第58話
翌日、山を登り終え、今日も姉妹の住む家へ向かう。
なんだかんだ結構時間が掛かってしまったが、ゲーム時代に正攻法でクリアしようとしたら、街と街以外とで何往復もしないといけないのだ。
実際の世界でそうなってしまえば、数カ月単位の時間がかかってしまっていただろうな。
「こんにちは、ケイアです」
「リヴァルスですー」
『はーい、今開けますねー』
声をかけるとすぐに、扉が開きスカイ自らが出迎えてくれた。
相変わらずの、何とは言わないが『デカい』のだが、今日はそれだけではなく、いつも以上に血色もよく、声に張りがあるように感じた。
「いらっしゃい、二人とも」
「調子が良さそうですね。そのご様子ですと……お薬の調合が上手くいったのでしょうか」
「ええ、そうなの。長年簡易的な薬で小康状態を保ってきたのだけど……必要な素材や薬を全部集められたから、ちょっと強いお薬を調合したのよ。これもケイアさんのお陰よ、本当にありがとう」
そう言って、彼女は俺の手を取り、まるで祈るように抱きしめた。
……埋まった。何が何にとは言わないが埋まった。
「そ、そうなんだ! じゃ、じゃあ最後のお願いってなんなのかな?」
「おっと、そうですね、最後のお願いとはなんでしょう?」
俺とスカイの間に身体を割り込ませたリヴァが、話の続きを促す。
そう、この先は『本来なら一番面倒な工程』だ。
そして同時に『彼女達の進退を決める重要な選択肢』でもあり、さらに言うと『彼女達が仲間になるか主要NPC止まりになるか』を左右する、重要な局面なのだ。
「実は、私達がこの土地を守るのは、独り立ちできる年齢になるまで、という決まりだったの。けれど私の身体が人の多い土地での生活に耐えられないから、任期を伸ばしてもらっていたの」
「アタシと姉さんは、元々はもっと山の深いところにある隠れ里の出身なんだ。それで選ばれた人間がここの守護を任せられる。できるだけ長い年月を守護できるように選ばれるのは子供なんだ。で、本当なら三年前に私達は里に戻るか、どこかに移り住むか選ぶ必要があった」
「でも、私はここよりもさらに何もない、里に戻るのを渋ったわ。ここで手芸をしながら、染色の素材を卸して、静かに暮らしていけるならそれでいいと思っていたの」
「でも、事情が変わった。姉さんは長い間溜めたお金で薬の材料を集めていたんだ。そして最後の素材、今はほとんど使われていない古い薬の成分や、それらを調和、中和させる素材をケイアさん、アンタが持ってきてくれた。だからもう、姉さんを縛るものは何もないんだ」
そういう設定だ。ゲーム時代はその里に実際に行くことは出来なかったが、この世界には実在しているのだろう。
話を聞いていたリヴァが、どこか共感するように深く頷いていた。
「そうよね、外に出たいもんね! 広い都市で、いろんなお店を見て、いろんな将来、生きる道を探して……気持ち、すっごくよく分かるわ!」
「ありがとう、リヴァルスちゃん。私も、広い世界をこの目で見てみたいの。だからケイアさん、これが最後の依頼になります。正直、報酬のアテはありません。でも、その先で必ず私は貴方にご恩を返します。私達姉妹に、リュクスフリューゲンでの生活基盤になりそうな場所を紹介してもらえませんか?」
ここが、最後の選択肢。
ここで紹介した『ギルド』次第で、彼女達の扱いが変わる。
戦闘関係のギルドなら、スポット参戦するお助けキャラとして、紹介したギルドに応じた職業で駆けつけてくれる。
生産関係のギルドなら、そのギルドに応じたショップが将来開店し、格安で高性能の装備を売ってくれる。
だが、今回はリヴァの塔攻略の仲間として参戦、つまりプレイアブルキャラ化する必要がある。
その場合、ギルドに参加していると、ブルースフィア家の信用を得ることができないのだ。
だから――
もう一つの選択肢『個人の工房を用意する』。
これが最後の選択肢であり、彼女達に無所属の職人として、自由に行動してもらうというものだ。
個人で依頼を出し、そして時には自分で外に冒険に出かける、自由なアトリエの主として姉妹で生きていくという選択肢。
だが、ゲーム時代は当然『膨大な金額』が必要になってくる。
必然的に、一周目では特別なプレイでもしないと達成できない金額だ。
だが、俺はこれでも商人だ。それも、地球の知識を生かした商品、食べ物を幾つも手掛けている。
工房の一つや二つ、ローンなしで購入できちゃうのですよ。
