第13話 配合オタクのメルカ - Part1


「ノエル! 配合士が見つかったよ!」


 僕のモンスターたちの寝床がある牧舎にいたノエルにそう報告すると、彼女は「えっ」と声を漏らして振り返った。


「本当に? どこで?」

「ラバンが導いてくれたんだ。ニーズヘッグ通りから路地に入ったところに小さな食堂があってさ、そこで働いてたんだ」

「働いてた? 配合士が?」


 ノエルは胡散臭そうに眉を寄せた。


「配合士なんか、この町じゃ一番食いっぱぐれない仕事なのに……なんでそんな場末の食堂で?」

「ギルドに登録してないからじゃないかな? ギルドから仕事の仲介を受けられないってことだし……」

「なんでギルドに登録してないのかは聞いた?」

「いや……まだそこまでは。でも事情を話したら、配合はしてくれることになったよ?」


 ノエルは胸の下で腕を組んで、怒ったような顔で僕を見た。


「シオン? 都会には悪い人がいくらでもいるんだからね?」

「いやいや、あの子は大丈夫だよ」

「なんで断言できるの? ……ん? あの子?」

「仕事縁だって74%もあったんだ。絶対に信頼できるはず──」


 僕の言葉を遮るように、ノエルはずいっと詰め寄ってきた。

 つぶらな瞳が間近から僕の顔を覗き込む。

 僕の何かを見抜こうとしているようだった。


「何パーセント?」

「な、何が?」

「その子、女の子でしょ? 恋愛縁、何%だった?」


 ものすごい迫力に圧倒されて、僕はたじろぎながらも言われるがままに答えていた。


「68%……だけど……」

「……よし! わたしの方が上!」


 ノエルはぱっと笑顔になって、小さくガッツポーズをした。

 そんなことで対抗してたんだ──と口に出すとすごく怒られそうだったので、僕は口をつぐんだ。


「女性の配合士は珍しくないけど、シオンが『あの子』なんて呼ぶってことは若いのかな?」

「歳までは聞いてないけど、若いというか……幼く見えたよ。背丈がこのくらいしかなくてさ」


 そう言って僕は自分の胸辺りに手を水平に置いた。

 それを見て、ノエルは首を傾げる。


「まるっきり子供じゃん……そんな子供の配合士なんて……」

「珍しいだろうけどさ。だからこそ、ギルドに登録してないのも説得力があるっていうか」

「子供だからギルドの審査に落ちた……とか? あり得るかも。でもそれだったら、ちゃんと配合所は持ってるのかな?」

「ちゃんとあるって言ってたよ。明日、配合したいモンスターと一緒に来てくれって言われた」

「ふうん……。じゃあ、わたしも行く!」

「そう言うと思ってたけど……一応聞くよ。なんで?」

「シオンの加護を疑うわけじゃないけど警戒はしておくべきだし、もしかしたらすごい配合料をぼったくられるかもだし」

「この街に来て2週間も経ったんだし、もうそんなに世間知らずじゃないよ。心配しなくても――」

「するに決まってるよ」


 またずいっと顔を寄せて、ノエルは言った。


「すごくする!」

「そ……そうなんだ……」


 そう言われたら仕方がない。

 こうしてノエルと一緒に、あの配合士の女の子──メルカのところに行くことになった。








 昨日出会ったあの食堂の前まで行くと、あの特徴的な大きなとんがり帽子が目に入った。

 改めて見ると、おとぎ話に出てくる魔女みたいだ。

 だけど、それをかぶっているのが子供みたいな背丈の女の子だから、何かごっこ遊びでもしてるのかなっていう気分になってくる。


 服装は昨日会ったときと同じウェイトレスの制服だった。

 仕事終わりだろうか? にしても着替えればいいのに。


「お待たせ、メルカ」

「あ、はい……」


 呼びかけると、メルカは広いつばの下からちらりと僕の顔を見上げる。

 それから隣にいるノエルの姿に気づいて、ビクッと肩を震わせた。


「あー、ごめん。こっちはノエルって言って、牧場で僕のモンスターを世話してもらってる子なんだ。今回は僕だけじゃ不安だからって言ってついてきて──」

「ノエル・フーカーです」


 そう言って、ノエルは僕の腕にぎゅっと抱きついた。

 豊かな膨らみに僕の肘が飲み込まれる。


「恋愛縁81%です!」

「……?」

「あ、ごめん。気にしないで」


 戸惑って目を泳がせるメルカに、僕は謝った。

 彼女にはまだ僕の縁結びの加護のことは話していないのだ。

 メルカは帽子のつばと前髪の奥から、ちらちらとノエルの顔をうかがう。


「フーカー牧場の……」

「知ってるんだ?」

「有名だからね、うちの牧場は!」


 自慢しながら、なぜかノエルは僕の肩に頬ずりをした。

 どういう意図の行動なのかわからない。

 そんな僕たちを見て、メルカは何やら顔を赤くしてブツブツつぶやいていた。


「……は、配合してるんだ……大牧場のお嬢様と……夜な夜なモンスターの見えないところで……」


 よく聞こえないけど、有名人と会って緊張してるのかな?

