第55話

 山道を案内され、目的地の坑道入り口に辿り着く。

 ゲームならば単純に『ダンジョン』だが、実際の坑道ならば、空気の通りを確保するため、入り口以外にも通気口、つまり坑道に向かって開けられた縦穴が山のどこかに開けられているはずだ。


「換気用の縦穴か。それなら山頂に向かってところどころ開いてるな。それがどうしたんだ?」

「できれば、そちらの穴を半分程度塞いできてもらえないでしょうか? いきなり中に向かうのではなく、外から弱らせるための道具をちょうど持ってきているので」


 俺は殺虫のお香ができるだけ効くように指示を出し、リュックから乾燥した草の束を取り出す。

 ……八束ほどあります。これ一束で野営地一つを賄える程度には効果があります。

 通気口を密封したフレイが戻って来たタイミングで、俺は火をつけた枯草の束を投げ込む。


 通気口をいくら塞いでも、完全密封はできない。

 つまり僅かに隙間の残った通気口に向かって徐々に煙が広がっていくという訳だ。

 更に、俺は自生していた大きな葉を持つ植物を束ね、大きな扇子のようにして煙を奥へ向かって扇ぐ。

 なんというか、気分は女王様を扇ぐ奴隷にでもなった気分だ。


「ケイア、それってなに? あんまり臭いしないよ?」


「対虫用の薬草だね、人間にはあんまり臭いを感じられないけど――もうしばらくしたら中から魔物が逃げてくる。リヴァはそれを撃破してくれ」


 ごめんリヴァ、嘘なんだ。たぶん一〇分もしたら――中で全滅してます。

 こうでも言わないと君『私も戦いたい』とか言って中に突撃しそうなので……。


 そうして、全ての薬草を燃やし尽くした俺は、いい加減出てこない魔物にしびれを切らしたリヴァと共に、坑道の中へ向かうのだった。






 坑道内部は、明かりを確保するための『光輝石ランプ』が随所に取り付けられていた。

 これは冒険者がよく使う道具である『光輝石』を利用したランプで、特殊な溶液の中に一定時間光る光輝石を浸すことにより、輝く時間を劇的に伸ばしてくれるという代物だ。


 ただ使い捨てには変わらないので、数時間程度で輝きを失い、中の石と溶液は交換しないといけない。


 まぁ、寝る時に枕元に置いたりするような用途で使うのが一般的で、アルコールランプと大差がない。

 が、火事の心配や火傷の心配がないので、そういう意味では優れものだ。


「ねぇケイア、どうして殺虫のお香? 薬草? なんて持っていたの?」


「ほら、元々この山に向かう予定だったんだよ。ちょっと欲しい素材があってね。最悪野営も視野に入れていたから、虫対策だよ」


「随分準備が良いね、アンタ。これ、ただの虫よけにしては効果が強いみたいだよ。ほら」


 フレイが指し示す先には、お香の効果で絶命寸前になった魔物、ケイブスティンガーが身体を丸めて地面で動かなくなっている姿だった。


 そう、この魔物はかなり強力だ。なにせ通常のプレイで洞窟に向かえば、数の暴力と個々の強さ、それに強力な麻痺毒の嵐で、最悪の場合プレイヤーがハメ殺されることも珍しくない。


 麻痺対策をしないと本当にクソゲー一歩手前の高難易度ダンジョンと化してしまう。

 ……だから、俺は『虫どころか魔物も行動不能に追い込む強力な薬草』を持ってきていたのだ。


「リヴァ、頭だけ潰してとどめを刺してくれ。こいつの羽と針と毒腺は凄く高く売れるんだ。後で回収しよう」


「本当!? お金になるのね? よーし……どんどん倒すわ!」


「すげぇな……正直、マジで山どころか麓の街だって危険に陥るところだったんだぞ。あいつらが巣を作るってことは、大繁殖の前触れだったんだ」


「運がよかったよ本当。全部始末できたら、採掘も再開できるだろう?」


「あー……それなんだけどな? 実は『無霊晶石』は凄く脆い素材なんだ。だからアタシみたいに採掘に慣れていないと採取は難しい上、ごらんの通りアタシは片腕が怪我で使えない。すぐに採掘するとなると……アンタらに慎重に採掘してもらうしかないんだよ。そうなると手で優しく掘るか、無霊晶石より柔らかい素材でできたつるはし、土だけ掘れるような木製のつるはしがないと難しいんだよ」