「スカイさん、フレイさん。確かにリュクスフリューゲンには組織がいくつもあり、そこに所属して手に職をつけたり、冒険の日々に身を投じる道もあるのですが……既にスカイさんは本職並のアクセサリー職人としての腕も、複雑な薬を調合する錬金術師としての腕もあります。フレイさんもまた、たった一人で採掘や魔物の討伐も行える、ある程度の実力もあるとお見受けしました」
「そう言ってもらえると光栄なのだけど……」
「まぁ、今回は大発生した強力な魔物だから遅れを取ったけど……」
「二人には、どこかに所属するよりも、まずは自由に生きてみるということを経験してもらいたいんです。実は、私が管理している工房があります。そこでフリーの職人として、お二人で生きてみるのはどうでしょう? ギルドを通さないで販売となると面倒な制約も出てきますが、商人ギルドの私が個人的に取引し、市場に流したり顧客を紹介する、という手順を踏めば、面倒な手間をお二人が負担する必要もありませんし。どうでしょう? 個人の工房を持つというのは」
それらしい話をしつつ、提案する。
実際、特定のギルドに所属しないで販売、商売すると言うのは中々に難しい。
だが、俺を介して店に卸すことも可能だし、そこで評判がよければ工房を直接顧客に紹介することもできる。
なんなら、塔の攻略さえ済めば、工房を直接商人ギルドに登録し『商人ギルドお抱えの職人』としてやっていくことだってできるのだ。
「それは、凄く魅力的なお話ですけど……私達、工房を買い取るお金なんて……」
「家賃制だとしても、安定した収入があるわけじゃないからな……」
「初年度は必要ありません。これはいわば投資です。それに、二人には暇な時にリヴァルスの依頼に同行したりして、身体を鍛えて貰おうかと。スカイさんは長年のブランクもありますし、フレイさんも戦闘の経験を積めば、スカイさんの調合や細工仕事に必要な素材を自分で採取しに行くこともできるようになるでしょうし」
「え? 私?」
「そう、リヴァに頼みたいんだ。二人がこれから都市で生きていく為に、同じく都市に出て生活に慣れ始めつつある人間として、二人を鍛えて欲しいんだ」
「責任重大ね……でも、確かに私も二人の力になりたいわ。スカイさん、フレイさん、私で良ければ力になりますよ」
これにて、俺が用意できる全てのお膳立てが終わる。
あとは二人がこの提案を飲んでくれれば……晴れて目標達成だ。
「そんな……そこまで親切にしてもらうなんて……私達にお返しできるものなんて……」
「な、ならアタシが強くなって護衛に……って、リヴァルスがいるもんな」
「私達が生み出すものを、その将来への投資なら……私達が頑張って成長するしか恩返しする方法がない……という訳ですね?」
「そうなります。もちろん、強くなってリヴァルスのお手伝いもしてくれたら俺も安心ですね。常に一緒にいられませんしね、私も行商人なので」
「分かりました。工房の主として、ケイアさんの期待に応えられるようなものを生み出し、そしてリヴァルスさんの手助けができるように強くなりたいと思います。元々、私も自由になれたら己を鍛える必要があると考えていましたから」
「アタシも……採掘道具じゃない、本物の武器で戦えるように訓練は必要だもんな。リヴァルス、今度からアタシのことも冒険に連れてってくれ」
「もちろん! じゃあじゃあ、二人も一緒にリュクスフリューゲンに行きましょう?」
「ああ! 荷造りは……最低限で良いな、元々この家は一族の所有物だし」
「あとは町に降りたら、里への手紙を出して終わり、ですね。元々、近々この場所の視察に里長が来る予定でしたから。結界も新たに張りなおしましたし、今すぐ出発できますよ、私達は」
「良いですね、時は金なりですし、今ならまだ日も高い。では……一緒に山を下りましょう、スカイさん、フレイさん」
こうして、姉妹を無事にリュクスフリューゲンに連れて行けることが確定した。
俺がリヴァにしてあげられる、序盤の山場……多くのユーザーの心を折ったイベント対策は終わりだ。
俺達は姉妹を加え、無事に下山を果たしたのであった。
……塔の攻略の間、ケイアとしての仕事は一度休みにして、久々にグラムとして活動するかな。
塔の攻略が終われば、いよいよ中盤に差し掛かる。
そこからもたくさんのイベントが待ち受けているのだから……準備はしておかないとな?
……手始めに都市を襲う予定の魔物の氾濫、先に潰してくるか。
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