リズムガーデン・リフレイン ー新たなる鼓動ー
五平
蕾の音色と、遠い残響
第1話:リフレイン・ビート、始動!
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@RefrainBeat_KANA 2025/06/06 18:00:00 JST
#バンド始めます #スタジオデビュー
今日はいよいよ響と梓咲と、私たちのバンド『リフレイン・ビート』の初めてのスタジオ練習!ドキドキするけど、どんな音が出るか楽しみ!
@Tsukishima_Hibiki 2025/06/06 18:05:00 JST
#ドラム担当 #お小遣い危機
奏に無理やりドラム担当にされたけど、まあ、いっか。スタジオ代高いけど、親戚の怜さんのスタジオなら少しは安くなるかも?
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怜は受付にいた。
鼻腔をくすぐる
コーヒーの香りが、
店内に静かに漂う。
いつもの事務作業。
予約のバンドにも
無関心だった。
音楽への情熱は、
とうに過去の遺物。
ショートヘアに伊達眼鏡。
表情はほとんど変わらない。
それが今の神楽坂怜だった。
【突然の再会、響の戸惑い】
ガチャリとドアが開く音がした。
冷たい外気が微かに流れ込む。
同時に、元気な声が聞こえてくる。
「怜さん!お久しぶりです!」
リズムガーデンに現れた響が、
受付にいる怜に声をかけた。
怜は顔を上げ、響をじっと見つめた。
その顔に表情はない。
響は笑顔のまま、固まる。
「……誰だお前」
冷たく言い放たれた言葉に、
響は「え!?」と
素っ頓狂な声を上げた。
「親戚の響ですよ!
忘れたんですか!?」
響が慌てて身振り手振りで説明する。
怜は腕を組み、
わずかに顎を引いた。
怜の視線が、一瞬だけ宙を彷徨った。
記憶の断片を
手繰り寄せるように。
「そういえば昔はこれくらいだったな」
怜は指で、低い身長を示す。
そんな怜の言葉に、響は頬を膨らませ、
ムッとした声を上げた。
「失礼な!私、もう高校生なのに!」
響の背後。
奏と梓咲が顔を見合わせ、
ひそひそと囁き合っている。
「…あれがオーナーさん?」
梓咲は無言で頷いた。
怜は、その様子をただ見ていた。
【バンド名大喜利、思わぬ発想】
スタジオのドアの前。
古びた木の扉が、わずかに軋む。
奏が目を輝かせた。
その声が、スタジオに響く。
「よーし!スタジオ入る前に
バンド名決めよ!
可愛いのがいいな〜」
奏の提案。
響が弾むような声で答える。
「お菓子の名前とかどう?」
怜はカウンターから
その様子を遠巻きに見る。
微かに響く室内のエアコンの音。
響は身を乗り出し、
満面の笑みでとんでもない案を出した。
「じゃあ『ポテチと愉快な仲間たち』!」
その言葉だけで、
塩辛い香りが漂うかのようだ。
響の言葉に、
梓咲は眉ひとつ動かさない。
冷めた視線を響に向け、
氷のような声でバッサリと言い放つ。
「却下。恥ずかしすぎる」
「え〜!面白いのに!」
響が拗ねて顔を背ける。
奏が苦笑しながら響の肩に手を置いた。
その手の温かさが、微かに伝わる。
「うーん…もっと考えよっか」
(笑いながら)
怜は、彼女たちの騒がしさを見ていた。
どこか甘ったるい、青春の匂いがする。
騒がしい奴らだ、
と内心でため息をつく。
【スタジオ料金の現実】
響はスマホの画面を見て、
思わず顔を青ざめる。
「うわっ、高っ!