「あ、ありますよ。木でできたつるはしと小さなスコップなら」

「なんでだ!? いや、なんでそんな道具持ってるんだよ!」


「いやぁ、鉄製だと重くて持ち運びに不便でして、野営をするならこういう木製の道具を持ち歩くようにしてるんですよ」


 はい、本日背負っている、まるまる膨らんだリュックサックにはですね、ここで発生する一連のクエストに必要な道具は全て収納済みなんですよ。


 装備を手に入れるため……最短で攻略するための下準備は欠かしていないのです。


「はー……なんかすっげぇアタシに都合が良い商人が来たもんだな……信じてないけど今だけはこの幸運を神様に感謝したいよ」


「ね! すごいのよケイアは! たまにすごーく運が良いのよ!」

「運じゃなくて先見の明って言ってくれない? よし、これでほぼ魔物は全滅させられたかな」


 話しながらも洞窟を奥へ奥へと進み、その最中に地面に転がっていた魔物の頭を全てリヴァが潰してくれた。


 が、最深部には一応、ボスとして控えている『ケイブクイーン』が待ち構えている。

 名前の通りこいつは女王蜂であり、こいつが今回の魔物騒動の元凶でもある。

 ……まぁ、ボスだからってお香の効果がないなんてこと、現実世界じゃあり得ないんですけどね……。




「おっきー! これが親玉なのね」

「ひぃ! こんなでっけえのが潜んでいたのか!」

「いやぁ、随分育った女王だなぁ。リヴァ、とどめお願い」


 はい、巨体を床に横たわらせ、ぴくぴく痙攣しておりました。

 こうして、リヴァは強力な魔物を倒し、その経験値を得たのでした。

 道中のとどめも含めたら、もうかなり強くなったんじゃないですかね?


 現段階で、既に俺の修行の影響でかなり育っている上に、強力な剣も持たせている。

 そこに加えて、このイベントで大量の魔物の経験値を稼がせてもらった。


 塔の攻略……俺はそこに関与できないが、代わりに彼女を極限まで強化し、万全の装備を与え、ここから待ち受けるであろう難所を、完全に制覇させるつもりだ。


 この世界が、どういう世界でどうしてゲームと類似しているのかは分からないし、今更そこを気にするつもりはない。


 だが、俺はリヴァを、自分の娘のように思っている。

 不幸な道筋も、理不尽な苦しみも、そして強力な敵も、俺は全て潰し、同時にそれらを自力で乗り越えられる力を、これからも彼女に身につけさせるつもりだ。


「リヴァ、それじゃあ採掘を頼むよ。俺は魔物の部位を回収してくるから」

「分かったわ。ケイアが欲しがってるタリスマン、手に入るといいね!」

「はは、そうだね」


 君へのプレゼントなんですけどね?


 さて、これで彼女は現段階で『一周目をクリアできそうな強力なステータスと技量』と『ずっと使える強力な名剣』と『精神系状態異常を無効化するアクセサリー』を手に入れることになる。


 果たして塔のボスは……この強くなり過ぎたリヴァに太刀打ちできるのでしょうかね?


 ……塔の攻略が完了したらリヴァって覚醒してステータスが割合上昇するんだよな。

 すでに育った状態で割合上昇したらどうなってしまうんだろう。

 目指せリュクスフリューゲン最強の剣士だな!

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