第39話

「……やっぱり隠し通路やそれに関係するものはなし……と。拉致や襲撃の可能性があるとすれば緊急時のどさくさに紛れて、か」


 たとえば、命に関わるダメージを受けた場合。

 この場合は即座に治癒師団のいる医療室に運び込まれ、そのまま教団ギルド傘下の治療院に運び込まれることとなる。


 治療院は、教団ギルド傘下ではあるが全てのギルドが経営に口を出すことが出来る、完全中立の機関だし、ある意味では安全だ。


 だが、移送の間に何かされる可能性だってある。

 つまり警戒するとしたらここになるのか?


「なら新人に紛れ込む刺客に警戒しないといけない……か。こんなことなら俺も新人冒険者ってくくりで出場すれば……ってさすがにOBを新人には出来ないよな……ああくそ、うまくいかないものだな」


「何がうまくいかないものなんですか?」


 と、その時だった。誰もいないはずの闘技場中央にいた俺に何者かの声がかかる。

 振り返るとそこには……何とまさかのリヴァがいた。


「……ここは立ち入り禁止だ。すぐに出ていけ」

「ええ!? ごめんなさい、グラム様が入っていったから見学出来る場所かと……」


「公平を期す為にも立ち入り禁止だ。周囲の人間からのひんしゅくも買いかねん、悪いが外まで連れ出させて貰う」

「ご、ごめんなさーい!」


 ずーりずーり。引きずって外に連行します。

 形だけでもつまみ出された体(てい)でお願いしますよーリヴァさん。


「あれ……あの人……」


 引きずられて外に出される中、リヴァから声があがった。

 何事かとこちらも彼女の視線を追ってみると……そこには、何かと縁のある黒いメイドさんが、何故か険しい表情を浮かべ、こちらを凝視していたのだった。


 何だ……あんなところから……そもそもなぜこんな場所に……。

 まさか……思えば、彼女を見た時はいつもリヴァが傍にいた気がするが……。


「……警戒、しておくか」


 そうか、じゃあ屋敷の前にいたのも、リヴァの所在地を確認する為……か?

 そうだな、あんな短期間でBランクに昇格したからな。

 既に目を付けていてもおかしくはないか。


「ほら、これに懲りたら早く仲間の所に戻れ。秩序を乱すのならば……断罪対象になることを夢々忘れるな」


 彼女を放り出し、そして……申し訳ないのだが、軽く威圧する。

 ごめんなリヴァ……さすがに周囲の目もある中で甘い対応は出来ないんだ……。


「ごごごご……ごべんなざいでじだ……」


 あ、泣いてしまった。やばい死にたい、死にたい、リヴァを泣かせてしまった!

 くそ、なんて日だ!


「……泣くな、本選出場者なのだろう。……今度からは気を付けるんだぞ」

「は、はいぃ……」


 俺はこの場から逃げるように、どこか白い目で見られているような気がしながら、先程のメイドがいた観客席へと急ぐのだった。




「……やはりもういない、か」


 どうやら、こちらが気が付いたことに向こうも気が付いていたようだ。

 これはいよいよもって黒、か?


 俺は、その後も闘技会場の調査をし、そして不審な点が見当たらない事を確認し、自宅へと人知れず戻るのであった。








「すみませーん! ケイアさんは御在宅でしょうかー!」

「はーい!」


 夕刻前、自宅で鎧を脱ぎ、早めの風呂を堪能し、上がったところに外から人の声が。

 出迎えてみると、そこには俺が出資、メニューを提供している売店の統括を勤める、料理人ギルドに所属する男性が立っていた。


「ご無沙汰しています。実は街に戻って来ていると今日知りまして……すみません、実は売店で新しいメニューを提供しているのですが……問題がないか確認に来ました」


「ええ、問題ありませんよ。新メニューはどんどん一緒に出してくださって結構です。ただ、派生メニューと見られる品の場合は、契約通りの料金をお願いしますね」


「あ、はい。そう仰ると思って、試供品をお持ちしました。是非、審査してください」


 おお!? ちょうど小腹が空いていたのでかなり嬉しいのだが!?

 持ってこられたのは、何と……懐かしの、この世界に来てから食べることのなかった『ガーリックシュリンプ』だった。

 おお……これは凄く嬉しいのだが!?


「おお……完全にオリジナルですよ、これは。こちらの売り上げには私は口出ししませんのでご自由に売ってください」


「あ、ありがとうございます! じつは移動式のフライヤーのアイディアがケイアさんだったので……揚げ物を売り出すのはどうしようか迷っていたんです……」


「はは、大丈夫ですよ。移動式フライヤーは発明家ギルドの管轄ですし、そちらの方からも使用料は頂いていますので」


 なるほど、律義な方だ。

 うむ……こうやってどんどん美味しい食べ物が増えてくれると、日々の生活にも張り合いが出るというものだ。


 その後、試供品のメニューを大量に置いて行った統括さんを見送り、帰って来たらリヴァにも食べさせてやろうと、付け合わせのサラダを用意するのだった。

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