お小遣いが吹き飛ぶ…」
響が両手で頭を抱えて嘆く。
奏も不安そうに言った。
「このままじゃ毎週カツカツだよ〜」
「私もバイト増やさなきゃかな…」
(遠い目)
響がふと、何かを思い出したように
顔を上げた。
そのまま、怜の方を指差す。
怜はカウンターでコーヒーを飲んでいる。
「でも怜さんのスタジオなら親戚だから…
割引してくれるかも!」
その言葉には、希望が込められていた。
しかし梓咲は、いつもの冷静な声で指摘する。
「割引って…
そんなの勝手に決めていいのか?」
響は「あっ…聞いてみよっか…」と、
少し気まずそうに怜を見た。
怜は、彼女の視線に気づかないふりをして、
淹れたてのコーヒーを一口含んだ。
温かい苦みが口内に広がる。
怜は手に持っていた書類を
トントンと揃える。
無表情のまま、告げる。
「早く始めろ。
そろそろ止まってる時間も計上するからな。」
彼女たちは慌ててスタジオへと向かう。
その背中を見送りながら、
怜は淹れたてのコーヒーを一口含んだ。
熱い液体が喉を滑り落ちる。
「さて、今日からか」
彼女の目に、微かな光が宿った。
スタジオからはすぐに音が聞こえた。
最初はぎこちない。
響のドラムは力任せで、リズムが走る。
叩きつけるスティックの衝撃が、
床を伝って微かに響く。
奏のギターは不安定で、音が揺れる。
乾いた弦を擦る音が耳障りだ。
梓咲のベースはまだおとなしい。
低音は響かず、ただ唸るばかりだ。
音量が小さすぎる。
それでも、音は確かにそこにある。
「下手くそだな」
怜は独りごちた。
彼女はわずかに眉をひそめるが、
その表情はすぐに元に戻る。
コーヒーを飲み干すと、
カップがカチャリと音を立てる。
立ち上がってスタジオへと向かう。
ただ、空調の確認をするような、
事務的な足取りだ。
足元から伝わる床の硬さが、
現実に引き戻すようだった。
ドアを開ける。
室内に充満する、
熱のこもった空気と汗の匂いが鼻をつく。
三人は演奏を止めていた。
響が驚いた顔で振り返る。
「怜さん!どうしたんですか?」
怜は、ふと彼らに視線を向けた。
彼らの顔は、まだぎこちないながらも、
純粋な音楽への喜びで輝いていた。
その表情を見た途端、怜の胸の奥に、
言いようのないざわめきが広がった。
彼女は、その感情を振り払うかのように、
小さく、しかしどこか顔をしかめるように呟いた。
「……うるさい」
響は戸惑い、奏と梓咲は顔を見合わせた。
「もしかして、
私達の演奏がうるさかったですか?」
響が尋ねる。
怜は、無表情のまま、再び目を合わせず、
ただ小さく、そしてどこか冷徹な響きで呟いた。
「ああ。うるさい」
そして、一瞬の間があった。
怜は、まるで仕方がないとでも言うように、
口を開いた。
「…みんな、自分のことだけだ」
短く、突き放すような言葉だった。
響はしょんぼりとうつむいた。
奏と梓咲も気まずそうにしている。
しかし、その言葉の具体的な内容に、
三人はハッとしたように顔を上げた。
三人は、言われたことを頭の中で反芻する。
「みんな、自分のことだけだ…?」
次の瞬間、響が軽くドラムを叩き、
梓咲がベースを弾いてみた。
すると、不思議なことに、
ほんのわずかだが、
以前よりも二人のリズムが
噛み合ったように感じられた。
それは、偶然なのか、
それともあの短い言葉が作用したのか、
誰にも分からなかった。
三人の演奏は続く。
スタジオに響く音は、
まだぎこちない。
彼女たちの未来を奏でているよう。
スタジオのドアが閉まる。
怜は再び受付に戻った。
コーヒーはもう冷めている。
けれど、彼女の心には、
温かい何かが灯っていた。
それは、長い間止まっていた、
彼女自身の「ビート」だった。
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@RefrainBeat_KANA 2025/06/06 21:00:00 JST
#バンド始めました #リフレインビート #スタジオデビュー
今日、初めてのスタジオ練習でした!ドッキドキで、音出すのも大変だったけど、みんなと一緒だと本当に楽しいね!これから頑張るぞー![写真:スタジオで楽器を囲み、ぎこちない笑顔を見せるメンバーたち]
@Tsukishima_Hibiki 2025/06/06 21:05:00 JST
#ドラムって難しい #お小遣いバイバイ
ドラム、思ったより難しいけど、叩いてるとなんか楽しいかも…?スタジオ代は痛いけど、オーナーさんやっぱり只者じゃないオーラがヤバい。
@RhythmGarden_Ray 2025/06/06 22:00:00 JST
#日常 #騒がしい #しかし
今日から騒がしい日々が始まった。まあ、悪くはない。
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【次回予告】
響:「ねぇ奏、キーボード見つかった?なんか変な人来るらしいけど…」
奏:「うん!私、きっと素敵な出会いがある気がするの!」
梓咲:「変な出会い、確定じゃないか?」
次話 第2話 鍵盤の奥に、お嬢様
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