 メルカって極度の人見知りみたいだし。

 このままだと話が進まないような気がしたので、僕は自分から切り出す。


「メルカ、今日は配合所に連れていってくれるって話だったけど……」

「あ……は、はい……」


 メルカはビクッと震えてか細い声で言うと、僕たちに背中を向けた。


「こっちです……」


 とてとてと歩き始める。

 僕たちはそれについて行った。


 メルカが入っていったのは、さらにディープな裏路地だ。

 道というよりは、建物と建物の間の隙間みたいなところで、ほとんど日の光も差し込まない。清掃も行き届いているとは言えなかった。

 どうやらここには格安の貸家が立ち並んでいるようだ。2階の窓に洗濯物がむき出しで干してあるのがいくつも見える。

 メルカはそのうちのひとつの前で立ち止まり、懐から鍵を取り出してドアに差し込んだ。


「ここが配合所?」


 不信感たっぷりに尋ねたノエルを、メルカはちらりと振り返って言う。


「ここは……わたしの家です……」

「え?」


 僕とノエルは顔を見合わせた。

 ノエルがこそこそと囁き声で言う。


「シオンを自分の家に連れ込もうとしてたってこと? 子供のように見えてなかなか……」

「そんなわけないって……」


 メルカはドアを開けて中に入り、こっちに振り返る。


「入って……ください……」


 魔女帽子が薄暗がりの中に消えていく。

 なんだか怪談のワンシーンみたいだったけど、ここで帰るわけにはいかなかった。

 僕とノエルはメルカに続いてドアを通り抜ける。


 メルカの背中は廊下の奥にあった。

 建物の中は意外と綺麗で、床にもホコリが積もっていない。

 だけど物が少なくて、人が住んでいる感じがしなかった。


「ここに配合所があるの?」


 僕が聞くと、魔女帽子が上下に動いた。頷いたらしい。


「本当に? 配合所って神聖な場所じゃないといけないんだよ?」


 その小さな背中に、ノエルが疑念たっぷりに言った。


「親モンスターの魔力だけを混じり気なく子供に受け継がせるために、他の魔力が一切ない空間じゃないといけなくて──」


 メルカは奥まったところにあった部屋に入ると、その部屋の隅っこで床に膝をついた。


「ここです……」


 そう言ってメルカは床板を外した。

 床板の下には梯子のかかった階段があった。


「地下室?」


 僕が尋ねると、メルカは小さく頷いた。

 本当に自宅に配合所を作ってるんだ……。確かに地下室だったら気密性も高いし、無魔力空間を作りやすいかも……。

 地下への穴を覗き込みながら、ノエルはブツブツとつぶやいて、それからメルカの顔を見る。


「でも、お客さんをみんな自宅に上げるなんて危なくない? わたしたちはともかく、他のテイマーも利用するんでしょ?」

「守ってくれる子が……いるので」

「守ってくれる子?」

「そこに……」


 そう言ってメルカは、僕たちの背後の天井の隅を指差した。


「……?」


 さっき見たときは、そこには何も──


 振り返った。

 天井の隅から、ぬっと白い人の顔が透けて出てきた。


「うわ!?」

「ひゃあ!?」


 僕とノエルはビクッとその場で飛び上がる。

 それを見て、白い人面はにぱーっと満面の笑みを浮かべて、天井の隅の向こうに引っ込んでいった。


「シミュラクラだ……」


 人面が消えた天井の隅を見つめて、ノエルが胸を抑えながら言う。


「ランクのゴースト種モンスターだよ……。人の顔みたいに見える模様を見せて驚かせるっていう……」

「……あれは……誰かのテイムモンスター?」


 メルカに尋ねる。

 彼女は〈配合の加護〉を持っているはずだから、テイマーではないはずだ。


「あの子ははぐれです……」

「はぐれ?」

「テイマーに捨てられちゃったモンスターのことだよ」


 ノエルが説明して、メルカは頷く。


「ここの空気が気に入ったみたいで……他にも何匹か」

「ええっ……!」


 僕はキョロキョロと辺りを見回す。


「この家、ゴースト種の群生地になってるってこと? もしかして事故物件ってやつじゃ……」


