EP 3
ポポロ村と初めての善行ポイント
ルルアに導かれ、拓也がたどり着いたポポロ村は、森の木々を切り開いて作られた小さな集落だった。粗末ながらも手入れされた家々が十数軒ほど肩を寄せ合い、畑では痩せた野菜が心許なげに実っている。村の入り口には簡素な木の柵が設けられていたが、先程の狼型魔物の襲撃で一部が壊れているのが見て取れた。村人たちの顔には疲労と不安の色が濃い。
「ルルア! 無事だったか!」
「おお、見慣れないお人が一緒じゃが…?」
村人たちが二人の姿を認め、駆け寄ってくる。ルルアの腕の包帯を見て心配する者、拓也の異様な服装(現代日本のTシャツとジーンズだ)に訝しげな視線を向ける者、反応は様々だ。幸い、拓也自身は興奮状態だったせいか、擦り傷程度で大きな怪我はなかった。
「この方は拓也さん。さっき、魔物に襲われていたところを助けてくださったの!」
ルルアが拓也を紹介すると、村人たちの間に安堵と感謝の雰囲気が広がった。どうやら拓也の無我夢中の反撃が、魔物を追い払う最後の一押しになったと認識されているらしい。
その後、村の長老らしき人物に事情を説明することになった。といっても、異世界から来たなどと正直に話せるはずもなく、「旅の途中で道に迷い、魔物に襲われたところを皆さんに助けられました」と、当たり障りのない説明で何とか誤魔化した。服装については「遠い異国のものだ」とだけ伝えてある。
長老は拓也の言葉に静かに頷き、「命の恩人だ。傷が癒えるまで、ゆっくりと滞在していくと良い」と温かい言葉をかけてくれた。こうして、拓也はポポロ村にしばらく身を寄せることになった。
翌日から、拓也は何か自分にできることはないかと村の中を手伝って回った。特に、昨日の戦闘で負傷した村人たちの手当ては急務だった。ポポロ村にはちゃんとした医者はおらず、薬草の知識があるルルアが中心となって治療にあたっていたが、人手が足りていないのは明らかだった。
「ルルアさん、俺にも何か手伝えることないか? 昨日みたいな応急処置くらいなら…」
「拓也さん…! ありがとうございます。助かります。じゃあ、薬草をすり潰すのを手伝っていただけますか? あと、包帯にする布を煮沸消毒する準備とか…」
ルルアは最初こそ遠慮がちだったが、拓也の真剣な申し出に顔をほころばせた。
拓也は現代知識を活かして、衛生観念の大切さを(それとなく)伝えたり、効率的な作業手順を提案したりした。例えば、傷口を洗浄する際には一度沸騰させた湯冷ましを使うこと、布は使う直前まで清潔な場所で保管することなど、異世界の住人にとっては当たり前ではないこともあったようだ。
「拓也さんのやり方、すごく合理的ですね。私たちのやり方よりも、傷の治りが早い気がします」
数日もすると、ルルアは拓也の知識と手際の良さに感心しきりだった。
「そんな大したことじゃないよ。それより、もう『さん』付けはやめないか? 同い年くらいだろ、俺たち。ルルア、でいいよ」
ある日、薬草を煎じながら拓也がそう切り出すと、ルルアは一瞬きょとんとした後、頬を赤らめて小さく頷いた。
「……うん、わかった。じゃあ、私も拓也って呼んでもいいかな?」
「もちろん」
こうして二人の距離は少しずつ縮まっていった。拓也はルルアの献身的な姿や、時折見せる年頃の少女らしい笑顔に好感を持ち、ルルアもまた、異邦人でありながら誠実に村人たちを助けようとする拓也に信頼を寄せるようになっていた。
そして、拓也が治療の手伝いをするたびに、脳内にあの機械的な音声が響き、ウィンドウボードにはポイントが加算されていった。
《善行を確認。ポポロ村の負傷者の治療に貢献しました。ポイントが5P加算されました》
《善行を確認。ルルアの治療業務の効率化に貢献しました。ポイントが3P加算されました》
最初の10Pから始まり、地道な手伝いを続けることで、ポイントは少しずつだが着実に貯まっていく。現在、ウィンドウボードに表示されるポイントは「合計:48P」。
(これが、俺のスキル……リサイクルマスターの力に繋がるのか? ポイントを貯めて、あの『あらゆるゴミを出せる』って能力を使うんだよな。一体どんなゴミが出せるんだろう……そして、それは本当にこの世界で役に立つのか?)
拓也は、治療の手伝いの合間にウィンドウボードを眺めながら、そんなことを考えるようになっていた。まだスキルの全容は掴めないが、この「善行」が鍵であることは間違いないようだ。
今はまだ、村の復興と人々の治療に専念する時だ。しかし、いつかこのスキルを使って、自分にしかできない何かを成し遂げられるかもしれない。そんな漠然とした期待が、拓也の胸に芽生え始めていた。
ポポロ村の穏やかな(しかし、魔物の脅威と隣り合わせの)日々の中で、鈴木拓也の異世界生活は、ヒロイン・ルルアとの出会いと、ささやかな「善行」と共に、静かに動き出していた。
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