り直し、静かに足を進める。

 と、岩陰の向こうから、小さな影がふらりと現れた。


 ――ゴブリン。


 背丈は俺の胸元ほど。

 緑がかった皮膚に、汚れた布切れのような腰巻。

 手には、石でできた粗雑な棍棒を持っている。


 目が合った。

 その瞬間、やつの顔に“ニヤリ”とした笑みが浮かぶ。


「……っ」


 短剣を構える手が、ほんのわずかに震えた。


(相手……人型だ)


 今までのスライムとは違う。

 明らかに“表情”がある。“意志”がある。


(……これって、ほとんど“人”じゃないか)


 言葉はない。けれど、怒りや好奇心や、なにより“敵意”が明確に伝わってくる。


 殺す覚悟が、急に重くなる。


 だが、相手は容赦なく距離を詰めてきた。

 棍棒を振り上げ、まっすぐこっちへ――


「っ……!」


 俺は、とっさにポケットからスライムボールを取り出し、投げつけた。


 ──ビチャッ。


 粘液が命中。ゴブリンの視界を塞ぎ、足を取る。


「今しかねぇ……っ!」


 踏み込みながら、短剣を突き出す。

 だが、やっぱり迷いがあったのか――刃は浅く、腹をかすめただけ。


「ギギッ!」


 ゴブリンが咆哮を上げ、棍棒を振り下ろしてくる。


「っくそ……!」


 よろめきながら避けて、もう一度、突き込む。

 今度は、喉元。迷いを捨てて、重心を込めて――


「うおおおっ!!」


 ──ズブッ。


 短剣が肉を貫き、骨にあたる。

 目の前の敵が、びくりと震えて、そのまま崩れ落ちた。


 ゴブリンの体が動かなくなったのを確認してから、俺はしばらく立ち尽くした。

 呼吸が荒い。手が、震えている。


 スライムを倒した時とは違う。


 これは、“自分で意志を持つもの”を殺した感覚だった。


「……俺、殺したんだな。ちゃんと」


 でも――俺が躊躇してたら、向こうが俺を殺してた。

 だから、これでよかったんだ。きっと。


「……ごめん。でも、俺は生きるって決めたからさ」


 ゴブリンの死骸が光に包まれ、一本の牙だけが残された。

 素材を回収する。

 きっと、これも“武器になる”。


『【ゴブリンの牙】を獲得しました

→ 武器化可能:牙系/刃物適性(短剣)』


 新たな素材、新たな一歩。

 そして、戦うたびに、俺の覚悟は少しずつ“武器”に変わっていく。


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