 メルカは無言で梯子に足をかけ、地下へと潜っていった。

 僕たちは取り残される前に慌ててそれを追いかけた。


 地下には意外と広い空間が広がっていた。

 梯子を降りてすぐのところには椅子が四つ置かれた部屋があって、メルカが灯したろうそくでぼんやりと照らされている。

 その部屋の奥に重々しい石の扉があって、どうやらその奥が配合所のようだった。


 メルカは石の扉の前で振り返って言う。


「配合の儀式は数分で終わりますが、新たなモンスターが生まれてくるまでは一晩かかります……。その間、ここで待ってもいいですし、別のところで時間を潰してもいいです……」


 小さなろうそくに照らされる中、ボソボソとした小さな声で喋られると、まるで怖い話でもされているみたいだ。


「生まれてくる子供には、両親のステータスが半分ずつ受け継がれます……。それと、個体スキルも受け継がれます……。両親の個体スキルが合計4つ以上の場合は、受け継がせるスキルを選べます……」


 えっと、とセリフを思い出すような間があって、メルカは続ける。


「あと……配合をした親モンスターは魔力を失ってしまうので、もう戦うことはできません……。以上です。大丈夫でしょうか……?」

「大丈夫だよ」

「それでは……配合をするのはどのモンスターですか……?」


 僕はずっと頭の上に乗っていたムルヒナのポポを、左腕の上に移らせた。


「1匹はこのポポ」


 それから、肩から下げていたバッグの留め金を外して、その中に入ってもらっていたモンスター——金色に輝くシャインスライムを外に出した。


「もう1匹はこの――」

「シャインスライム!?」


 一瞬、誰の声かと思った。

 だけど、魔女帽子の下で輝く表情を見れば、誰のものかは明らかだった。


 メルカは今まで見た中で一番俊敏な動きで、地下室の床にポヨンと弾んだシャインスライムの前に膝をつき、その丸い身体を輝く瞳で見つめる。


「初めて見た……! え、配合するんですか!? いいんですか!? 種族スキルなくなっちゃいますよ!?」

「ううん、いいんだ。これでEランクのモンスターが生まれるはずだから」

「昇華配合ですか!? シャインスライムとムルヒナで!? そんなの初めて聞きました!」


 今度は飛び上がるように立ち上がって、僕に身体が触れるくらいの距離まで詰め寄ってきた。


「どこで聞いたんですか!? 何が生まれるんですか!?」

「いや、それはやってみないことには……」

「あ、そうですよね……。スライム種かな……ガルーダ種かな……? だけどEランクに光属性のガルーダ種なんて……」


 うつむいてブツブツとつぶやくメルカに、僕もノエルも圧倒されていた。

 もしかして、これが彼女の本性なのだろうか。

 自分の考えに夢中で周りなんか見えてないって感じだ。

 僕は戸惑いながらも、遠慮がちにブツブツとつぶやき続ける彼女に話しかけた。


「あ、あの……」

「え? あ! す、すみません……! わたし、配合が好きで……。どのモンスターとどのモンスターでどのモンスターが生まれるのか調べるのが好きで……。全然聞いたこともない組み合わせだったので、つい……」


 言い訳めいた早口で言いながら、メルカは僕の腕からムルヒナを、床からシャインスライムを、それぞれ両手に抱き上げた。


「それでは儀式をしてきます! 儀式中は絶対に配合所の扉を開かないように!」


 ついさっきまでとは別人みたいな元気さで、メルカは石の扉に「開け!」と呪文めいたことを言って、一人でに開いた石の扉の中に入っていった。




【Tips:配合システムまとめ】


・レベル10以上の2匹のモンスターの魔力を混ぜ合わせ、それらの因子を併せ持った新たなモンスターを生み出すこと

・生まれる子供モンスターには両親のステータスが半分ずつ初期ステータスに加算される

・両親の個体スキルを合計3つまで継承できる(種族スキルは継承できない)

・子供の種別は親の種別のどちらかになる(属性も親に依存することが多い)

・配合を行った親はすべてのスキルと戦闘能力を失う

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